震・ヤンでれ…ドンマイ…
さてと、この状況どうしよう。二人共なぜか本人を無視して、アニメなどで一度は見たことがあるであろうイベントを発生させている。
大抵そういう主人公は、照れながらも食べるか、食べずに恥ずかしがるなどが普通なんだが、将にはそんな安易な行動を取ることができない。
だって下手したら命なくなるかもしれないもん。
どっちか片方を食べると、多分食べられなかった方がなんらかのアクションを起こすのは目に見えてるし、食べないなんて選択を選んだら、ド○クエのパルプンテくらい何が起こるかわからない。
という理由で、将はどちらも選べないでいた。
「お兄様? 結局どちらを選ぶんですか?」
「いや、どちらをと言われても……」
「まさかここまできて選べないなんて言わないよね? 将君?」
くそ! どうする? こうなったら一か八かでどっちが選ぶか? どちらも、なんて言っても納得しないだろうし……ああもう! 誰かいないか? この状況を壊してくれる救世主は――
将はさりげなく視線を左右へと彷徨わせる。するとたまたま通りかかった男と目はが合った。
「「あ」」
………
……
…
ダッ!(男が走りぬけようとする音)
ガッ!(将がその男の腕を掴む音)
『離せ将!』
『逃がすか救世主!』
『誰が救世主だ、いいから離せ!』
将の掴んだ救世主は明だった。明は将の手を必死に離そうとするが、こちとら危険な状況なんだ、そう簡単に逃がしてたまるか。
「いや~、偶然だな明、こんなところで会うなんて」
「確かに、偶然だな」
明は視線を静香達から外して冷や汗を流している。そりゃそうだ、だって彼女達の視線が『あ? なんでこんなとこにいんだよ』みたい表情を物語っているからな
だが、あくまでも将の前、二人は作り笑顔を作る。
「本当、偶然ですねゴミ、いえ明さん」
「ところでこんなところでなにやってやが……何してたの? 古河さん」
笑顔作る意味皆無だろ、といいたい二人だった。
「何してたのって言われると、飯を食べて帰るところなんだけど」
「本当かしら? 本当は私達のデートを邪魔しに来たんじゃ……」
「ありえる……」
静香の言葉に、凛も明に対し疑惑の眼差しを向ける。
「いやいやありえないよ」
どうやらゲーセンの一件のせいで、明はホモだと認識されてしまったらしい。もちろん将のでっち上げた嘘なのだが、
一方本人はなぜそんな風に思われているかもわからず、ただ苦笑をもらすのみであった。
――すまん、明
心の中でとりあえず謝罪はしておく、だからといってここから逃がす気はないんだけど
――といってもこのままでは埒が……
と考えたところで将は突然頭にあるひらめきが生まれた将は、空いている手で明を指さして二人の美少女に声をあげた。
「明ん家に行こう!」
………
「「「はい?」」」
というわけで、現在将達は明の家を目指して進行している。
「お兄様、それでなんで私達はデート中に明の家に向かってるんでしょうか」
「うん、それは私も思ってた」
二人は揃って怒った口調で言った。というかいつの間にか明を呼び捨てにしているが、まぁそこは気にしなくていいだろう。
「まぁ、それは行ってみればわかるんだけど、それよりも先に腕を離してくれないか?」
「「嫌」」
将は両腕を掴まれた状態で苦笑を漏らす。
実はさっき店を出てからずっとこの状態なのだ。正直ね、こんな美少女二人に腕を組まれて嫌な男はいないと思うんだけど、視線がね……まぁそれも百歩譲って耐えるとして、問題なのは……
「明……」
「いいんだ……気にするな」
そう、微妙な位置に存在する明の存在だ。友人は美少女を二人もくっつけているのに、自分は一人それについていく……はっきりいって苦痛でしかないと思う。ほら、なんかこう……周りの視線の中に、明に対する哀れみの視線も感じるし……
かくゆう将も哀れみの視線を送っていると、突然両腕に力を込められた。
見てみると、二人がこちらの顔を覗きこむようにして、目を細めている。
「……お兄様、もしかして」
「古河くんのこと……」
「一応言っておくけど、俺にそっちの趣味はないからな?」
なんかこういうノリを毎回繰り返している気がすると思いながらも、将は疲れた表情で一応訂正しておく。
本当、こいつらの妄想力には関心するばかりだよ……
ファミレスを出てから約10分やそこらで、将達は目的である明の家に到着した。
「ここって……」
「本屋……ですか?」
