70. 次の目的地へ
転生者連合の話も終わり、また荒れた場が落ち着いたかに見えたが、それに待ったをかけた人物がいた。
それはレヴィエであった。
レヴィエは恥ずかしそうに顔を俯けつつ、獅子神に問う。その顔は朱色に染まっていて、本来の彼女の姿とは程遠い様相であった。
「あ、あの………。レオン様………」
「ん?なんだレヴィエ嬢ちゃん」
「そのっ………!私を転生者連合という組織に入れていただけないでしょうか!?」
「はぁ!?」
レヴィエからの突然すぎるお願いに、獅子神がポカンと大口を開けた。
「な、何を言ってるんだ嬢ちゃん!?」
「ほ、本気ですレオン様!私、レオン様の役に立ちたいのです!」
「え、ええ~~!?」
顔を朱く染めつつも、その表情は真剣そのものであった。どうやらレヴィエは獅子神に惚れているらしく、獅子神の役に立ちたいと、突拍子もないお願いをしたようだ。
「それとも、転生者じゃないと入れない決まりがあるとかですか!?」
「い、いや、そんな決まりはないが………」
ぐいぐい来るレヴィエに少し押され気味の獅子神。
「雑用でもなんでもします!ですのでどうか、私を傍においてください!」
「え、えっとだな………めちゃくちゃ危険な組織だぞ?たった今、反社の傘下に入ったばかりだし………」
「そんなの構いません!」
「ええ………」
レヴィエに押されっぱなしであった獅子神は、話を仲間の夕日茜たちに振ろうとする。
「そ、そうだ!茜と地山はどう思う!?」
彼らなら断ってくれると踏んだのだ。だが、そんな獅子神の思惑は上手くはいかなかった。
「いいんじゃないの?人が増えるのは歓迎かも」
「俺も賛成」
「え………?マジ?」
まさかの全肯定で獅子神は更に困惑する。
そんな獅子神を差し置いて、地山と夕日茜が話を続ける。
「ってか、茜は嫌がると思ってたんだが?ライバルが増えるぞ?」
「ちっちっちっ………。わかってないねぇ地山は」
地山のそんな言葉に、夕日茜が建てた人差し指を横に振りながら言う。
「この世界は一夫多妻制だよ?それに彼女は大公令嬢。上手くいけば、私は大公の権力にあやかれるって訳!」
「それでいいのかお前………」
その言葉から、夕日茜も獅子神に惚れていることがわかるが、当の夕日茜の考え方はかなり現実的だ。獅子神を独占はせず、寧ろレヴィエの権力を利用しようという魂胆であるらしかった。図太い女性である。
「何の話をしてるんだお前ら?」
「獅子神さんは気にしないでくださ~い」
「獅子神さん………。あなたって人は………」
そんな2人の会話を、全く理解できないという顔で聞く獅子神。こいつも大概朴念仁である。
「という事で歓迎よ!レヴィエさん!」
「い、いいんですか!?」
「もちろんよ!これから2人で獅子神を支えましょうね!」
「は、はい!!」
もう獅子神の意見は聞かず、勝手にレヴィエの加入を認めてしまった夕日茜。夕日茜からのそんな言葉に、レヴィエの顔はぱあっと明るくなった。嬉しさを顔に張り付け、両手を頬にあてて顔を赤く染め始める。
だが、マーロンとしてはレヴィエの加入を素直に認めるわけにはいかない。
「待て。レヴィエ様は捕虜だ。勝手に決められても困る」
そう。彼女はセレーネの命を狙い、マーロンに捕らえられた捕虜であるのだ。
「彼女は色々知っちまってる。転生者連合への加入にかこつけて逃げるつもりかもしれん。加入は認められない」
「そんな事は絶対にしないわ!」
マーロンはからの指摘を、レヴィエは慌てて否定する。いかにも心外だというような表情である。
「お嬢の命を狙った奴が何を言う」
「それは申し訳ないって思ってるし、もうそんなつもりはさらさらないわ!」
「情報流出のリスクはなるべく潰さなければならん。お前は信用できない」
「そんな………!」
絶望したような表情になるレヴィエ。
そこで、レヴィエを追い込むマーロンに対して、反論を示したのはまさかのセレーネであった。
「マーロン、大丈夫ですよ。レヴィエ様はもうそんなこと考えてません」
「―――どうしてそうお思いに?」
「彼女が獅子神さんを見る顔を思い出してください。彼女が獅子神さんを裏切るように見えますか?」
