震・ヤンでれ…捜索…
さて、将が家を飛び出し(逃げだし)てから約1時間が経過しようとしていた時、
ガタンッゴトンッ
現在将は、電車の中でゆったりと座り、適当に彷徨っていた。
「危なかった……」
そう小さくつぶやきながら汗を拭きとる。
あの後、家を飛び出した後、将は少し商店街を彷徨い、姿を消すのに最適な場所を探していた。そして思いついたのが、電車で自分もしらない土地に行くことだ。
これならいくら静香たちでも見つけることはできまい。
そう思った将が、ふっふっふとなぜか馬鹿みたいに含み笑いを上げる。
そんな将を周りの人々が疑視しているとも知らずに、笑う。
電車に乗って30分ほど経過したところで、将はようやく電車から降りた。そこは将がいたところに比べると田舎で、駅前だというのに周りに建物があまり建っていっていない場所であった。
「よし、さすがにここなら静香たちもおってはこれまい」
見知らぬ土地を見て、満足そうに頷く。
それにしてもこれからどうするか、見つからないのはいいとしても、少なくとも夜まではこの見知らぬ土地で過ごさないといけないわけだし、どこかで暇潰ししないといけないし、
考えながら改札を通り、もう一度辺りを見てみる。
「とは言っても、何もないな~」
う~ん、と頭を悩ませていると、大きな看板のようなものを見つけ、近づいていく。
「この辺一体を表す地図か」
それは、この駅周辺を細かく記してある案内地図板だった。
さ~てと、何かいい暇潰しになるところはっと、
何か暇潰しできる場所はないか、地図を確認していく。
「お、ここは……」
すると一ヶ所に視線が止まった。
ここからそんな遠くないし、暇も潰せるな。
うん、と一回頷くと、地図を写めり、その場所へと足を向けた。
「ここを通ったのは間違いないみたいですね」
将を追うように家を飛び出した二人は、現在別々に探していた。
まったくお兄様ったら、急に逃げ出すなんて、よっぽどあのGのことが気にいらなかったんですね。
静香が訪れているのは商店街、先程将が通っていた道を歩いていた。
お兄様の匂いがさすがに薄くなってきていますね。このままでは探すのが面倒になってしまいます。急ぎますか。
そう言い聞かせ、再び鼻をぴくぴく動かす。静香は、愛しのお兄様の匂いを一日12時間以上嗅いでいるため、いつしか犬のように匂いを辿っていくという芸当ができるようになっていた。しかしそれでも、商店街では煙草や色々な人の匂いのせいで、将の捜索を困難に陥れていた。
そしてようやく将の匂いがどこへ向かったのかを特定させる。
この方角は……やはり駅ですか、まぁお兄様の性格、思考を考えれば9割の確率でこの市には残っていないと思っていましたが、
将の考えを知り尽くしている静香は、もうここの市に将はいないとわかっていたが、凛のこともあるため、万が一ということを考え、確実にことを進めていたのだ。
行き先がわかった静香は、さっそく駅へと続く道に足を向ける。
「あ! 何この子、めっちゃ可愛いじゃん!」
お兄様が駅に向かったということは、電車で移動したということ、急がないと面倒なことになりそうですね。
「ねぇってば!」
何だ? この馬鹿。
突然進行方向を遮ってきた男の存在にようやく気付いた。多くの女性を周りにはびこらせているその男に、静香はゴミ男Aと名付けた。
ゴミ男Aは、茶髪で、耳にピアスなどをあけ、明らかチャライ格好をしていた。この商店街をよく通るのか、周りのお店のおばさん達が、厄介そうな視線を向けていた。
「なんですか? どいてください。ってかどけ」
兄がいない時も、なるべく良い子に振る舞っている静香だが、今は将のこともあって機嫌が悪い。
しかし、そんなことまったく関係なしに、ゴミ男Aはしつこくナンパを続行してくる。
「まぁそう言わずにさ、これからご飯食べに行かない? もちろん俺の奢りで」