将達の前に建っているのは、古河書店と書かれた古い建物だ。
「今時自営業の本屋って珍しいですね」
「それに駅からも微妙に離れているし」
「まぁね、だからここんとこ結構厳しいんだよね、財政的に」
明は苦笑混じりでそういうと、案内するように先頭を切る。古いは古いがちゃんと自動ドアだぞ。
「ただいま~」
と、中に入っていく明に続き、将達も店の中へと入っていく。中は当然のごとく本屋なので本だらけ、そんな中、入って正面、少し先に構えてあるレジに雑誌を読んでいる女性の姿があった。
「こら明、正面から入ってくるなってあれほど……」
女性はやれやれといった感じでこちらに目を向け――
「ってあーーーーー!!!」
飛びあがって近寄って来た。
バキッ!「将、将じゃないの! ずいぶん久しぶりじゃないの!」
「はは、お久しぶりです幸代おば……幸代さん」
「よろしい」
そう言って幸代さんは振り上げていた右腕をゆっくりおさめ。
危ない危ない、確か幸代さんは昔空手をやっていたはず……久しぶりに出会ったそうそう頭を割られなくて良かった……
将が冷や汗を流しながら安堵する。すると突然両脇の二人に腕を引っ張られた。
「……お兄様、誰ですかこの女は……」
「いきなり将君に手をあげようなんて、命がいらないのかな?」
はい、当然の如く殺気丸見え状態のお二人でした。なんていうか、目が本気だから、うん。
「おや? 将にくっついているべっぴんさん二人は誰だい? あったことない気がするけど」
対する幸代さんは今さらながらに将の隣の美少女達に目を向けた。これだけの殺気を込められた威嚇を受けているのに、まるで気付いていないかのような態度は大人の貫録を思わせる。
……とかっこよくまとめてみたが、実際ただ単に気付いていなかっただけです。
「あ~っと、この二人は俺の「嫁」と「嫁」です。っておい!」
「あらそうなの!? しばらく見ないうちに将も肉食系男子に育ったのね!」
「違いますよ! ってかなんでそんなに声弾んでるんですか!」
なぜかテンションをハイにしてる幸代を鎮めるため、二人を前へ押し出す。
「こっちが妹で、こっちが幼馴染ですよ」
「そんな物みたいな言い方はひどいですよ、お兄様」
「そうだよ将くん、デリカシーに欠けるよ」
「だったら最初からちゃんとしてろ、ほら、自己紹介」
バンっと二人の背中を叩いてやると、二人は不満げな表情をしながらもしぶしぶと自己紹介を始めた。
「……はじめまして、義妹(嫁)の宮代 静香と申します」
「私は将くんの幼馴染(嫁)の天塚 凛です」
「色々と突っ込みたいが、まぁいいや、この人は明のお母さん」
「古河 幸代よ、二人ともよろしくね!」
二人は頭だけ下げる。幸代さんは一番古い知り合いの一人で、両親が亡くなった時などは特に助けてもらった恩人の一人だ。
「……あの、私の顔に何かついてます?」
凛が迷惑そうにつぶやいた。さっきからなぜか幸代さんが凛の顔をしきりと気にしているのだ。そして何か思い出したようにポンっと手を叩いた。
「あら、よくみたらこっちの子、HIMEじゃないの? ほらあのアイドルの!」
「え? 幸代さん知ってるんですか?」
「いんや、別に歌を聞いてたとかじゃないんだけどね、最近ニュースとかに良く出てたからね~」
「なるほど」
とか納得したように呟いたけど、芸能関係にうといと思ってた幸代さんが知ってたなんて……
そう考えると、現役高校生である自分がまったく知らなかったことに、将は少しいたたまれない気持ちになった。
「それにしても二人とも本当に可愛いわね~。どう? どっちかうちの明と付き合ってみない?」
「「嫌です、無理です」」
最近二人の息ぴったりなところを良く見る気がする。というか明……
「残念、まぁ私も明と将だった将を選ぶわね」
「はぁ、どうも」
遂には両親にまでバッサリ切り捨てられる明、もはや同情の心しか沸かないな。
「あら? そういえばうちの馬鹿息子は?」
「明ならあそこに」
と将の指を指した方向を見ると、新刊コーナーと書かれた本の山の中で倒れている明の姿があった。さっき幸代さんに押しのけられて頭から突っ込んだのだ。
幸代さんはゆっくりと明に近づいていき、助け出すのかと思いきや、
バキッ「こら馬鹿息子! 何、本汚してるんだい! さっさと片付けな!」
思いっきりケツをけっ飛ばして怒声を浴びせるのだった。
「「「……どんまい」」」
珍しく三人の考えが一緒になった瞬間なのだった。