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ヤンでれ…  作者: XXXX
3/32

ヤンでれ……下

現在夜中の0時、みんなが寝静まった今、静香は一人、将の部屋に訪れていた。


 ガッ!


「?」


 しかし、扉を開けようとすると、何かに引っかかる音が聞こえ、開かない。


――鍵?でもお兄様の部屋鍵はついてないはず、用心棒。


 再度あまり音をたてないよう、数回扉を開けようと試みる。


――この金属がぶつかるような音は、錠前ね、この手の扉に仕掛けられるのは南京錠くらいかしら…まぁなんにしてもそれなら話は早いわ。


 静香は扉を片手で開けようとし、止まったところで少しずつ力を加えていく。


 ギッギギギッ…ガッ


 外れた。正確に言うと、南京錠に繋がっていた板が、ネジごと抜けたのだった。しかしネジが潰れかかっているのを見ると、相当の力がかかったのは一目瞭然だった。


「さてと…」


 部屋に侵入し、静香にとっての日課を開始する。


 その一、お兄様のメールチェック。


 静香は毎日一度、兄のメールを確認している。理由はもちろん兄の異性の把握、友好関係である。


「今日もあいつ以外の人とメールはしていないようですね」


 このときのあいつとは明のことである。兄のメールチェックを終えると、次のステップへ移る。


 その二、お兄様の追加品のチェック。


 この追加品とは、将が新たに買ったものならすべてが含まれる。


「今日はないですね」


 1時間かけて部屋を物色したが、なにもあたらしいものは出てこなかった。


 静香はノートとペンを取り出すと、今日の日にちに×印をつける。


 このノートは秘密の兄ノートである。兄の部屋にあるもの、癖、仕草、好きなもの、嫌いなもの、etcと、兄に関する情報がこと細かにしるされている、いわばヤンノートである。


 その三、異性の好みチェック。


 まぁ簡単に言うと、将のもっている18禁雑誌をチェックして、どんな子が好きなのかをチェックするのである。


「ふむ、何も変わってないわね…」


 将の本棚の一番下、漫画の奥に隠してある雑誌を読みながら頷く。

 パソコンの中もしっかりとチェックする。パスワードが掛かっているが、そんなものあってないようなものだ。


 その四、お兄様の服を一枚回収して撤収。


 こうして静香の日課が終了する。回収した服は使ったあとに洗って返しています。


 ちなみにこれだけのことをしながら一緒に寝ようとしないのには理由がある。理由は簡単、襲うより襲ってほしいからである。


 無理矢理襲ったのでは本当の愛はないと考えている静香は、なるべく自分からは襲わないようにと決めている。


 こうして静香の長い一日は幕をおろす。




 


……


………気配!!


