震・ヤンデレ……服……
「……バイト……ですか?」
「ええ」
幸代さんは笑顔で言い放つが、対する将は少しためらいがちに答えた。
「……でもバイトって……静香や凛ならわかりますけど……俺もですか?」
「そうよ」
静香や凛は、その容姿から客寄せに絶大な効果をもたらすのは容易に想像できるだろう、それに対して将ができることと言えば、せいぜい本出しと、レジくらいだ。
人数的にもそこまで必要ないだろうし、ぶっちゃけ自分はいなくていいような気がするんだけど……
「将君にも静香ちゃん達と同じ仕事をしてもらうわ、その方が二人もいいだろうし」
幸代の言葉に二人がコクコクとうなずく。
「はぁ」
「それに、明日のバイトは将君がいた方がより効果がありそうだしね」
? 幸代の言葉に違和感を感じながらも、明日は朝からということなので、その日はそこで解散となった。
帰り際、一人掃除している明に一礼し、将たちは家へと帰ったのだった。
すまん、明……
翌日
「お、来たわねあんたたち!」
「おはようございます、幸代さん」
バイト初日から遅刻なんてことになったら困るので、将たちは予定より15分ばかり早く古賀書店へと到着していた。
書店の中ではすでに幸代さんと明がバタバタと動き回りながら、新作であろう本を積んでいた。
そこでこちらに気付いた明もあいさつをしてくる。
「おう、今日はよろしくな、みんな」
「ああ、まぁやれる範囲で頑張るよ」「お兄様(将くん)の写真のために頑張ります」
ほほう、さすが幸代さんの息子だけあって、明は動きがすごくテキパキしてるな。あっという間に新作コーナーが完成してしまった。
こりゃあ俺たちも頑張らないとな。
と、将が明の働きっぷりに触発されて意気込んでる一方、静香たちは――
((絶対こいつよりも役に立って、写真をゲットしてみせる))
また別の理由で意気込んでいたのだった。
「で、俺たちも本並べるのを手伝えばいいんか?」
「いやいや、そんな雑務は明がやればいいのよ
なんか会うたびに幸代さんの明に対する扱いがひどくなってる気がするんだが……いや、突っ込まないでおこう。
「さて、じゃあ仕事の説明するから、ついてきて頂戴」
「「「はい」」」
そうして3人は幸代さんに連れられ、リビングへと場所を移した。
んで……そこで見たものは……
「……えっと幸代さん……」
「ん? 何? 将くん」
「……その後ろにある衣類は一体なんですかね……」
……明らかに昨日はなかったもの。
将がその何かに指をさしながら問うと、幸代さんはすごく怪しい笑みを浮かべながら、こちらを見て返事を返す。
「ああ、これ? これは……あなたたちの仕事着よ」
そういって幸代さんが手に取ったものは――
和服にタキシードにメイド服
……逃げた方がよさそうだな……
直感でそれを悟った将は、その場から離脱をこころみる。
ガシ!
が、当然のごとく両腕を二人につかまれてつかまってしまった。いや、というかまだ足うごかしてないよ!
「離すんだ二人とも、どうやらこのバイトは俺らにはあってなかったみたいだ」
「なぜですか? いいじゃないですか」
「仕事を引き受けたのは将くんなんだから、最後まで責任取るべきだと思うかな」
「ぐっ……」
すっごいまともな返しをしてるから反論できないが、二人の口の端からじゅるりとよだれが垂れているのを見ると、身の危険を感じる。
「それにお兄様なら絶対似合いますよ!」
「私もそう思うよ!」
「え……あ……と」
二人の絶賛につい顔が熱くなるのを感じた。
自分ではわからないけど、案外タキシードとかの正装が自分には似合うのかな。まぁ似合わないよりは似合った方がうれしいんだけど
「「絶対似合うよ! メイド服」」
「そうかそうか……ってそっち!?」
「そっち」
あれーーーーーー、俺の予想してたのと違う!
「そっちは似合っても全然うれしくない!」
「なんでですか!」
「逆キレ!? というかそれ似合って喜んでたら確実に変態だろ!」
「私はたとえお兄様は女装大好きな変態でも平気です!」
「私だって! たとえ将くんが露出狂の変態でも全然大丈夫だよ!」
「おい! まるで俺がすごい変態みたいに言うのやめろ! 俺に女装癖や、露出趣味なんてないぞ!!」
パンパン!!
そんな果てしなく馬鹿げたことで討論していると、突然幸代さんが手を叩いて場を静止させた。
「はいはい、将君が女装癖もちの露出狂っていうのはわかったけど」
「違いますよ!」
「今回は普通に将君はタキシードよ」
幸代さんの言葉に、二人が明らか不満そうな表情を作るというかふつうにスルーされた…
「さぁ、じゃあとりあえず三人とも、さっさと着替えて頂戴」