そんなことを気持ち悪い顔でほざくゴミ男Aに呆れ、無言で横を通り抜ける。しかしゴミ男Aは諦めずに、後ろから追ってきた。
「それならさ、好きなもの言ってよ! 何でもプレゼントするから」
「……」
「あ、俺は大石 秀雄、あの大石グループの息子なんだぜ? すごいっしょ?」
勝手に自己紹介をし始めたゴミ男Aは、自分が金持ちであることを主張しながら付いてきていた。まぁ眼中にないですが、
「だから行こうぜ? な」
そう言って、ゴミ男Aは腕を掴んだ。
掴まれた。
お兄様以外の男に、腕を……
掴まれた。
「消えろ」
その後の静香の対応があまりにも速かったため、スローで流します。
ヒュッ(振り向きざまに足払いする音)0.5秒
ドコッ!!!(浮いた体をけり抜く音)0・2秒
バコン!(十メートル近く飛んだ後、ゴミ捨て場に頭から突っ込む音)1秒
以上により、目標は完全に沈黙。周りの取り巻き、店の人も声を失ってしまった。
「ゴミの分際でお兄様のものである私に触れるなんて……」
殺す。と言いたいところだけど、これ以上こんなところで油を売っているわけにもいかないし、先を急ぎましょう。
そして静香は、無言になった商店街を再び歩き始めたのだった。
「まったく将君ってば、逃げることないのに」
現在凛は、静香と違う道のりで商店街へとやってきていた。今は帽子を購入し、少しでも顔を隠して行動していた。
は~、面倒くさい、けどこれくらいはしておかないと、すぐ声をかけられちゃうし。
そう、彼女はもと大人気アイドル“TENSHI”だ。なので変装なしで外を出歩くと、たいてい声をかけられてしまうのだ。
まぁ変装といっても、本当に帽子を被るだけだが、案外それだけで気付かれないものである。
それにしても将君ったら、私がお金を貯めている間にあんなKに気に入られるなんて……まぁかっこいいからしかたないかもしれないけど、
凛の頭の中で将の妄想が広がっていく。
……えへへっ
「お母さん。あの人美人さんだけど顔がすごいよ?」
「しっ! 静かにしてなさい!」
周りからの奇怪な視線に、凛の緩みまくった表情が元に戻る。
はっ! 私としたことが、ついつい妄想に夢中になっちゃった。さてと、とりあえず気配からこっちに来ていたことは間違いないみたいだけど、
口から垂れていたよだれを拭きながら、目の前の建物、駅へと入って行った。
改札のところまで来て、カードをかざそうとポケットを探る。
「あ、カードを忘れた……」
けどお金あるからいっか、確かキップ? とかいうのを買わないといけなかった気がする。
今までは、マネージャーからもらったICカードをかざすだけで通っていたため、切符の存在を名前だけしっていた。
そう考えながら隣を見ると、知らない人が小さい紙を通しているのを見て、確信する。
あの小さいのが切符、ということはあそこの機械で買うんだ。
そこまで理解し、なんとか切符の購入機の前に立つ。画面に表示されている切符を迷わず押し、面倒なので一万円いれて一番高いものを購入した。
私はまた、大きなことを成し遂げたよ! 将君!
一人で切符を購入したことに感動を浸ると、急いで電車に乗るため、もう一度改札へ向かうが、
「ねぇ、君ってもしかしてアイドルのTENSHI?」
変なのに絡まれてしまった。
「違います人違いです。では急いでいるので」
そう言って穏便に済ませようとするが、通せんぼうするかのように男が前に立ちはだかる。
それを思わず殴り…そうになるのを寸前で、
「だよね! あ、じゃあこのあとデート、げふっ!」
止めずに腹に一撃を食らわせてやった。私をデートに誘っていいのは未来永劫将君だけだっていうのに何言ってんだコイツは?
腹に一撃をくらい気絶している男を、知らぬ顔で放置しながら切符を通して改札を抜ける。
待っててね将君! 今迎えに行ってあげるから!
そして凛は階段を駆け上がる。
……切符を置き去りにしたまま……