「はっ!」


「きゃう」


 目覚めとともに邪悪な気を感じ、枕を前に出すと、迫っていた静香の顔に直撃した。


 その隙を逃さずにすばやく布団から脱出する。


「む~~、最近どんどん反応良くなってきてます……」


 さりげなく枕の匂いをかいで、恨めしそうな目でこちらをみてくる。


「ふ、いつまでも弱いままの俺だと…ってお前どうやって入ってきたんだよ!」


 そこで昨日鍵をつけたのを思い出して問うと、平然と、


「普通にドアからです」


 言われて扉を見ると、鍵の板が宙にぶら下りながら扉についていた。


「……お前、もしかして人間じゃないとか?」


「愛の力と言ってください、お兄様」


 愛の力でこんなことができたら世界は犯罪まみれになってしまうだろう。


 そんなことを思いながら、部屋から静香を追い出し、制服に着替えるのであった。




「おはよう~」


「おはよう」


「おはよう、お兄ちゃん」


 リビングに下りると、千鶴さんと実は返事をしてきてくれた。


 食べていたパンを咥えながら、近づいてきた弟の頭を撫でようと手をーー


「おはようございます! お兄様!!」


「ぐはっ!」


 とした所に静香が体当たりをしつつ後ろから抱きついてきた。


「お、おはよう静香、だから離れてくれ」


「や」


 それだけいうと抱きつく力があがり、背中で頬ずりしてくる静香。


「やめなさい静香、将くんが困ってるでしょ」


 千鶴さんが将の分のパンを机に置きながら、静香を注意する。


「困ってなんかいないわ、むしろお兄様は喜んでいるもの」


「ええ!?」


 将自身が一番驚いていると、静香は潤んだ瞳をし、上目遣いでこちらを見上げた。


「嬉しくないの…?」


「いや、まぁ、うれしい、かな」


「お兄様大好き!!」


 いや、上目遣いは反則だろ……


 そんな静香を苦笑いで頭を撫でていると、千鶴さんが、少し不満そうな表情をした。


「そういえば将くん、お弁当箱知りませんか? 将くんのだけ見当たらなくて」


「弁当箱? おかしいな、昨日出したはずですけど」


 どこにいったのだろうと二人で弁当箱の行方を考えていると、静香が机の上に、スッと将の弁当箱を置いた。


「今日は私がお兄様のお弁当作りました」


「ちょっと静香、勝手なことはしないで頂戴、私が将くんのお弁当を作っているのよ?」


 自分の役目を勝手に取られたことがカンに触ったのか、千鶴さんは少し怒り気味で静香に言った。


「それも今日までで結構ですお母様、今日から私がお兄様の愛妻弁当を作ります」


「それは許せないわね」


「なにがですか?」


 うおーっとなぜだかわからないが、目の前で未だかつてない親子喧嘩が始まろうとしている。


 なぜだ、二人の背中から虎と龍が召喚されている……!


「…ここは将くんに決めてもらいましょう」


「…そうですね」


「え? 俺?」


 そして突然のキラーパス。


 二人の喧嘩を見届けようと思っていた将は、突然自分に矛先が向いて焦る。


「では」


「どちらのお弁当がいいですか? お兄様」


 詰め寄ってくる二人をみて、どう答えたらいいのかを探し出す。


「どっちも美味しいから交代で作って、っていうのは…」


 そんな優柔不断な回答に、二人はしばらく考え、目を見合わせる。


「将くんがそういうなら…」


「わかりました…」


 そういうことで将のお弁当は毎日交代して作る事に決定した、そのとき弟の実に服をくいっと引っ張られた。


「どうした実?」


「遅刻しちゃうよ?」


「うえ?」


 言われて時計を見る。学校のチャイムまであと十分しかない。


「やべぇ! いくぞ静香!」


「はい! お兄様!」


 騒がしい朝の所為で飯も食えず、将と静香は家を出て行った。




 家を出てから5分、現在将たちは学校に向かって必死に走り続けている。


「はぁはぁはぁ」


「うわぁ、走ってるお兄様も素敵です……」


 そういいながら静香がにやける。


 訂正、必死に走っているのは将だけで、静香はバック走行で将の少し前を走りながら、将の顔を眺めていた。


「お前、やっぱ、バケモンだろ、はぁ」


「失礼ですお兄様、愛の力と行ってください」


「くっそーーー!」


 愛の力ってなんだよ! と思いながら将は走り続けた。




キーンコーンカーンコーン


「昼休みですよ! お兄様!」


「わかってるよ…」


 今は昼休み、結果的にいうと将達はなんとか間に合った。しかしそのかわり、将は昼休みまで爆睡していたのだった。


「さぁ! 早くお弁当食べてください!!」


「わかったわかったよ」


 しつこい静香にせかされながら、渡された弁当の蓋をあけーー閉めた


「たまには屋上で食べるか、静香」


「え? はいお兄様がお望みなら」


「行こう」


 


 そして場所を移して屋上、今日は暑さのためか、誰も屋上には人がいなかった。


「おい静香」


「なんですかお兄様?」


「これはどういうことだ?」


 そういって弁当の蓋を開けると、ご飯に桜でんぶで大きなハートマークが書かれていた。


「愛妻弁当です」


「恥ずかしいからこういうのはやめろ!」


 こんなのを教室で開けたら、間違いなく殺される。


「え~」


 うな垂れる静香を見て、ため息をつく。


「今日はもういいけどよ、ってあれ、お茶忘れてきちまった」


「あ、じゃあ私取って来ますので食べてください!」


「いいのか?」


「はい!」


 そういってすぐに静香は屋上から出て行った。


 行ったのを確認してから、再度弁当を開ける。


「まったく、よくこんな恥ずかしい弁当作れたな……」


 あらためて弁当の中身を見て、苦笑しながら一口食べる。


「でもやっぱうめぇや……」


「そうかよ」


ガンッ!


