表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/85

66. セレーネの力

 ~ マーロン ~


 獅子神に担がれて、セレーネたちが身を隠す隠れ家にまで戻ってきたマーロン。転生者連合や部外者のエルフも一緒にいるため、マーロンは初めは拒否したものの、フィーネと獅子神に「重症なんだから治療が最優先だ」などと説得されて、まんまと隠れ家まで連行されてしまったのだ。


 フィーネの声を聞いたのか、隠れ家の玄関の扉が勢いよく開き、中から慌てた様子でセレーネが飛び出して来た。

 それに続くように、ビレッジ公爵やフレデリック、ヒルダ、フランマ、レヴィエも姿を見せる。


 セレーネが獅子神に担がれたマーロンを見て、驚いたように目を見開く。そして、何やらマーロンに語り掛けようとするが、今のマーロンの耳は潰れている。セレーネの天使のような声は聞こえないのだ。


「すみません、お嬢。耳が潰れてしまっているので、お嬢の声は聞こえないのです」


 マーロンがそうセレーネに伝えると、セレーネは慌てて獅子神ごとマーロンを隠れ家の中に案内する。


 セレーネが獅子神に指示し、マーロンをベットの上に寝かせると、セレーネは早速マーロンの治療を始めた。


 今のマーロンの傷。

 自ら切り落とし、潰した耳と、これもまた自ら引き裂いた、手枷の鍵やら発信機を仕込んでいた腹。マーロンが負った負傷は主にこの2つだ。


 セレーネはそんなマーロンの姿を見て、まずはマーロンの耳に手を添えて、治癒魔法を行使した。

 マーロンの耳があたたかな白い光に包まれる。女神のような慈愛(じあい)を感じる温もりに包まれたマーロンの耳は、すぐに元通りに治癒していく。

 まるで本来あった姿に戻るかのように、斬り落とした耳が生えてくる。


 セレーネによって、見たことも無いような速さで治癒していくマーロンの身体。

 そんなセレーネの治癒魔法の強力さに、初めて見る者たちは驚愕(きょうがく)の表情でその治療を見つめる。


 レヴィエも、獅子神も、ファストも、地山も、そして、共にスレイブ商会から脱出したエルフの女性も。みな、一様に驚愕を顔に張り付けている。


 ただ1人、夕日茜を除いては。

 彼女だけは驚いてはいるものの、なにやら納得したかのような表情を浮かべている。


 そして終わるマーロンの治療。

 セレーネの手から発せられた癒しの光に包まれたマーロンの身体は、もうまるで新品かのように綺麗になっていた。

 斬り落とした耳は元の人間の耳に戻っており、お腹に空いていた深い切傷も完全に(ふさ)がっている。


「―――どうですか?マーロン、聞こえますか?」


 そして聞こえる天使の声。

 聞き慣れた、愛する主人のセレーネの声だ。


「聞こえます」


 マーロンは何でもない事であったかのように、そうセレーネに伝えた。

 そんなマーロンの姿に、セレーネは頬を大きく膨らませる。まるで怒っているかのように、手をマーロンの前に持って行き、頭に手刀を繰り出してきた。


「あいて!」


 頭に手刀を喰らったマーロンがそんな情けない声を出す。何か怒らせるようなことをしただろうか。


「マーロン!無理はしないって約束しましたよね!?耳が無くなってるって、何事ですか!?」


 セレーネからの言葉でようやくマーロンは気付く。

 どうやらセレーネは、マーロンが傷だらけで帰ってきたことにお怒りのようである。


「お嬢!この程度の傷、ただのかすり傷です!」

「そんなわけないじゃないですか!耳が聞こえなくなってたんですよ!?充分重症です!!」

「五体は満足ですし、命を脅かされてもありません!」

「五感が不満足じゃないですか!!」


 マーロンの基準では、耳が潰れたくらいでは重症ではない。四肢が切断されたとか、立つのすら困難だとか、そういう状態が重傷なのだ。この認識の違いにマーロンは驚かされる。


