69. 色々と交錯する情報たち
~ マーロン ~
エルムというエルフの女性から聞いた話。セレーネが再生の魔王の転生体であり、アリス聖教の主神が破壊の魔王であるという内容。
我が主人であるセレーネは、それを受け入れつつあるようであった。
エルムが話している顔や表情、仕草を見るに、嘘を付いている様子はなかった。前世からずっと裏社会で生きてきたマーロンにとって、素人がつくような嘘は見破れる自信はある。そんなマーロンが見ても、彼女は嘘を付いていない様子であったのだ。
エルムの言っていることは本当なのか?それとも、彼女はとんだ詐欺師で、人を騙すのに長けている人物なのか?
たぶん、前者なのであろう。夕日茜のユニークスキルである、心眼。彼女の目は人の本質を見極める。そんな彼女がエルムの事を問題ないと評している。ならば、彼女が言っていることは本当、もしくは彼女自身はそう思い込んでいると判断するのが妥当であろう。
くしくもマーロンは、セレーネと同じ結論に至っていた。精霊の森に行けば全て明らかになる。そういう予感を感じているのだ。
そんな事を考えながら話を聞いていたマーロン。気付けばこの場はようやく落ち着きを取り戻していた。
エルムからの衝撃的な話は一段落着き、ようやく話がまとまりつつあるのだ。
そんな中、ふとマーロンは気付く。獅子神がまだ怪我をしたままであったことに。
「すみません、お嬢。そういえば獅子神がまだ怪我をしているので、彼を治療してもらえませんか?」
「え?―――あっ!確かに!衝撃的な話ばかりで、すっかり忘れてしまってました!」
マーロンの言葉にハッとしたセレーネは、さっそく治療しようと獅子神に近付く。
「いいのか?」
「はい。もちろん。マーロンのお友達ですので」
「お友達って………」
獅子神は困惑しつつもセレーネからの治療を受け入れる。
流石、再生の魔王である。ボロボロであった獅子神の身体は見る見るうちに治癒していく。
「よし!おわりました」
「ほんとにすげえな………。ありがとう、セレーネ様」
綺麗になった身体を眺めつつ獅子神が礼を言う。屈伸や柔軟運動なんかをやりつつ、身体の調子を確かめている。
そんな獅子神を見つめる視線が1つ。それは意外にも、ウェスト王国の大公令嬢であるレヴィエであった。
「あ、あの………。あなたはもしかして、ライオッツ伯爵家のレオン様ではありませんか?」
レヴィエが恐る恐ると言った様子で獅子神に話しかける。
レヴィエの問い掛けを聞いた獅子神は、その言葉に一瞬顔をしかめた。
「―――知ってるやつがいたのか………。あんたは?」
「ヴァレンタイン大公家の娘、レヴィエ・ヴァレンタインです!覚えておいでですか!?一度、お会いしたことがあるのですが………」
「あっ………!あん時の嬢ちゃんか!?」
「は、はい!あの時の私です!」
獅子神が思い出したかのように言うと、レヴィエがぱあっと表情を明るくした。
「なんだ?知り合いか?」
「ああ。ウェスト王国に住んでた時に、ちょっとな」
「うん!レオン様は、私が誘拐されそうになったところを助けてくれたの!私の恩人!」
マーロンからの問い掛けに答え辛そうにしている獅子神と、嬉々として話したがっているレヴィエ。2人の正反対の反応が少し面白い。
「そういや元々貴族だって言ってたな。………ぷっ!」
「おい。何がおかしい」
マーロンが突如、獅子神の顔を見て吹き出す。
「いや、レオンって名前………。獅子神からレオンって………。ぶふふ………」
「てめえ………!」
「少女を拾った殺し屋か?それともゾンビと戦う元警官か?」
「黙れ栗………!おまえだって大概だろ!栗原からマーロンって!」
1人爆笑するマーロン。獅子神がレオンなんて名前で貴族をやっている姿を想像すると、笑いが止まらなくなってしまったのだ。
「ちょっとマーロン!レオン様に失礼でしょ!笑うのをやめなさい!」
「いや、悪い悪い………。ちょっとツボに入っちまって」
何故か怒った様子のレヴィエ。どうやら彼女には、獅子神に特別な感情を抱いている様子だ。
「レオン様は凄いんですから!ウェスト王国貴族学園の学生時代、たったの数か月で100回近い決闘をこなし、全ての学年を掌握した天才なんですから!」
「ちょ!その話はちょっと!黒歴史だから!」
慌てる獅子神と得意気なレヴィエ。獅子神はその話はあまりして欲しくなさそうである。
レヴィエが言っている話は聞いたことがある。当時1年生だった貴族の1人が、決闘しまくってものの数か月でウェスト王国貴族学園内を制圧してしまったという話だ。
その際には数人の死者も出て、その所為でウェスト王国貴族学園の決闘は、代理を立てて行うようになったらしい。
「へぇ。あの話、お前だったのか獅子神」
「んだよ。悪いかよ」
「でも、死者も出たんだろ?お前らしくない」
「―――クソ野郎が居たんだよ。転生者であることを隠して、学園内で好き勝手やってた転生者が」
どうやら獅子神は、貴族時代も変わらず獅子神であったようだ。相変わらずの人間性だ。
「あの時の事は黒歴史だが、まあ、あれのお陰で国を出て転生者連合を作る踏ん切りがついたんだ」
「なるほど。お前らしいな」
獅子神が作った転生者連合。まともな転生者に救済の手を差し伸べ、クズの転生者は殺す。そのきっかけとなったのが、獅子神の学園時代だったのであろう。
そんな獅子神を、レヴィエはぼーっとした目で見つめる。頬を赤くし、まるで恋する乙女のようだ。やはりこの少女は、獅子神に惚れているのだろう。
