震・ヤンでれ…ゲーセン…
将は先程からUFOキャッチャーに熱中していた。
少し前、明と共に見てまわっているとき、「お菓子でも食べないか?」という話になり、せっかくだからUFOキャッチャーで取ろうということになった。
「よっしゃ! あと一回で取れる!」
そういって財布の小銭入れから百円玉を挿入する。このセリフも、既に何回いったか覚えていないかった。
鋭い目でお菓子を睨みつけ、UFOキャッチャーを操作する。1のボタンで横……2のボタンで縦……
STOP! きたこれぇーーー! 今度こそ頂いたぞ! 巨大蟹煎餅!
止まったは、ほぼ真ん中のジャスト部分! アームが獲物を捕えるようにゆっくりと落ちて行き、商品をがっちりと掴む! そしてゆっくりと持ちあがっていき―――
ぽとっ
っという音を出して落とした……元あった位置に、
「くっそーーー! 次こそは!」
乱暴に財布の小銭入れをあけ、中から百円を取り出そうとしたが、出てくるのは十円玉ばかり、しかたない、ここは明に借りておこう。
そう考え後ろにいるであろう明に手だけ差し出す。
「明、悪いけ百円貸してくれ、後で返す」
それにしてもこれどうやって取ろうか、もう少し手前を持ちあげたほうがいいのか?
「おい明、百円」
あれやこれや考えながら、明に催促をかけるが、いつになってもコインが手に乗ることはなかった。遂に痺れを切らし、文句を言おうと後ろを振り返える、そしたら、
「おい、お前なにやってんだ……よ?」
明が二人の美少女に縄で縛られてました。
…………
どれくらいの時が経っただろう、時間にしてまだ1分経ったか経ってないくらいなのに、1時間近くずっと固まっているような、そんな違和感を覚えた。
目の前でおこなわれているのは、静香と凛が初めて二人の共同作業、明を縄で縛りあげるという奇怪なものだった。明は口にまで縄を回され、恐怖のあまり顔が凍りついている。
「お前ら! 俺の親友に何するんだ! とっとと離れろ!」なんてことを言えるわけもなく、ただ黙ってこの状況を切り抜ける方法を考える。主に明を犠牲にする過程で、
しかし時は止まりはしないのが現実、1分が1時間というのも感覚に過ぎない。そうこう考えてるうちにも、明の縛りあげが終了間際のところまできている。
こうなったら、ナチュラルにこの場を立ち去るしかない。
「あ、やっべ、俺としたことが、お金をおろしてくるの忘れてた。いや~おっちょこちょいだな~俺」
「座って」
「はい……」
とさりげなくその場を離れようとしたが、静香の一言で断念、冷たい冷たい床に正座させられてしまった。
静香と凛は、明の体を鼻以外全てを縄で多い尽くすという、なんとも気持ち悪いとしか言いようのないもの作ると、それを地面へ転がした。生きてるんだろうか、
「で、お兄様」
「私たちから逃げて、こんな家畜となぜこんなところにいるの?」
そう言って転がした明? に二人が足をがしっと乗せていった。その目には、もはやなんの感情が含まれているかわからない目の色をしていた。
「さぁ、言ってみてください、返答しだいによっては……こちらにも考えがあります」
フっと微笑み静香の笑顔は、可愛いと想像させるよりもはやく、恐怖を想像させてくれた。
やばい……本格的にまずいぞ……
だが、こんな状況で良い言いわけなんて生まれるわけがない、というかもはや目の前の二人が怖すぎて、マイナスにしか思考が行かなくなってきている。
俺、ここで死ぬかも、精神的な意味で……
「どうしたの将君……はやく答えて? じゃないと家畜が大変なことになっちゃうかもしれないね」
これ以上!? と言うツッコミが出てきたが、今はツッコンではいけないタイミングだとして、黙認、そして遂に、最後の時が近づこうと……
キ――ン
その時、ひとつの店内放送が流れ、一瞬静香達も気をそらした。
“え~これから、第7回レッドファイト公式大会を開催したいと思います。受付されてない方はお急ぎください”
……来た!! 良い言いわけが思いついた!