 だが、やはり、ここでずれているのはマーロンの方であったようだ。

 途中で合流し、共に隠れ家に帰ってきたフィーネがセレーネに味方する。


「セレーネ様の言う通りです!マーロンさんは重傷じゃないって言い張ってましたけど、めちゃくちゃ重症ですよ!獅子神さんに担がれて帰ってきた人が何言ってるんですか!」

「うっ………!」


 フィーネの言葉がマーロンをシュンとさせる。それを言われると、確かに重症だと思っても仕方がないかもしれない。


 そんな会話に、今度は獅子神が入ってくる。


「セレーネ嬢ちゃん………だったか?こいつは元々のネジがぶっ壊れてんだ。大目に見てやって………」

「てめえ獅子神ゴラァ!セレーネ様だろうがボケがァ!様を付けろやクソジジイ!!」

「はぁ!?こちとらフォローしてやったんだが!?」


 獅子神が何やらフォローしてくれたようだが、そんな獅子神の言葉は耳に入らなかった。マーロンとしては、獅子神がセレーネに様を付けなかった事の方が大問題である。


「と、とにかく!マーロン!あなたは自身の命を軽んじ過ぎです!マーロンの事を大切に思っている人はたくさんいるんです!反省してください!」


 めちゃくちゃになりそうであった場を、セレーネが何とかまとめる。

 やはりおかしいのはマーロンの方であったようだ。


「はい………。すみません、お嬢………」


 セレーネに怒られ、反省するマーロン。確かに、今までずっと自分の身体を軽く見積もり過ぎていた(ふし)はある。

 自分の身体はもうマーロンのものではない。セレーネのものなのだ。それを肝に銘じておく必要がある。


「―――マーロン。無事でよかった………」


 セレーネはそう言うと、反省して肩を落とすマーロンの身体に抱き着いてくる。

 そんなに心配させていたのかとマーロンは更に反省し、セレーネの身体を抱き締め返した。


 そんな2人のやり取りを、獅子神が意外そうな目で見る。


「―――すげえな。まさかあの狂犬を、ここまで飼いならしてるやつがいるなんて………」


 前世でのマーロンを知る獅子神の言葉だ。前世の栗原を知る獅子神にとって、この光景はそれほど意外なものなのだろう。


「セレーネ嬢ちゃ………セレーネ様」


 マーロンにギロリと(にら)まれ、途中で言い直す獅子神。


「どうやって栗の奴を手懐(てなず)けたんだ?とんでもない狂犬だっただろう?」

「いえ。元からマーロンはこんな感じでしたけど………」

「元から?本当ですか?」

「はい。本当です。ずっとマーロンは私の事を慕ってくれてます」


 セレーネはそう言って、マーロンに向かってにっこりとほほ笑む。


「マジか………。どうなってんのよ………。俺ですらどうにもできなかったこいつを、こんな年端(としは)も行かない少女が………」


 どうやら獅子神はショックを受けているらしい。自分でさえ扱いきれなかったマーロンという狂犬を、僅か10代の少女が手懐けているのを見て衝撃なのだ。


「お嬢は俺の命の恩人なんだよ。俺の命を賭けてお仕えするのが筋だろう?」

「だとしてもだよ。命を救われたからと言って、そう簡単に自らの人生をその恩人に(ささ)げられるか?」

「確かに、言われてみればそうか………」


 今までマーロンは、それが当然だと思ってセレーネに仕えてきた。

 だが、獅子神に言われて初めて気付く。確かに、マーロンのセレーネへの執着は異常なのかもしれない。それも初めて会った時から、マーロンは彼女の為に生きると決めていたのだ。それは確かに、(はた)から見れば異常に映るかもしれない。

 そう考え、マーロンは当時の事を思いだす。あの時、セレーネに命を救われた時、マーロンはどんなことを思っていたのかを。


「そうだな………。お嬢に初めて会った時、俺はこの人の為に生まれ変わったんだと悟ったんだ。この人のためなら命を賭けられると」

「完全な感覚か?」

「ああ。なんて言うんだろうな、この感覚………」


 マーロンは考える。あの時セレーネに対してい抱いた感覚。それは一体何なんだろうと、マーロンは思考する。今まで感じた事の無いような、惹きつけられるような感覚を覚えたのだ。その感覚は何なのか、マーロンの語彙力では探しきれない。


 そんなマーロンを見て、セレーネが少し恥ずかしそうな表情で言う。


「運命………でしょうか?」


 セレーネは顔を少し朱くしながら言った。

 運命という言葉。マーロンはその言葉に、妙にしっくりくるような感覚を覚える。


「竜の逆鱗(げきりん)を届けて気絶してしまい、ベッドに眠っているマーロンの姿を見て、私は惹きつけられたのです。まるでマーロンと出会うのは運命づけられていた、そんな感覚です」


 恥ずかしそうに、だが、噛みしめるような表情でセレーネは言った。たぶんその感覚は、マーロンが覚えたのと似た様な感覚だ。


「私もです、お嬢。お嬢に初めて会った時、思い返せば確かに、惹きつけられるような感覚でした。―――それが運命だというのであれば、確かにしっくりきます」


 言葉にしてみて()に落ちた。ああそうか。確かに自分は、セレーネに何か運命的な物を感じていたのだ。


「運命、ね………。狂犬がえらくロマンチストじゃねーの?」

「うるせーよ」


 獅子神がニヤニヤとしながらマーロンに言う。だがその表情からは、意外にロマンチストなマーロンをいじる意図ではなく、狂犬が大切な人を見つけられたことに対する嬉しさが読み取れた。


 マーロンは気恥ずかしさで、セレーネや獅子神から目を逸らす。セレーネと同じく少し顔を朱くし、恥ずかしさを隠すようにそっぽを向いた。


 そんな恥ずかしがるマーロンとセレーネの2人に向かって、意外な人物が言葉を発した。


「恐らく、その運命というのは間違いではないかと思います」


 そう言葉にしたのは、まさかのエルフの女性であった。共にスレイブ商会の奴隷収容所から抜け出した、奴隷になりかけていたエルフの女性だ。


「あの………、あなたは?」

「申し遅れました。私の名前はエルム。精霊の森に住むエルフの戦士です」


 今まで(かたく)なに名乗りすらしなかったエルフは、セレーネからの問い掛けにはすぐに従い、名乗りを上げた。

 そして、エルムと名乗ったそのエルフは、まるで目上の者に対するかのようにセレーネに向かって膝をついた。


「えっと、どういうことですか?」


 この状況を全く飲み込めないセレーネと周囲の人達。当然、セレーネも何が何だかわからない様子だ。急にエルフの女性がしゃべり出したと思ったら、セレーネに向かって(ひざまず)いたのだ。


「セレス様………。いや、この時代ではセレーネ様でしたね」


 エルムがセレーネの目を真っすぐに見る。

 そして次の瞬間、驚くべき言葉を口にした。


「我々エルフはあなたの事をずっとお待ちしておりました。『()()()()()』様」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