震・ヤンでれ…風呂…
「……は?」
「だから、今日ここに泊めてっていったの!」
はい、というわけで大変なことになってしまいました。
現在の状況を説明すると、飯を食べ終わり、割れた食器をゴミ箱に捨て終え、リビングへと戻ってきたわけなのですが、なぜか凛が突然今日一日泊まりたいと言い出した始末です。
「一応聞くけど、なんで?」
え? という顔をした凛は、う~んと言いながら可愛らしく顎に指をあてながら考え、何かを思いついたように、パッと指を立てた。
「引越してきたばかりで荷物がいっぱいだから?」
「なぜ疑問系、まぁでもそういう理由なら一日くらい…」
そういいながら視線を横へと移動すると、握り拳を手で覆いながら、黒い笑顔を見せてきている2人の女性がいた、
「…よくな…」
もう一度視線を正面に戻すと、今度は目元に涙らしきものを大量に詰め込んでいる凛さんのお顔が見える。さてこの場合、俺はどちらを取るべきなのだろうか、どちらをとっても危ない気がしてならないが…かと言って、埃まみれの部屋で寝かせるなんて可哀想だしな。
「まぁ、今日ぐらいはいいかな」
「本当!? やったーーー!!」
将の一言に、体全体を使って喜びを表す凛、それに対し、頭に角でも生えそうな程危険な二人が、こちらに向かって反論の声を上げた。
「お兄様? その考えは間違っていると思います」
「将くん? それはよくないと思いますよ?」
「まぁそう言うとは思ってたけどさ、今日一日くらいは良くないか?」
しかしここまで来たら引き戻るわけにも行かない。なんとか二人を説得できそうな理由を探しだす。
「そうだな……じゃあ次の日曜、二人の買い物に荷物持ちで着いていくとかは? 前服買いに行くとかいってただろ?」
「…まぁ幼馴染が困ってるなら一日くらい仕方ないかしらね…」
「そうですね。お母様」
どうやら買い物付添いで手を打つことができたらしい。ほっと胸を撫で下ろすと、時間を確認する。
もう9時か……明日も学校だし、そろそろ寝る時間か
時間を確認した将は、明日の授業を思い出しながら、今だに喜んでいる凛を指さす。
「おい凛、先風呂入れよ」
「何言ってるんですか!? お兄様!」
え、なんかおかしなこといった?
「ゴキブリ、略してGが風呂なんかに入ったら風呂が汚れてしまいます!」
いやお前が何いってんだよ……
「寄生虫、略してKが何を言うんですか……」
お前もなにいってんだよ……
「何よそれ、あなた、Gの分際で私のほうが汚いと言いたいの?」
「あれ? 気づいてなかったの? Kには視力すらないのかしら」
静香の乱入によってまたバトルが発生しそうだ。というかGとかKとか、とても女子がする会話とは思えない。学校の連中にも見せてやりたいくらいだ。
二人の言い争いを見かねた将は、溜息を一度つき、二人の横を通り、冷蔵庫からイチゴオ・レを取り出して、直接飲みだす。
「うめぇ」
「お兄様」
「将君」
さろげなく最近ハマっているイチゴオ・レを飲んでいると、後ろから声をかけられた。
ようやく終わったか? 飲みながら振り返り、
「ぶっ!!」
口に含んでいた液体を横に噴射してしまった。仕方ないだろう? なぜか二人が下着姿という露出狂になっていたんだから。二人はお互い睨み合いながらこちらを向くと、
「「どっちのほうが綺麗?」」
「は?」
そう聞かれ、素直に二人を見比べる。
静香はその雪のような肌に溶け込むような白いフリルのような下着を着ており、もはや肌と一体化しているのかと思うほど美しく、可愛らしさも秘めている。さらに腰まで伸びた漆黒の黒髪が全体を引き立たせ、どことなく大人っぽさもかもしだしている。
対する凛は、特に変わっていない、薄いピンク色の下着を身につけていた。こちらの肌も負けずをとらず白く美しい、しかも凛はクォーターで、白く長い髪をピンクの小さいリボンでちょこんと結んであり、そのせいもあるためか、静香よりも体が白く見える。静香と違い色が全体的に薄いので、可愛らしさが強く出ていた。
って! 俺は何をまじで考えてんだ!? 正気に戻れ俺!
「そんなのいいから、さっさと二人で風呂入れーーーー!!」
「きゃっ、ちょっ、お兄様!」
「将君!」
有無を言わさず二人をリビングから追い出すと、扉を閉め、その場へぺたんと座りこむ。
「疲れた…」
お兄様にリビングから追い出され、仕方なく私はこのGと共に浴槽へとやってきた。
幸いにも将の家の風呂はそれなりにでかいため、二人くらいなら無理をしなくても入れるくらいの余裕はある。
「それにしてもなんで私がこんなGと…」
「それはこっちの台詞だよ」
「でもお兄様のお願いなら仕方ありません」
「…そうだね」
そう言うとお互いそっぽを向きながら下着を脱ぎ、静香から先に風呂場へ入った。
ざばぁーと頭からお湯をかぶり、長い髪を後ろで巻き留め、風呂へと入る。
「ふぅ」
それからすぐに凛も風呂場へと入ってきた。こちらをちらっと見るとすぐにそっぽを向き、髪を洗いだした。
「む」
そしてその姿を見ていたは凛は不覚にも、凛の純白の白い髪を綺麗だと感じてしまった。
私としたことが、あんな髪を綺麗だと思うんなんて…
自分自身を叱咤しながらも、もう一度見てみる。
私のほうが綺麗なのは当たり前ですが…お兄様は白い髪のほうがお好きなのでしょうか……
考えながらジーっと直視していると、ふいに視線が重なり、すぐにそっぽを向く。髪を洗い終えた凛が、静香から少し離れた位置から湯に浸かった。
しばらくの沈黙の後、十分に温まったのか、凛が立ち上がり、静香に声をかけた。
「あなたは…将君のこと…」
「愛しています。この世の誰よりも」
はっきりとそう言い切ると、凛の眼光が静香の姿を捉え、そして口を開いた。
「なら先に言っとく……私はどんな手を使っても負けるつもりはないから」
それだけ言うと、凛は風呂場を後にした。
残された静香は、扉を見つめながら、自分が微笑んでいるのがわかった。
どんな台詞をつかっても??
「それはこちらの台詞よ……」