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第二話…桃太郎

第二話…桃太郎。


少年の放った一言に爺さんと婆さんは口を開けてポカンとした表情を浮かべる。


「おい、聞こえてねぇのか?」


ハッとし2人は我に帰り目を合わせ頷く。

婆さんは納屋の奥へとかけていき、爺さんは少年に手を差し伸べる。


「こんなとこじゃなんだ…うちの中でゆっくり食べておいき。」


警戒心が強い彼は爺さんの手を払い立ち上がり罠を疑いながらも相手が老人であることから納屋へ入ることにした。

婆さんは奥から着物を持ってきて少年に渡し


「そんな格好じゃ寒いだろ?これに着替えな。」


何故だ?俺は桃を要求しただけなのに…何か裏があるのか?

と不思議に思う少年の前に桃を差し伸べる爺さん。


「そう警戒せずとも良い…。わしらは何も君をどうこうしようとは思ってないよ。ただ…ただ2人きりで過ごして来たから人と久々に触れるのが嬉しくての」


と少年に優しい笑みを浮かべる。

その柔らかな声色と表情を見て少年は桃へ手を伸ばし一気に頬張った。

婆さん、そのやりとりを嬉しそうに見つめながら


「えらく腹が減ってたんですねぇ」

「もう…ないのか?」


少年の言葉に申し訳なさそうに爺さんは「これだけなんじゃ。」と答える。

少年は2人の表情の変化に気がつく。

2人は桃を食べ終わった少年はそそくさとこの場を後にするだろう…そう思うと少し寂しかったのだ。


「一つだけ…あんた達の願いを聞いてやる。」


少年は初めて人の優しさに触れ自分なりに礼をしようと思い立った一言だった。

2人は桃1つでそんなことは良い。わしらが勝手にしたことだなどと断りを入れるが少年の気はおさまらない。


「恩は返さなきゃ…あとでウダウダ言われても困るんだよ」


そう言われて2人は黙ってしまう。

何故なら、2人の願いは互いに同じだが…見ず知らずの今あったばかりの少年に頼めるような了見ではなかったからだ。

その姿を見て長居をすれば…もっと返さなければならなくなると思い少年は出て行こうとした。

その時、婆さんが口を開く。


「もし!もし、この願いが叶うなら…わしらの子になってくれんか?」

「婆さん!そんな桃1つで!!」


少年は足を止め自分の過去が甦る。

親の顔も知らず、幼き頃から一人で忍び耐え生きて来た。盗みも喧嘩も全ては生きていくためだった。そんな自分が飢えて転がっていても救いの手もなく、そこにあったのは蔑む眼。自業自得だ。

俺に希望を持つ奴なんて一人も…一人も…そう思っていたのに背中に感じる視線はなんだ?知らない。感じたことのない温かさ。これに俺は答えるだけの器か…?あるのか…そんなもん。

そう思い振り返り2人の切に願う表情を見つめた少年。


「わかった。」

「いや、いけたー!」


彼自身ももちろん爺さん達も思っていない一言だった。

婆さんは爺さんに抱きつき喜びをあらわにする。

爺さんはツッコミを入れたものの信じられず唖然としていた。


「それは良いが…俺は人と共に過ごした経験がない。迷惑もかけるぞ?」


その言葉に目を輝かせる婆さん。


「良いんじゃ!迷惑かけられたい!ワガママされたい!」


子宝に恵まれなかった婆さんは変なとこに興奮した。

申し訳なさそうに爺さんが口を開く。


「ワシらも裕福な家庭ではない。むしろ、主に迷惑をかけることもある…。それでも良いか?」

「しつけぇな!ジジィ!良いって言ってんだろ!」


何故か少年は爺さんに強めだった。

それにも目を輝かせる婆さん、初めて味わう反抗期にこれまた興奮していた。


「ところで名は?」


婆さんが尋ねるが、人と過ごした事のない少年には名などなかった。むしろ、必要としなかったのだ。


「…ない。」

「太郎!」

「却下!普通すぎる!」


相変わらず、何故か爺さんに厳しい少年。

それに我慢出来ず爺さんは少年を叩く。

もちろん、少年も我慢するわけもなく揉みくちゃになっている中…


「桃太郎。爺さんが考えた太郎とワシらを親子へと繋げた桃を足して…桃太郎!」


2人の動きは止まり…


「俺は…桃太郎?」

「そう、ワシらの息子…桃太郎じゃ!」


2人は桃太郎に熱い抱擁をした。

そして、ここに桃太郎が誕生したのだった。


「ところで…息子って何すりゃ良いんだ?」


…こうして、桃太郎の物語は始まるのだった。

普段は舞台の出演・脚本・演出をやっています。

もっと多くの方に知って頂く機会と自分の可能性を少しでも追い求めて作品投稿を始めました。

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