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82. セレスの記憶②

 人間と魔族の戦地にて、その人物たちは対峙していた。

 一方は魔族軍の魔王2人。アリスとセレスである。そしてもう一方は、とある1人の男であった。


 そのとある男こそ、勇者アレク。突如この世界に舞い降りた勇者である。

 光り輝くようなきれいな金髪に、180センチほどのすらっとした身体。着ている服から少し覗いている肉体は、引き締まった筋肉が敷き詰められている。

 見た目は心穏やかそうな優男であるが、人間軍の為にその力を振るう、文字通りの人間軍の勇者である。


「―――諦めなさい。私達じゃ決着はつかないわ」

「こっちのセリフだ。諦めて投降しろ。悪いようにはしない」


 アリスと勇者アレクの言葉だ。

 両者が戦い始めてはや数時間。やはりと言うべきか、両者の戦いでは決着がつかない。もう既に今回以外にも何度も戦っているが、未だに一度も決着がついたことが無いのだ。

 双子姫の破壊と再生の力。対する勇者アレクは様々な特殊能力を使って魔王と戦ってきた。両者が戦うたびに、じり貧となって最後は決着がつかずに終わってしまうのだ。


「ふっ………。このやり取りも何度目かな」

「そうね………。100度目くらいかしら?」

「正確には24度目です、お姉様」


 勇者アレクと魔王たちは、そんなやり取りをしながら苦笑し合う。敵同士であるのに、何度も戦ってきたせいか奇妙な絆を感じ始めてしまっている。


「―――君たちは何のために戦っている?」

「―――え?」


 突如、勇者アレクがそんなことを尋ねてくる。それは唐突な問いだったが、勇者アレクはいたって真剣な表情をしている。

 勇者アレクのその表情を見て、アリスは真面目な表情に戻って答えた。


「私が生まれた頃から人間と魔族は戦っていたわ。それも、魔族が人間に蹂躙(じゅうりん)されるような形で。そんなの、戦って抗うしかないじゃない」


 アリスの言う通りだ。魔族はアリスたちが生まれる前から人間に攻め立てられていた。攻められ、殺され、犯され、蹂躙され。そんな戦いをずっと魔族たちはやってきたのだ。魔族として生まれたアリスたちは、当然それに抗わなければならない。そうしなければ、いずれ魔族は滅びてしまう。

 力を持って生まれたアリスとセレス。その力を彼女たちは、魔族のために使っているのである。


「それは俺も同じだ。君たちのお陰で人間たちが押され始めた。勇者である俺が見捨てるわけにはいかない」


 そう言って勇者アレクはふっと息を吐く。


「結局、不毛な戦いだ。そうは思わないか?」


 勇者アレクからの問い掛け。

 戦争のきっかけはもう、何だったか定かではない。魔族側では人間たちによる侵略だと伝わっているが、結局それは魔族側だけの主張だ。人間側では逆に魔族からの侵攻であったと教えられているし、真実は結局わからない。

 確かに不毛な戦いだと言われれば不毛なのかもしれない。


「そうかもしれない………。けど、人間が刃を向けてくる限り、私たちは戦い続けるわ。だってこの戦いには、魔族の未来が掛かってるんだから」


 だが、きっぱりとそう言い切るアリス。確かに不毛な戦いなのかもしれない。だけど、魔族から矛を収めるわけにはいかないのだ。そんな事をすれば、魔族の未来は潰える。


「―――じゃあ、人間側から和平を申し入れられたらどうする?」

「「―――えっ?」」


 勇者アレクからの、そんな言葉。

 鳩が豆鉄砲を喰らったかのような表情を、アリスとセレスは浮かべる。


「実はさ、この話をしようと思って、俺たちの戦場は別にしたんだ」


 確かに、今回の戦場では本隊と別の場所で勇者アレクとぶつかっている。これは勇者アレクの図らいだったのだ。


「魔族と同じく、人間側も疲弊している。そして戦況も停滞している。今が和平を結ぶチャンスなんだ」


 未だ驚きから抜け出せないアリスたちを尻目に、勇者アレクは語り始める。


「初めから疑問だったんだ。どうして同じ人類同士で戦っているのか。共存する道はないのか、ずっと探していたんだ。そして気付いたんだ。もしかしたら、君たち魔王も同じ気持ちなんじゃないかって」


