ヤンでれ……中
今は午前授業最後の体育、男子はサッカーで女子はテニスだ。今は教師の先生が説明をしているため、体育座りで座っている、正直男子は皆女子のテニス姿に夢中だ、そんな中先生の話を一人まじめに聞いていると、隣に座っている明が袖をつんつん引っ張ってきた。
「ほえ~やっぱスタイルいいんだな~静香さん」
「そうか?」
「はぁ?なにいってんだお前?見てみろよ」
そう言われて無理やり顔を掴まれ、テニスコートの方を向かされる。テニスコートではすでに試合が行われており、静香がストレートで勝っていた。
汗一つかいていない、余裕の勝利といった感じだ。
「どうだ?」
「どうだって…まぁ認めるけどさ」
将が静香のスタイルがいいのは百も承知、なにしろ一緒に住んでる上に誘惑してくるのだから、気づかないはずがない。
しかし全てを認めるわけにはいかなった、もし認めてしまったらすぐにでも静香を好きになってしまう可能性がある。兄妹でなくとも、家族だと思っている将は静香を好きになるわけにはいかなった。
「スタイルや顔が良くても性格がな…」
「いやいや、性格だっていいじゃねぇか」
「ぐっ、とにかく!」
「そこ!うるさいぞ!」
ついカッとなって反論しようとしたところ先生に怒られてしまった。将はしぶしぶ謝ると、明を横目で睨み付けた、明も悪いと思っているのか、こちらを見て手を合わせていた。
そして自分達がうるさくしている間にチーム分けが終わってしまったらしい。将はAチームで明はBチームに振り分けられた。
「えーと」
今まさに試合の真っ最中、チームの力も互角なのだが…
「食らえや!」
「死ね!桐ヶ谷」
とりあえず一言
「サッカーじゃねぇよ! なんで俺キーパー!? というかなんで味方までシュートしてんだよ!」
「それは当然お前が憎いからにきまってんだろぉぉ!!」
凄まじい気迫でほえる男子諸君。
確かに、もし自分が彼らの立場だったらそうしたかもしれない。
だがそれは彼らの立場だったらの話だ。
「だからって、おわっ!」
なんとか説得を試みるが、頭に血が上っているためか、誰も話を聞いてくれない。
そんなとき事件は起きた。
サッカー部エースの嫉妬によって最速のボールが将に向かって打ち出されたのだ。
ヒュッ
それでもなんとかしゃがんでボールを交わした。
「あぶねぇ!将」
ガッ!
明の声が聞こえた瞬間、頭に強い衝撃を受け、脳が揺れるの感じ、体か後ろに倒れていくのを感じながら、将の目に当たったものが写った。
――ああ、スパイクか、どおりで硬いと思った。さっきのボールの方がマシだったのか?
それを最後に将の意識は闇へと落ちた。
「お兄様!!」
静香はすぐに兄のところに駆け寄った、兄にスパイクが飛んでいくのを見た瞬間にテニスコートから飛び出していた。
「しっかりしてください!お兄様!」
倒れていている頭を持ち上げて、仰向けにさせる。
その時手に何かが触れた。
「え…?」
…血?
……血,血、血
……お兄様の…血…
「いやあぁぁ!! お兄様が死んじゃう! は、早く病院に!」
頭が少し切れて出ただけで、本当に少量だったが、静香の気を動転させるのには十分量だった。
周りの生徒達は、静香の登場に完全に固まってしまっている。
「保健室!」
そう思った瞬間、持ち上げるために足と首に手をかける。
「大丈夫ですか? 僕が運びましょう」
そう言いながら手を出してくる男がいた。
――こいつ、さっきお兄様にスパイクを当てた奴
「あ、ずりぃ! 俺も運びますよ!」
そういうと多くの生徒が我先にと立候補してきた。そしてスパイクを当てた男の手が将の体に触れる瞬間。頭の中で何かが弾けた。
「触れるな!!!」
「がっ!!」
静香が目で捉えられない速度で男の顔面に蹴りを当て、ふっ飛ばしていた。
そして周りの男子を見据え、警告する。
「それ以上近づいたら……殺しますよ……」
吹っ飛ばされた男は歯が抜け、白目をむいて気絶している。
――本当なら今すぐ全員殺したいところだけど、今はお兄様を保健室に連れて行かなければ
そして兄を抱きかかえると、男子を睨みつけ、静香は信じられない速度で保健室に走っていった。
男子は走り去る静香の姿をただ見ていることしかできなかった。
「ん……」
将はゆっくりと目を覚ました。
するとそこには白い天井が広がっており、薬独自の匂いが鼻をつんと刺激してきた。
そこが保健室だと気づくのに10秒も掛からなかった。
「保健室……っ」
上半身を起き上がらせると、頭に痛みが走った。
「そうか、俺は確かスパイクが頭に」
なにが起きたのかを思い出し、傷が付いている頭に手を触れると、誰かに治療されたのか、頭に包帯が巻いてあった。
「包帯が必要なほど傷が深かったのか?」
ガシャンッ!
何かを落とした音にびくっと反応し、扉の方に顔を向ける。
するとそこには静香が立っており、手に持っていた大量の薬品を地面に落として固まっていた。
「静香?」
名前を呼んだ瞬間、静かは目にも止まらぬ速さ泣きついてきた。
「お兄様~~~!!」
「ぐはっ!」
「心配しました~~~! 死んじゃうかと思いました~~」
腹への一撃に、一言文句を言ってやろう思ったが、本気で心配してくれていることに気づくと、静香の頭に手を置いて微笑む。
「馬鹿だな、こんなことくらいで死ぬわけないだろ……まぁでも、ありがとな、静香」
「お兄様……」
頭を撫でてやると、静香は安心したように目を細めた。
「っていうか、もう放課後なのか、そろそろ帰らないとな」
頭を撫でながら時計に目を向けると、時間は既に5時を回ったところだった。
かなり寝てしまっていたみたいだ。
「しず」
か、と声をかけようとしたところで、小さな寝息が聞こえてきた。
「まったく仕方ないな……」
しばらく寝かしておくか……
が、そこで重要なことに気づいた。
「う、動かねぇ」
静香に抱きつく形で寝られているため、動きが取れない、仕方なく無理矢理抜け出そうと身体を……
「動かない…」
動かせなかった。この華奢な身体の何処にそんな力があるのかまったく想像できなかった。
「頼む静香! おきてくれぇ~」
結局抜け出せたのは2時間後の7時だった。
学校の見回りに来た用務員に怒鳴られて静香はようやく目を覚ました。
家に帰るときには静香にお姫さま抱っこをされるという羞恥プレイを味わうこととなった……
「今日は疲れた~」
帰ってきてすぐに飯を食べ、高速で風呂に入り、現在は自分のベッドでうつぶせになっていた。
「ふぁ~、っと、そういえば今日明とゲーセンいく約束してたんだっけ、悪いことしたな」
携帯を取り出し、謝罪メールを送ると、そのまま充電器に携帯を差す。
「そうだ、今のうちにやっておくか」
ベッドから飛び起きると机の一番上の引き出しを開けた。
中から取り出したのはU字型の錠前だ。いつも朝静香が侵入してくるため、買っといたのだ。
壁と扉に穴をあけ、輪が付いた金属の板を取り付ける。あとは南京錠で輪同士を通してロック。
「これでOKか」
開かないことを確認すると、そのままベッドに入り、安心して眠りへとついた……