震・ヤンでれ…大会…
「なぁ将、俺どうしちまったんだ? 縄で縛られた辺りから記憶が曖昧でよくおぼえてないんだが」
結局今は全員で受付に移動中、どうやら明は蹴られたショックで記憶が曖昧になっているようだった。
「ああ、お前が暴走して凛に襲いかかったから、返り討ちにあったんだよ」
「ああ……ってええ!? 俺そんなことしたのか? まじで!?」
信じられないという表情で驚く明。
「ああ」
すまんな明、だが真実を知るよりはそっちの方が楽なはずだ……
「まじか……俺そんなことしたのか……」
明はショックだったのか、肩を落として落ち込んでしまった。
「やっぱ謝ったほうがいいよな……」
「そうだな」
「俺、ちと謝ってくるわ」
そう言うと、緊張した面持ちで、前を歩く凛に近寄って行く明。
「あの、新崎さん」
「なんですか?」
明の声に反応した、凛がゆっくりと振り返る。
「あの、すいません。色々と迷惑を賭けてしまったみたいで」
そう言って明が頭を下げて謝罪すると、凛は天使の笑顔のような顔でほほ笑んだ。
「いいですよ」
明がほっと安堵の息を吐くと、凛が「でも――」と言葉を付け加え、笑顔のまま続けた。
「将君は私の夫ですから」
「……え?」
凛はそれだけ言い終えると、前を向き直り、すたすたと前を歩いていく。一方明は言われた意味がわからずに、ただ立ち尽くしているようだった。
「俺……何か間違ってたか?」
「気にするな、行こう」
立ち尽くす明を慰めるように肩を叩き、二人のあとを追いかけるのだった。
受付に行くと、十数人の様々な年齢層の人が大会のエントリーをしていた。
「なぁ静香、なんで大会なんかに出るんだ?」
なんとなく理由はわかっているが、念のため確認をとっておこう。
将の素朴な質問に、静香はあっさりと答えてくれた。
「そんなの今朝の続きに決まってるじゃないですか、お兄様」
やっぱりそうだったか……
「ということは、この大会で優勝した人が好きなことを一つ命令できるってことか?」
「そういうことです」
それを確認すると、つい溜息をついてしまう。さすがにこれ以上この二人から逃げることはできないだろう。だとすると俺が勝つしかないわけだ……
「お~い、早くしないと受付終わっちまうぞ~」
話に関係のない明は、一足先に受付を済ましたらしく、呼びかけてきてくれた。
「では行きましょう」
「ええ」
二人が己の願望のため、やる気満々なオーラを出しながら歩いているのを見て思った。
これはもう……覚悟を決めるしかないと……
「では、こちらにプレイヤーネームをお願いします」
三人で受付に行くと、店員から紙とペンを渡された。
プレイヤーネームとは、大会で使う偽名のことだ。ちなみに将はいつも使っている「将軍という名前を記入する。
それにしても……
書き終わった紙を渡し、自分たちの周りを見渡してみると、みんながこちらに注目しているのがわかる。。
「あの子たちめっちゃ可愛くない?」
「近くにいるの彼氏か?」
「それはないだろ」
やはりというべきか、静香と凛はものすごい注目を集めていた。本人たちはまったく気にしていないようだが、正直居心地が悪い。
「これでお願いします」
視線の嵐に攻撃されていると、そのすぐ後に静香たちも登録を終え、トーナメント表が完成するのを待つ。
そして待つこと五分、トーナメント発表の時、白いホワイトボートに一人一人のプレイヤー名が、アミダ状の線に書かれていく。
…力男
…ハンバーグ
―将軍
あ、俺だ。対戦相手は――
―神聖なるロリ
……俺の最初の相手大丈夫かよ、あんな堂々とロリコン宣言するなんて……あるいみ勇者だが、
そんな時後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お、最初の相手は将か」
「ってお前かよ!!」
明がロリでした。
「あれ? 知らなかったのか?」
「お前ロリコンだったのかよ!」
「う~ん少し違うな、俺は神聖なロリコンだ」
「神聖なロリコンってどんなロリコンだよ!」
「それは素人に言ってもわからないと思うぜ?」
自信満々に言う明を見て、なんかつっ込む気が失せた。
「もういいや……」
明の知りたくはない秘密を知ってしまった。まぁ隠してないみたいだけど、隠してた方がよかった。将の中の明が変態ロリに変わった時だった。
そんなロリコン明を放置し、残りのトーナメントのメンバーを確認する。
――無双
――将は私の夫
――パン屋
――ラーメン醤油
――無敵艦隊
――将の妻
……
「おい、これはなんの羞恥プレイだ?」
明らかにおかしなプレイヤーネームを指さしながら二人に問う。
「「何が?」」
静香と凛は、ほぼ同時に頭を傾げる。
「何が? じゃねぇ! あれどう考えてもおかしいだろ! しかもこれだと俺が二重結婚みたいになってるし!」
しかも高校生で!
そんな暴走しかけている将の頭に、静香がやさしく手を乗せる。
「安心してくださいお兄様」
「何を?」
「お兄様は私の夫です。あんなGごときに私はしません」
「いやそこじゃないよ?! 俺が言ってるのは」
話を理解していませんでした。
「Kの分際で私に勝とうって言うの?」
そこでまた間違いを理解していない凛が乱入し、静香に掴み掛かって行く。
「あなたみたいなGなんかじゃ、お兄様が汚れるだけよ。早く消えなさい」
「将君がKなんかの相手をするわけないじゃない。無駄な希望は捨ててさっさと他の男にでも寄生しなさいよ」
とても女同士の口喧嘩とは思えない迫力に、周りの一般人たちが距離を空けていくが、二人はまったく気にしないまま睨みあう。
「とりあえず今日で白黒はっきりさせてやるわ」
「当たるのは最後みたいね。ま、あなたが負けてなければの話だけど」
二人はふんっと言うと、自分たちの試合の台へと歩いていった。
まさか俺……負けたら結婚させられるのかな……
将は心に深い重みを抱えたまま、自分の対戦台へ移動した、
「それではこれより、大会を開始します」
そして店員の合図と共に、俺たちの戦いが始まった。