第十話…親。
遠雷が鳴り雲が翳りを見せ始めた鬼ヶ島より手前の爺さんと婆さんが暮らす山。
爺さんが納屋へと帰ってくる。
婆さん「あら?遅かったですね。」
爺さん「収穫があるまでは帰らんつもりじゃったが…天気が変わって帰ってきた。すまんが今日も桃一つじゃ!…ところで何しとるんじゃ?」
婆さんは台所へ立ち何かをこしらへている。
婆さん「桃太郎が頑張って働いてくれてますからね。お腹を空かして帰ってくるでしょ?だから、あの子の好きな団子でも…と思ってね。」
何故か渋い顔をする爺さん。
爺さん「桃太郎が…働けとるじゃろうか?」
婆さん「数日帰ってこないとこを見ると…しっかりお勤めを果たしてるんじゃないですか?」
婆さん、出来上がった団子を風呂敷に包み。
桃太郎と囲んだ居間にそれを置いている。
爺さん「じゃと良いがの…。さ、今日もう遅くなった。桃食べたら休もう。」
そう伝えると半分に割った桃を婆さんに手渡し微笑みながら2人は居間を後にし眠りにつくのであった。
その1時間後…納屋に桃太郎が帰って来た。
天気の良かった出立から気がつけば雨に降られる始末で一度立ち寄ったのだ。
白雉「これが桃太郎の家?」
小犬丸「家があるって良いな!」
白雉「そうだね。雨に降られない。」
桃太郎「騒ぐな!ジジィと母ちゃんは寝てる頃だ。こっそり休んで朝には立つぞ。」
というと桃太郎は白雉と小犬丸を外に待機させ中を覗きに行く。
白雉「なんでコソコソしてんだろ?」
小犬丸「さぁ?もしかして家って言い張っただけで本当は知らない人の家なんじゃねぇ!?」
戻ってきた桃太郎に頭を小突かれる小犬丸。
桃太郎「騒ぐな!!俺の家だ!!…いいぞ、入れ。」
白雉が物珍しそうに桃太郎の後を追い納屋へと入る。小犬丸は頭を押さえながら入って行く。
すると小犬丸がクンクンと地べたに這いつくばり…
小犬丸「あ、これ!」
白雉「なに?」
小犬丸「桃太郎がくれた団子だ!」
白雉「風呂敷の上からなんで分かるのさ?」
小犬丸「俺様は鼻が良いんでな!」
白雉「さすが子犬。」
小犬丸「いや、そこは犬で良いだろ!?」
白雉「そか。」
小犬丸「いや、よくねぇよ!」
メラメラと炎に包まれるように見える桃太郎が小犬丸の背後に立ち拳骨を振り下ろす。
小犬丸はそのまま白目を剥き倒れる。
その様子を見た白雉は腹を抱えて笑っている。
そんな白雉を睨みつける桃太郎。
桃太郎の顔を見た白雉は青ざめすぐさま正座をし「はい、すみません」と姿勢を正した。
桃太郎「静かにしろって言ったよな?」
2人が反省し正座になり静かに待っていると…
桃太郎は紙を取り出し文字を書き始めた。
書き始めたかと思ったら、すぐに筆を下ろし団子の包まれた風呂敷を懐に入れ立ち上がった。
桃太郎「お前らのせいで2人が起きちまうのは避けたい。だから、雨が上がったら出立だ。」
桃太郎の書いた書き置きを覗く小犬丸。
小犬丸「いってくる。すぐかえる。え?これだけ?」
桃太郎「あぁ。」
小犬丸「不器用かお前は!」
桃太郎「良いんだよ。」
小犬丸「よくねぇよ!もしかしたら…これで会えなくなるかもしれないんだぞ?」
桃太郎「ならねぇよ!必ず帰ってくる。」
桃太郎は爺さんと婆さんの顔も見ることなく、雨も止んでない中…外へと出て行った。
小犬丸「おい!雨止んだらじゃないのかよ!?」
小犬丸が後を追う。
白雉も立ちあがろうと…ため息をついた。
その時、白雉の後ろから声がした。
爺さん「すまんのぅ。不器用なやつで。」
白雉「え?あ、御免なさい勝手に…」
婆さん「良いんだよ。むしろ、ゆっくりさせてあげられなくてごめんね。」
白雉「いえ…。」
爺さんが書き置きを見つける。
爺さん「下手くそな字だ。」
婆さん「本当だね…。書ける精一杯の字を並べたんだろう。」
そんな2人を見て白雉は先程の小犬丸の言葉がフラッシュバックする。
白雉は2人に桃太郎の代わりに告げることにした。白雉は俯きながら…
白雉「あの!私たちは今から鬼ヶ島に向かいます!もしかしたら…もう…戻れない-」
白雉が頭を上げ告げようと決心した目に飛び込んで来たのは深々と頭を下げる2人の光景が
爺さん「うちの息子を宜しくお願いします。」
白雉「…え?」
婆さん「あの子に伝えて…行ってらっしゃい。と。」
白雉はその言葉に強く拳を握り自分が吐こうとした言葉を飲み込んだ。
白雉「…はい!」
白雉も桃太郎たちの後を追うとすると…。
婆さん「嬢ちゃん。」
白雉、ピタッと足を止め振り返る。
婆さん「行ってらっしゃい。」
白雉は久しぶりに聞いた言葉に目頭を熱くしながら涙を堪えグッと唇噛む。そして、笑顔を見せて。
白雉「行って来ます!」
白雉は再び桃太郎たちの背中を追い納屋を後にした。
爺さん「こんな雨の中…慌てよって。大丈夫かのぅ?」
婆さん「大丈夫ですよ。友達も居てくれるなら尚更。強くて優しい子ですから。」
婆さん、スッと書き置きを抱きしめる。
爺さんはその様子を見て涙を堪え。
爺さん「必ず帰って来い。桃太郎。」
人の目から落ちなかった涙。
しかし、桃太郎たちの足を阻むように天は涙を止ませはしなかった。真夜中の出来事。
普段は舞台の出演・脚本・演出をやっています。
もっと多くの方に知って頂く機会と自分の可能性を少しでも追い求めて作品投稿を始めました