 知らない男の声がした瞬間、何かで頭をなぐられ、将の意識は一瞬で闇へと落ちた。






 静香は現在兄のお茶を教室から回収し、屋上への階段を登っていた。


「たべてくれてるかなぁ」


 将の食べている姿を想像すると、思わず頬が緩む。


 出来るだけ急いで階段を上り、屋上の扉をあける。


「お兄様! 食べて…」


 そこで静香の言葉は切れた。


 そこに将の姿がなかったからだ、あったのは、ぐしゃぐしゃになった弁当箱と、一枚の紙。


“市外の廃棄工場跡地で待つ”


 そこで静香の考えたことは大好きな兄の安否よりも、先に違うことを考えていた。


――ああ…この人を殺さないと…


 静香は置いてあった紙を握りつぶすと、屋上を後にした。


 






「っつ!」


 将は見慣れない工場の中で目を覚ました。身体を動かそうとしたが、縄で縛られているみたいで身動きが取れない。


 しかもやたら後頭部が痛い。


 そこで自分が連れ去られたのを思い出した。


「よお、目ぇ覚めたか?」


「お前は、サッカー部の…」


「そ、安部武光あべ たけみつだよ、お前にスパイク当てた」


 将の目の前に現れたのは20人ほどの見た目暴力団と、サッカー部のエースの安部だった。


「なんでこんなことを」


「ああ? 何言ってんだ今更、わかってんだろ、お前を使って宮代静香をおびき出すんだよ」


「どうして? がっ!」


 そこで頭を蹴られた、後頭部にも響いて痛みが半端ない。


「どうしてもくそもあるか! あの女、おれが何回もアタックしてやっても全部シカトしやがって、しかも顔まで蹴られちゃ黙ってられるか…少し可愛がってやる」


「そんなこと…すぐにバラして…」


 痛みで気絶しそうなのを耐えていると、安部が高らかに笑った。


「心配後無用、ばれねぇよ! 全員でヤってるところを写メで取っておけばなぁ」


「下衆が…」


 ぶん殴ってやろうと思ったが、やはり腕は動かない。


「へ、いってろ、お前にはちゃんと見学させてやるから安心しな、そうだな、お願いしたら一回ヤらしてやっても…がっ!」


 だから全て言い終える前に頭で顔面に頭突きを決めてやった。


 頭が痛い、めっちゃ痛いが、そんなの関係ねぇ


「それ以上喋るな!!」


「ぐっ、てめぇ! おい、こいつやっちまえ!」


「がっ、ぐふっ!」


 周りにいた暴力団5人に殴られ、蹴られる。


「ったく、おい、気絶させない程度にしとけよ」


 あらかた殴られると、もはや痛みをあまり感じなくなっていた、感じるのは口の中に広がる鉄の味。


「ちなみに助かるなんて思わないほうがいいぜ、ここは暴力団コンドルの本拠地だからな~、ちなみに外にはまだ30人程仲間が見張って…」




 ドガァァァン!!!