 勇者アレクが語り掛けるように言う。


「この世界は疲弊している。度重なる戦争に。殺し合いの連続に。だからもう、やめにしよう。人間と魔族、手を取り合って、一緒に生きれる世界を目指さないか?」


 勇者アレクは、そうアリスたちに提案する。人間軍の勇者による提案だ。一定の説得力はある。


 だが――――――。


「―――そんな夢物語、実現すると思う?人間と魔族は常にいがみ合ってきた。人間はずっと、魔族を殺し続けてきたのよ?そんなの、魔族の皆が納得するわけがない」


 そう、アリスが現実を突きつける。

 だが、そんな所で引く勇者アレクではない。


「前まではそうだったかもしれない。だが、今は違う。人間の救世主である俺と、魔族の救世主である君たち2人がいる。俺たちなら、その夢物語を現実にできる!」


 押されていた魔族側を救ったアリスとセレスの魔王2人。そして、押され始めていた人間側を救った勇者アレク。確かにこの両者は、両軍にそれぞれ発言権がある。


「今度からは敵同士じゃなく、手を取り合って戦おう!人間と魔族が共存できる世界に向けて、共に歩んでいきたいんだ!俺たちならできる。俺はそう信じてる!」


 そう、勇者アレクは手を広げながら言った。

 やはり、彼が言っていることは夢物語だ。だけど、そこでセレスは魔族の現状を思い出す。

 荒れ果てた魔族領に、困窮した民たち。戦地の草木は枯れ、働き盛りの民たちは戦地にて命を散らし続けている。

 働き手が減少し、魔族領は常に食糧不足と労働力不足。民たちは一日の食事さえままならない生活が何十年も続いているのだ。


 このまま戦い続けても、人間軍との決着はつかない。いたずらにその状況が長引くだけだ。魔族の民たちは、これからもずっと苦しみ続ける。

 勇者アレクの言う通り、今が変えるべき時なのかもしれない。


「―――私は、手を取り合ってもいいと思います」


 セレスが勇気を出してそう言った。

 そんなセレスの言葉に驚いたのはアリスである。


「本気で言ってるのセレス!?」

「はい。本気です」


 セレスはそう言って、手を取るべきだと至った考えを話す。


「今、魔族の民は苦しんでいます。慢性的な食糧不足と労働力不足。大地は荒れ果て、私の『再生(リジェネレート)』でも大地の回復は間に合っていません。戦地での死傷者も年々増えていき、魔族の民たちは今を生きるのすら困難になってきています」

「それは、そうだけど………」

「これ以上戦い続けても、この現状は変わりません。私の非力さ故なのでしょうが、勇者アレクに勝てるビジョンも見えません。そんな彼が今、手を取り合おうと言っているのです。この現状を打破できるチャンス、逃すべきではないと思います」


 そう苦々し気に言うセレス。セレスも本意ではない。本当は勝って終わらせたかった。だって、セレスにとっても魔族は家族同然の存在なのだ。

 だけど、そんな家族たちが今傷付き、疲れ果てている。その対処をするのも、魔王であるセレスの役目だと思うのだ。


「―――セレスのせいだけじゃないわ。私がもっと『破壊(デストロイ)』のスキルを上手く使えたら、違ってたのかも………」


 アリスも苦々し気に言う。アリス自身も、自身の実力に思う所があったのだ。だからセレスの先ほどの言葉が強く刺さる。


「―――今が最後のチャンスかもしれない。このまま続けば、いずれどちらかが力尽きる。俺はそれが人間であることが我慢ならない。―――なら、どちらも生き残れる道を模索したいんだ」


 そう、勇者アレクがダメ押しで言う。


 揺れ動くアリスの心。民のため、魔族のため。そう考えた時、本当に魔族の為になるのはこのまま戦い続けるより、和平の道を探すことなのかもしれない。

 困窮する民たちの現状。このまま無為に続ける戦争。そこに魔族の未来など無いのかもしれない。


「―――わかった。手を組みましょう」


 アリスはそう、決断した。


 こうして人間と魔族の和平はなった。

 これから人間と魔族は、共に歩み始める――――――、


 はずだった。

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