「聞いてくれ二人共、実は今日、この大会のことを思い出してここまで来たんだ」
「私たちに黙って……ですか?」
「それには理由があるんだ」
「それはなんです?」
「それは……」
チラッと縛りあげられている明みて、心の中で合掌。すまん明……
「明から、早く来ないと俺のことを犯るぞっていう脅迫電話がきたからなんだ」
「ん!? ん、んーー!」
その言葉に、今まで一言も発せなかった明が驚きの声を上げ、否定するように体をばたつかせながら何かを訴えている。
というか鼻以外が縄で包まれているため、非常に気持ち悪い
「黙りなさい」
すると突然凛が明の腹に向かって足を落とした。見た目ゆくっりとおろしていたが、あたった瞬間、明が鼻で「ブッ」という下品な音をたてぴくりともしなくなった。
「ではお兄様、少し待っていてください」
「すぐに戻るから」
二人はそういうと、仲良く二人で明を持ち上げ、運びだした。
「え? あの、どこいくんですか、お二人さん」
「「山」」
こんな時だけ綺麗にハモらないでほしい……
「ち、ちなみに、なぜ?」
すると二人は、またも綺麗な声で答えてくれた。
「「埋めるため」」
「それ殺人じゃねーか!!」
「大丈夫ですよお兄様」
将の言葉に、静香が名案を出す。
「深く埋めればいいんですよ。1キロくらい穴掘れば平気です」
聞いたのが間違っていました。
「全然平気じゃねーし! というか1キロってどれだけ時間かけて掘るんだよ!」
「二人だし……5分くらいじゃないかな」
凛が“ねぇ”みたいに静香に視線を送り、静香も“そうね”みたいな顔をする。
「5分!? それもはや機械よりも全然早いよ! じゃなくて埋めるのダメ! 禁止!」
「「え~~~」」
え~~~ってお前ら、ていうか本当に仲良く見えるなこいつら、姉妹みたいに見えるぞ。まったく嬉しくないけど、
「じゃあ海ポチャ? でもここから海は少し遠いですよ。お兄様」
静香が困りました。みたいな顔をし、凛は「タクシー呼ぶ?」とか言い出す始末。
「え? なに、もう殺すこと前提に話進めてるの? だめだよ? 殺しちゃ」
将の言葉に、二人は一瞬きょとん、という顔をした。
「なぜです? こいつはお兄様を犯ろうなどという羨ま…いかがわしいことをしようとしたんですよ?」
「そうだよ。 この芋虫は将君を犯りまくるっていうすばら……ひどいことをしようとしたんです。死んで当然だよ」
「待てお前ら、言葉の途中途中に決して聞き流していけない単語が聞こえたぞ」
「「そんなことないです(よ)」」
二人はきりっとしながらこちらを見るが、口から涎が垂れていた。
こいつらとはもう少し……いや、かなりの距離を置いたほうがいいのかもしれないな。
それにしても困ったことになった。今の二人はもはや一心同体くらいのシンクロ率をほこっている、何とかしないと明の命がリアルで危ない。
「じゃあ山で」
「そうね」
いつの間にか相談を終えた二人は勝手に納得し、将を無視して出口へ向かう。
まずい……何かないか? 何か……
しかしもうそんなことを考えていられる時間がない。将はほぼアドリブで、思ったことを口にした。
「俺はどんな理由でも、人の命を奪う奴は大っ嫌いだ」
ゴトン。
何かを落とす音は響き、見ると、二人がいつの間にか明を落とし、縄を一瞬で回収していた。
「本当です。人の命は大切にしなければいけません」
「当たり前だよね」
先程とは打って変わり、二人は命の大切さについて語りだしていた。
さっきまで人を殺そうとしてた奴らが言うか? でもまぁ、無事に終わったならこれでいいか。
「でも、こいつとも色々と決着をつけなくてはいけません」
「そうだね」
そう言うと、今だ意識を取り戻していない明の頭を蹴り、意識を帰還させた。
「あれ? ここは」
まるで死の淵から帰ってきたような声を出す明。
「ようやく起きましたか……ではみなさん、行きましょう」
静香はそれだけ言うと、さっさと歩きだしてしまう。凛もそれに続くように歩き始める。一方将と明は、何が何だかわからないと言った状態になり、聞きなおす。
「は?どこに?」
静香はゆっくりと振り返ると、笑顔で答えてくれた。
「もちろん、レッドファイトの大会受付に決まってるじゃないですか」
なぜだろう、このときなぜか、体に悪寒が走るのを感じたのだった。