 そのとき工場の巨大な鉄の扉が吹き飛んだ。


そのあまりの衝撃にあたり一帯が砂埃で見得なくなる。


「ごほっ! なんだ! どうした!」


 そして砂埃がやむと、そこに立っていたのは、返り血を大量に浴びた、静香の姿だった。


「宮代静香? 外の奴らはどうした!」


「み、みんな血だらけで倒れてます!」


「な、なんだと!?」


 部下の報告を受け驚いている阿部に静香が頬についた血を拭いながら告げる。


「大丈夫、みんな死んでない、ただ通してくれないから痛い目に合わせただけ」


 そのまったく表情の読み取れない静香に恐怖した安部は、焦ったように部下に命令をだす。


「ぜ、全員で掛かれぇ!」


 鉄パイプや、バットをもった男が20人で静香を取りかこんだ。


「やっちまえ!」


「うおらぁ!」


 3人ほどが静香に殴りかかったが、それを指で受け止めると、二人を蹴り飛ばし、一人をバットごと壁に叩き付けた。


「大丈夫、あなたたちは殺さない」


 そういいながら一人、また一人次々と殴り倒していき、ついに最後の一人が血を吐いてふっとんだ。あたりは血の海と化していた。


 宣言どおり生きているようで、あたりから呻き声が聞こえている。


「やっと、あなたの番」


 そういいながら無表情だが、確かに怒りの籠もった目で阿部を見据える。すると安部は倒れていた将の首を持ち上げた。


「あぐっ!」


「っつ! まて宮代! こっちには人質がいる! おとなしくしろ! さもな…」


 ドスッ!


 言い終える前に、静香が投げた包丁が安部の腕に突き刺さっていた。


「うでがぁぁぁあ!!!」


「五月蝿い…」


ドンッ!


 続いていつの間にか近づいていた静香が、安部の腹を蹴り飛ばしていた。十メートル近く飛んだのち、瓦礫の中に突っ込んでいった。


 そして倒れ掛かっていた将を抱きとめ縄を切ると、壁にもたれかけさせた。


「し、静香」


 気絶しそうな痛みに耐え、名を呼ぶと、静香は優しい表情で言った。


「待ってて、お兄様」


 静香は立ち上がると、近くに落ちていた鉄パイプを足で拾いあげると、安部の前へと立った。


 すでに気絶している阿部は、ただ倒れているだけ。そんな安部に向かって静香は鉄パイプを思いっきり振り上げ告げる。


「死ね」


「まて、静香」


下ろすところで、静香の前に立ちふさがった。


将が目の前に現れたことで静香は一瞬目を見開いたが、すぐに冷酷な表情へと戻る。


「待たない、殺す」


「もういいんだよ」


「良くない!」


 そこで静香が声を荒げた。


「そいつはお兄様にこんなひどいことをした。たとえお兄様が許しても私が許さない!!」


「確かに俺もこいつは許せない」


「だったら!」


 どうして!? という前に静香の肩に手を置く。


「でも…俺は家族が…大切な静香が人殺しになる方が、もっと辛いし。嫌だ」


「でも…でもぉ……私は……」


 静香は鉄パイプを振り上げまま、涙を流していた。そんな静香が愛おしくて、無意識に抱きついた。


「ありがとな、静香。こんなに思われて、俺は世界一幸せな兄貴だ」


 そう言った瞬間、静香は鉄パイプを離し、緊張の糸が解けたように将の胸の中で泣き続けた。


 体の痛みなどとうに忘れた。これが静香の言う愛の力などかなと思うのだった。


 その後、警察と救急車を呼び、将達は別の病院へ行った。将は頭の傷がひどいため2週間の入院を言い渡され、現在も医療中だ。


「お兄様~愛してます~」


「わ、こらやめろ静香!」


 あの事件以来ますます静香のスキンシップは激しくなってしまった。しかし、やはり誰かが傍にいるのは安心する。


「将くん、お見舞いに来たわよ~」


「きたよ~」


 そういってお菓子を持って病室に入ってくる千鶴さんと実。


 そして将の隣に座ると、千鶴さんはお菓子を口に運んできた。


「はい、将くんあ~ん」


「え~と」


「がう!」


 反応に困っていると、抱きついていた静香が千鶴さんのお菓子に食いついた。


「なにするの静香!」


「ふん!」


 そしていつものように二人の喧嘩が始まる。


「はあ」


「お兄ちゃんお兄ちゃん」


 そんな二人を見ていると、実がお菓子をっ持って近づいてきた。


「あ~ん」


「あ~ん」


「美味しい?」


「おお、旨いぞ」


 弟の差し出されたお菓子を食べ、頭をなでると、うれしそうに笑う。


 さすが俺の弟だ、可愛い。


 それに気づいた二人が怒鳴り声をあげる。


「「あーーーーずるい!」」


(やっぱり、実に見せるあの笑顔…ズルイ)


 そんなことを思っている静香など知らない将は、これからもずっとこんな日が続くことを節に願ってい た。 

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