レヴィエのそんな視線に気付かない獅子神は、今度は改まってセレーネと栗原組のアンナ、ファストの方を向いた。
「セレーネ様。ビレッジ公爵様。栗原組。今回は本当にありがとう。あんたらに命を救われた」
獅子神はそう言って、3人に順に頭を下げた。
「ま、待ってください!私は何もやっていませんよ!?」
「けど、あんたは栗の主人で、栗が動くのを許可してくれたんだろう?栗には借りがあったからトントンとしても、セレーネ様には恩がある状態なんだ」
「マーロンの成果をかすめ取ったみたいで、なんだか釈然としません………」
「上司とはそういうもんだよ、セレーネ様」
獅子神の言う通りである。マーロンの成果は全てセレーネのものなのだ。それが裏社会の人間であるマーロンにとっての常識であるし、それを獅子神も理解している。今の獅子神は、ビレッジ公爵家と栗原組に借りがある状態なのだ。
「ちゃんと義理人情は持ち合わせてるみたいね。流石、栗原さんの知り合い」
「ああ。この恩を踏み倒すつもりはねえよアンナさん」
そして栗原組も、それを理解している。無償で動く裏組織などない。裏社会の組織を動かしたのであれば、それ相応の恩赦を支払わなければならないのだ。
「しかし、セレーネの言う通り、私たちは恩を売るつもりなど無かったのだ」
「はい、それは理解していますビレッジ公爵様。だからこそ、なお一層の事、この恩は返さねばならないんです」
獅子神はそう言って、胸に手を当てて跪いた。
獅子神が跪いたのを見てか、夕日茜と地山も獅子神に続くように跪いた。
「お願いがございます。どうか我々転生者連合を、ビレッジ公爵家と栗原組、この2つの傘下に入れてもらえませんか?」
獅子神は突然に、そんな事を言いだした。
ビレッジ公爵とセレーネは同時に驚き、目を見開いている。だが、栗原組のアンナとファストは当然だという風に頷いている。
「あなた達を傘下に迎え入れるにあたって、どんなメリットがあるのかしら?」
アンナからの問い掛け。当然、傘下に迎え入れるのであれば、栗原組に何かしらのメリットが無ければならない。そうでなければ、ただ不良債権を受け入れるだけになってしまう。
「転生者連合はその名の通り、転生者の集まりです。当然、その全員がユニークスキルを持っています。その全員のスキルを、あなた方の役に立たせて見せます」
「例えば?」
「私であれば栗と同じような獣人化のスキルで単純な戦闘力として使えます。ここにいる地山であれば、銃などの武器を提供できますし、茜であればその眼で怪しい人物の見極めや炙り出しなどにも使えます」
獅子神からの答え。獅子神たち転生者連合を傘下に加えられれば、ビレッジ公爵家や栗原組は、マーロンだけでなく他の転生者の力も自由に使えるようになる。この国イースト帝国の転生者奴隷が高値で取引されている事を考えれば、それはとてつもなく大きなメリットになる。
ほとんど無償で多くの転生者の力を手に入れたようなものだからだ。
獅子神からのこの答えに、アンナはニヤリと口角を上げた。組織のボスとして、栗原組の為になると判断したのであろう。
だが、そこで困惑気味なのはビレッジ公爵とセレーネである。元々恩を売るつもりなどなかった彼らは、獅子神と栗原組の会話を聞いても困り顔をするだけだ。
そんなビレッジ公爵たちに、アンナがこんな提案をする。
「転生者連合の事は我々栗原組に任せてもらえますか?彼らもビレッジ公爵様方に恩を返したいと思っているようですので、我々がビレッジ公爵様方の為に彼らの力を上手く使って見せます。あくまで転生者連合は栗原組の傘下という事になりますが、これでWIN-WINの関係になるかと」
ビレッジ公爵家が特別に何かする必要は無い。あくまで転生者連合は栗原組の下に付き、勝手にビレッジ公爵家の為に働くという事である。
「いいのか?栗原組には世話になってばかりであるが………」
「問題ございませんよ。ビレッジ公爵様には支援をいただいていますし、これくらいお安い御用です。それに、栗原組にもメリットがある話ですしね」
現状、ビレッジ公爵家は栗原組におんぶにだっこの状態であるのに、それでも栗原組はビレッジ公爵家に支援を惜しまない。その理由はマーロンの存在が大きいのであるが、それをわざわざ口に出す程、栗原組は野暮ではない。マーロンがビレッジ公爵家に仕えている限り、栗原組もまた、ビレッジ公爵家に仕え続けるのだ。
「―――ありがとう。恩に着るよアンナさん」
「ありがとう、アンナさん」
ビレッジ公爵とセレーネが同時にアンナに礼を言う。栗原組にはずっと世話になりっぱなしだ。今の状況が落ち着いたら、どこかでまとめて恩を返す機会を設けるべきだろう。
「―――ということになったわ、獅子神さん。栗原組はあなた方の組織、転生者連合を受け入れます」
アンナのその言葉に、獅子神はほっと息を撫で下ろした。
実際、受け入れてもらえるかは賭けだったのだろう。それに、転生者連合は現状ボロボロである。栗原組という後ろ盾を得るのも、目的の内の1つなのかもしれない。
「ありがとうございます。アンナさん」
獅子神はアンナに礼を言い、隣に跪く夕日茜と地山に話し掛けた。
「という事になった。なにか問題はあるか?」
「ううん。獅子神さんの救出を依頼した時からこうなることは予想してた」
「ああ。俺たちだけで活動するのも限界だったんだ。反社組織って事にはちと思う所もあるが、獅子神さんの決定なら従うさ」
「さんきゅーな。茜、地山」
こうして、色々ありつつも転生者連合は、栗原組の傘下となったのであった。




