第2話 王家の暴挙!
王家というより国王としては、私との婚約は絶対だと考えている。ルイスも最初のうちは表向きはエリザベスを婚約者として扱っていた。だけど、何をしてもエリザベスがルイスを愛し続けたため、エリザベスへの嫌悪やユメリアとの浮気を隠さなくなったという経緯がある。
どんなにルイスが私を嫌っていても、婚約破棄をするつもりはないのだろう。うっすらと本気であると感じ取ったのか、国王を出してくるとは大人気ない男だ。
「わかりました。すぐに行きますので、馬車の準備をしておいてください」
国王に言われたからといって、意見を翻すつもりはさらさらないけど、早めにはっきりとさせておいた方がいいだろう。向こうが機会を設けてくれるというのだから、こちらも受けて立つことにした。
「王家の馬車を用意してあるので、そちらを使うようにとのことです」
「いや、それは断っておいてください」
「かしこまりました。お嬢様」
気を使って馬車を手配したように見せたつもりだろう。移動手段を押さえておきたいという下心が丸見えである。最悪の場合は、強引に事を運ぶつもりなのかもしれない。気をつけておいた方がいいだろう。
「お嬢様、お気を付けください。王家は過去に婚約破棄しようとした令嬢を襲って、取り消させた過去がありますので……」
王家に対して婚約破棄を迫ったことは過去にもある。その時には、王宮内で令嬢を強姦して、婚約破棄を取り下げざるを得ない状況に追い込んだらしい。そんな犯罪行為も王家の権力で握りつぶしたというのだから、あきれたものだ。
だけど、私はただの令嬢じゃない。『深淵の愛し子』の力は、深淵に呑み込まれていなくても発揮しているようだ。現に圧倒的な魔力だけではなく、身体能力も相当に高い。鍛えていけば、さらなる向上も見込めるだろう。
「大丈夫だとは思いますけど。念のため、サラもついて来てくれますか?」
「もちろんです、お嬢様」
サラや執事を伴って王宮へとやってきた。執事には馬車に待機してもらって、サラを伴い謁見の間へと向かう。国王と王妃が玉座に腰かけ、その脇にはルイスとユメリアが立っていた。ユメリアは公式の場だというのに、非常識にもルイスの腕に抱きついている。
「エリザベス・アーネスト。参上いたしました」
「此度は非公式な謁見ゆえ、楽にするがよい」
一応は丁寧にあいさつする。だけど散々エリザベスを無下に扱ってきた彼らには、私も敬意を払うつもりはない。単刀直入に用件を尋ねる。
「用件は? 婚約は破棄を撤回するつもりはありませんよ」
「まだ、そんなこと言ってるのか! わがままを言うのもいい加減にしろ!」
「そうよ! アンタは、どれだけルイス様を困らせれば気が済むの?!」
私の主張に過剰反応をするルイスとユメリア。それを横目に見ながら国王は苦い顔をする。
「お前たちは黙っておれ」
静かに告げる国王のただならぬ雰囲気に二人は口を閉ざす。もちろん表情からは不満が駄々洩れだった。ルイスはともかく、ユメリアが婚約破棄に反対している理由がわからないのだが。謁見の間での立ち位置も、すでに王太子妃みたいだし。
「婚約の件だが、余としてはエリザベス嬢の他に相応しい人間がいるとは思わないのだが……」
国王は目が悪いのだろうか。すぐ隣でルイスとユメリアがイチャついているというのに完全に無視しているようだ。もっとも、私は五歳に婚約者にされて以降、ずっと王太子妃教育をしてきた。その教育係は王家で賄ったのだから、惜しいと思う気持ちはわからなくもない。
だけど、それなら隣の二人の行動をいさめるべきだろう。こっちに責任を擦り付けるのは正直言って筋違いである。
「そこにいるではありませんか。もっと婚約者に相応しい人物が」
ユメリアを指差すと、国王夫妻とルイスとアメリアがあからさまに顔を歪めた。三人はともかく、ユメリアは婚約者になりたいのではないのだろうか?
三人も、私の魔力は闇属性だけど、ユメリアは光属性であることを知っているはず。イメージ的にも彼女の方が婚約者に相応しいことは理解していると思うのだけど。
「だが、彼女は教よ――魔力はエリザベス嬢に比べると少ないではないか」
「ユメリアの魔力は歴代の聖女と比べても遜色ありませんよね? それに、彼が愛しているのはユメリアだけ――でしたら、私を婚約者にしておく意味はないでしょう」
国王の口から思わず本音が漏れる。その理由が、教育費がもったいないのか、ユメリアの王太子妃教育の進みが悪いのかはわからない。彼としてもユメリアの淑女にあるまじき振る舞いは許容できないらしい。
「そうか……。だが、ルイスの方も何か誤解があったのかもしれん。もう一度、二人きりで腹を割って話し合いをするべきではないか?」
「……わかりました。私の意思は変わりませんけど。それで納得していただけるのであれば」
「恩に着る」
私は衛兵に案内され、別室へと連れていかれた。サラも付いていこうとしたけど、二人きりでの話し合いということで、私とは別の部屋で待機することになった。
「お嬢様、お気を付けください」
「わかってます」
連れていかれた部屋には私一人だった。ルイスは準備があるので遅れてくるということで、出された紅茶を飲んで待つことにした。
甘い香りのフレーバーティーを飲んでいると、緊張のせいか体が熱くなって、心臓がドキドキと早鐘を打ち始める。少しだけ気分が高揚して、ふわふわと浮かぶような感じになった。
「そろそろ頃合いか?」
そう言いながらルイスが部屋へと入ってくる。話し合いをするにしてはラフな服装のような気もするけど、頭がボーっとして意識が回っていない。
「話し合いするのはいいですど、婚約破棄を撤回するつもりはありませんからね!」
「まあまあ、その辺はゆっくり話し合おうじゃない――かっ!」
気分が高揚してたせいで完全に油断していた私は、無意識に拒絶の意思を表すように背を向けてしまう。その隙に彼は背後から近寄って私の胸を揉み始めた。