確かにセレーネの言う通り、レヴィエが獅子神を見る顔は完全に恋する乙女であった。だが、マーロンは裏社会の人間だ。そういう顔を使い分ける女というものを、何回か見たことがあるのだ。
「栗。お前の懸念は痛いほどわかる。だから、この子は俺が手綱を握っておく。それでいいか?」
今度は獅子神からの言葉であった。
獅子神はマーロンが信頼を置く人物の1人だ。それも前世からの縁である。何しろ、自分のような狂犬を最後まで見捨てなかった人物であるのだ。
確かに獅子神であれば、レヴィエの手綱を握っておくことは可能だろう。
「わかりましたセレーネ様。獅子神、よろしく頼む」
そう言って折れたマーロン。流石にセレーネに言われればマーロンは大人しく従う。
レヴィエを疑っているのはたぶん自分だけで、そこにはセレーネの命を狙ったという私怨が入っている。その所為でマーロンは、素直に彼女を信用できずにいるのだ。
セレーネの事になるとつい感情的になる。それが自身の欠点だ。
「良かった………。ありがとう、マーロン、セレーネさん」
ほっとしたかのように息を撫で下ろすレヴィエ。やはりその様子からは嘘は感じられない。彼女は本気で獅子神の役に立ちたいと思っているだけのように見える。
「それじゃ改めてよろしくな。レヴィエ嬢ちゃん」
「は、はい!よろしくお願いします!レオン様!」
「レオンじゃなくて、獅子神って呼んでくれな………」
「はい!獅子神様!」
そう言いながら苦笑する獅子神。
こうしてレヴィエは転生者連合の獅子神に付いて行くことになった。ウェスト王国の大公令嬢がこうなるとは。人生、わからないものである。
「そんじゃあ栗。俺たちはここいらでお暇するよ。今回は本当に助かった」
「ああ。じゃあな獅子神」
「何かあれば呼んでくれ。力になる」
三度荒れた場もようやく落ち着き、解散となったマーロンたち。
獅子神たち転生者連合もこの場を去り、ようやくマーロンたちの元に平穏が訪れた。
「それで?エルムはどうすんだ?」
「もちろんセレーネ様の傍にいます。私はセレーネ様の従者ですので」
残る問題は、エルムというエルフだ。
マーロンと獅子神がスレイブ商会の牢屋から助け出し、再生の魔王について話してくれたエルフである。
「また変なのが増えたな………」
「変なのとはなんだ、マーロン」
「うむ?何故我を見るのじゃ、マーロンよ」
エルムとフランマを見ながら頭を抱えるマーロン。エルフと竜の従者だ。マーロンはどんなサーカス団だよと、心の中で突っ込む。
「旦那様、お嬢。精霊の森に向かうのですよね?」
「ああ。娘たってのお願いだ。真実とやらを知りに行こうではないか」
「はい。1000年前の、私の前世の記憶。それを取り戻しに行きます」
1000年前。再生の魔王セレスと、その双子の姉である破壊の魔王アリス。この2人の間に何があったのか。その答えが精霊の森にあるのだ。マーロンたちはそれを取りに精霊の森にまで向かうのだ。
「了解しました。―――アンナ、足の準備はできるか?」
「はい。近々馬車を用意させます」
精霊の森へと向かう馬車は栗原組で用意してもらえるようだ。つくづく頼りになる組織である。
「本当は一緒に行きたかったのですが………」
「仕方ないだろアンナ。ビレストを放って置くわけにもいかんだろうし、精霊の森には俺たちだけで行くさ」
アンナやファストたち栗原組の人間であるが、流石に精霊の森にまでは連れてはいけない。人間の街ならまだしも、精霊の森は人間にとっては未知の領域である。そこまで付き合わせるのは気が引けるのだ。連れて行くとしても、まずは安全であるとわかってからであろう。
「精霊の森って、人間が中に入ると必ず迷って一生出れなくなるんじゃなかったでしたっけ?」
「それはエルフたちの張る結界のせいです、セレーネ様。私が一緒にいれば問題なく中に入れます」
セレーネからの疑問にエルムが答える。精霊の森に入ると必ず迷ってしまうという逸話は真実で、どうやらエルフたちのせいであるようだ。
「うむ。楽しみだな、エルフの里」
「ふふ。そうですね、フランマ」
フランマがふと、そんな事を言う。
「緊張感のない奴だな………」
マーロンはそんなフランマの姿に苦笑するのであった。




