震・ヤンでれ…弁当…
「お願いしますね」
静香の背後に周り、腰にタオルを巻いて少し冷たい椅子に座ると、前から手渡されたシャワーとシャンプーを受け取る。
とりあえずあまり意識しない方向で、静香の背中にかかっている長い髪を触る。
めっちゃサラサラしてるな……
いつも綺麗だとは思っていたが触ってみるとまた違う、指を通すと、絡め着くように指の間をすんなり通り、一本一本に光沢があるのか、髪の毛全体が神秘的な美しさを醸しだしていた、
さらに匂いも全然違っていた。いつも自分のと同じシャンプーを使っているはずなのに、静香の髪からは、甘い華のような香りが漂ってくる。
女の髪ってみんなこんなもんなのか?
「お兄様、触ってから既に5分32秒経過しているのですが、まだくんかくんかしますか?」
「してねぇ!」
静香の言葉に一瞬ドキッとし、急いでシャワーで髪を洗い始める。髪を一通り水で濡らすと、手にシャンプーを適量出し、静香の頭をワシャワシャと洗い始めた。
「お兄様、ひとつ質問よろしいですか?」
「質問?」
「はい、あのG……新崎 凛とはいつ知り合ったんですか?」
「どうしたんだ、突然?」
「ただ気になっただけです」
突然の質問に少し戸惑いつつも、昔のことを思い返してみる。
「あいつと出会ったのは中学一年の時だったな~、席替えの時に席が隣だったんだよ」
「それだけですか?」
「う~ん、多分今は平気だと思うけど、昔はあいつ周りから孤立してたんだよ」
「孤立……ですか?」
以外そうな反応をする静香、それもそのはず、ただでさえアイドルをしていた凛が、昔は一人孤立していたなんて想像もつかない。
「んでさ、あいつ髪白いじゃん? それのせいで周りの男子から色々言われてたわけよ。まぁ好きな子いじめだったと思うんだけどさ」
そこまで聞くと、静香は一人納得して頷く。
「それでお兄様が助けて友達になった……ということですか」
「まぁ助けたっていうのは大げさだけどな、そういうこった」
「……まったく……それが決定打ですか……」
はぁ、と溜息をつく静香、将は何が何だかわからぬまま、とりあえず静香の髪についた泡をシャワーで綺麗に洗いながした。
「ほれ、終了」
「ありがとうございます」
「んじゃ、俺はもう上がるな」
「はい」
静香にしてはいさぎいいなと思いつつ、将は風呂場から出て、壁に掛かっているバスタオルを手に取って、体を良く拭いく。
風呂から突然飛び出してこないかをチラチラ見ながら体を拭き終えると、洗濯機にバスタオルを突っ込み、将は自分のパジャマへと手を伸ばし――止めた。
理由は簡単だ、なんてったって自分のパジャマの上に、見慣れないピンクの布地が置いてあったからだ。更にそれを見つけた瞬間に、静香の声が耳に響く。
「それ脱ぎたてなんで使ってください。お礼です・」
彼女のパンティーでした。
「いらねぇし使わねぇよ!!」
「あ! あと使ったら洗わないで返してくださいね!」
「だから使わねぇって!」
叫びながらそのピンクのパンティーを洗濯機の中に叩き込むと、急いで着替えて、自分の部屋へと飛び込んだ。
何考えてんだよあいつは……
溜息をつきながらふらふらとベッドに座ると、静香のことを考え始める。すると先程見た裸体が脳裏に浮かびあがった。
だーーーー!! 何考えてんだ俺は!
頭の中の想像を振り払うように頭をぶん回すと、逃げるように布団の中へと逃げ込む。
悶々とする気持ちを抑えながら、将はそのまま眠りについていった。
翌日、相変わらずの騒がしい朝を送って学校に出発すると、玄関の前では凛が待っていて、一緒に学校に向かうことになった。 もちろん静香は不機嫌だったが、
「それよりあなた、昨日何をやっていたの?」
それは珍しく静香から凛へ向けての質問だった。何かを探るような目で凛の顔を見据えているが、一方の凛は無表情だ。
「質問の意図が読めませんね、私は昨日買い物をして帰っただけですよ?」
「そうだぞ、昨日それで別れたじゃないか」
何を言ってるんだ? 静香の奴。
なぜかこちらの顔を一度確認すると、静香は呆れたように溜息をついた。
「……はぁ、何でもありません」
結局その後も他愛ない話していると、すぐに静香達は学校へと辿りついた。
階段を上り、二階にある自分達の教室に足を踏み入れる。するとそこで最初に足を踏み入れた将が、あることに気付いた。
「おはよう~ってあれ? 人少ないな」
教室の中を見渡すと、そろそろチャイムが鳴る時刻だと言うのに、クラスは今だ半分ちょい、しかも良く見ると、いないのは男子のようだ。
「なるほど……」
呟いたのは静香だった。まるで全てを悟ったように目を細めると、そのまま自分の席へと座ってしまった。
続くように将と凛も自分の席へ座ると、静香に問う。
「なぁ、なるほどって、何かわかったのか?」
「いいえ、何でもないですよ、お兄様」
「そ、そうか?」
「ええ」
それだけ言うといつもの笑顔を向けてくる静香に、これ以上何もきけなくなってしまった。
その後すぐに入ってきた先生の話によると、このクラス以外の多くも男子生徒が風で休んでおり、中には通り魔に怪我を負わされた生徒もいるらしい。
話を聞いた生徒たちは皆ざわざわと騒ぎ始めた。それもそうだろう。これだけの人数が同時に風を引いたなんて、普通に考えたらまずありえないだろう。
ならなぜ休んでいるのか?
皆一様にそれを考えるが、誰もそんなものわかるはずもなく、昼休みになると、ただの面白い話題へと変わっていた。
「お兄様、お昼ご飯にしましょう」
「ああ」
いつものように、静香が青い四角い弁当箱を将の机の上に差し出し、将もそれを受けとろうとするが、
「将君、実は今日は私もお弁当作ってきたんです」
「え?」
なんですと?
その横に赤く丸いお弁当が並べられる。二つにお弁当を前にした将は、とても嫌な汗を流しながらお弁当を見比べ、正面を見た。
うわ~
予想通り、二人は威圧たっぷりの笑顔で見つめあっていた。