63. 収容所脱出作戦
スレイブ商会の奴隷収容所にて、別動隊のファストたちと無事合流したマーロンたちは、共に奴隷収容所からの脱出を目指す。
先頭はアンナとファスト。収容所の出口がわかるかつ、戦闘能力も高い2人だ。この2人であれば道案内しつつ、接敵した時は素早く敵を処理できる。最適な配置だろう。
マーロンと獅子神は怪我をしているため後方で待機だ。と言っても殿という大事な役目も持っているため油断はできない。撤退を余儀なくされた場合は、マーロンと獅子神が道を切り開く必要がある。
今も奴隷収容所内を突き進むマーロンたちの前から、2人の人影が現れる。
首に首輪のような紋様を付けた2人組の男性。誓約によって自由を奪われた、転生者の奴隷だ。
スレイブ商会の奴隷収容所内はこの2人組のように、転生者の奴隷による警備が複数配置されている。
転生者というのは特殊な力を持っている。戦う力も持っていて、更に主人に逆らうことも無い。一兵としては最適な人間なのだ。
「見つけた!捕まえろ!」
2人組の転生者の内、1人がそう叫んだ後、2人同時に手をこちらにかざしてきた。
恐らく何らかの特殊能力を行使するつもりなのだろう。
「ここは俺に任せてくださいっす!」
「栗原さん!私に任せてください!」
まるで張り合うかのように、先頭のファストとアンナが駆け出した。目指すは2人組の転生者だ。
マーロンたちに手をかざしていた転生者たちは、その標的を向かって来るファストとアンナに変更した。
「くらえ!!」
その掛け声とともに、2人組の転生者の手から同時に何かが放たれた。
1つは氷弾で、もう1つは水弾であった。
これが彼らの能力なのだろう。射出された二つの別種の弾は、真っすぐにアンナとファストに向かって飛んで行く。
「遅いっす!」
「遅い!」
ファストとアンナは同時に横に跳躍し、襲い掛かってきた氷弾と水弾を悠々と避ける。
そして、そのまま横の壁に足を付け、壁の表面を走り始めた。
「くっ!」
転生者2人は負けじと何度も氷弾と水弾を射出するも、壁を縦横無尽に走り回るアンナたちの動きに翻弄され、その身体を捉えることはできない。
壁を走り、遂に転生者2人の近くまで辿り着いたアンナとファストは、そのまま2人の転生者を同時に攻撃する。
「死になさい!」
「最強アッパー!」
アンナは両手に持った2本の短剣で斬り裂き、ファストは右拳でアッパーを繰り出した。
2人の攻撃をまともに喰らった転生者たちは、2人とも倒れ込んで気絶する。
転生者相手であっても無傷での勝利だ。流石、栗原組の幹部たちである。
「どうっすか!?」
「どうでしたか!?」
2人の転生者を倒したファストとアンナが、マーロンの方を向いて尋ねてくる。
なるほど。2人はどうやら、マーロンに良い姿を見せたくて転生者に向かって行ったようだ。
「やるじゃん」
マーロンはそんな2人に、簡潔な感想を述べる。
マーロンからの短い賛辞の言葉に、アンナとファストは同時に満面の笑みを浮かべた。
そんなこんなで進むことさらに数分。さっきまで断続的に続いていた敵兵からの襲撃が、ある時を境にパタリとやんだ。
「敵兵がいなくなったな。全員やった………って訳じゃねえよな」
マーロンが走りながら呟くと、それに応えたのはファストであった。
「ですです。おそらくゲリラ戦では不利だと悟ったんでしょう。どこかに兵を集中させて待ち伏せているのかもしれないっす」
「となると出口が怪しいな。出口を固められているとなると面倒だ」
断続的な襲撃ではマーロンたちに各個撃破されるだけだと悟ったのだ。このままでは兵力がいたずらに削られるだけだと知り、豊富な戦力を生かすため、兵力を集中させてどこかで待ち伏せをしているのであろう。
そして、それは恐らくこの奴隷収容所の出口。マーロンたちが脱出するためには、必ず通らなければいけない場所だ。
「―――あいつもいるとなると厄介だな」
ファストとマーロンの話に入ってきたのは獅子神だ。なんだか忌々しげな顔をしながら呟いている。
「あいつ?」
「転生者連合のアジトを襲撃された時、襲撃者たちの指揮官をしていた奴だ。くるくるの長髪を携えた、転生者の男で、奴の前に立つだけで身体が動かなくなった。おそらく奴のユニークスキルだ」
獅子神たちが組織した転生者連合。彼らのアジトを襲撃したメンバーの中に、強力なユニークスキルの使い手がいたと獅子神は言う。
「そいつは恐らく蛇目っすね」
答えたのはファスト。
「スレイブ商会が所有する、戦闘用の転生者奴隷の1人っす。視界に入った人間を動けなくするっていう、激やばなユニークスキルの持ち主っすね。結構有名っす」
「なんだその能力。めちゃくちゃじゃねえか」
視界に入っただけで敵の動きを奪う。聞くだけで強力な力である。
「なるほど。俺は奴の視界に入ったから動けなかったのか」
獅子神が悔しそうに言う。
「そんなやつがいたらどうにもできないじゃない!」
夕日茜の言葉だ。彼女の言う通り、そんな力の持ち主が待ち伏せているとなると、奴に見られただけで一発アウトである。
「対策は必須だな」
「そう言うが栗。見ただけで動けなくなる奴をどう対策する?」
マーロンと獅子神が同時に頭を捻る。視線に入るだけで一発終了の敵だ。どう戦えばよいものか、思考を巡らせる。
「遠くから狙撃するのは?」
「狙撃なら確かに視界に入らずに殺すことは可能だな」
銃での狙撃。これなら確かに、蛇目の視界に入らずに殺せる可能性は十分ある。
「狙撃なら俺か………」
「地山。そうか、お前は元自衛隊だったな」
「ああ。この中の誰よりも、ライフルの扱い方を知ってるだろう」
元自衛隊の地山が言う。確かに彼が一番適任だ。
「けど、別にスナイパーだったわけじゃない。外す確率だってそれなりにあるぞ?それに、最適な狙撃位置にターゲットが居ないかもしれない」
地山の言う通りだ。
100発100中のスナイパーなどいない。それが本業でなければなおさらだ。外せば居場所がバレ、一気に窮地に陥ってしまうだろう。
それに、蛇目が待ち構えているのは恐らくこの収容所の出口であろう。建物の中から狙撃するのは可能かもしれない。だが、そう都合よく蛇目が姿を現してくれるかわからないのだ。
狙撃できない場所に蛇目がいる時の作戦も考えとかなければならないだろう。
「―――奴の視界を潰すことができれば………」
マーロンがそう呟いた時、とある作戦を思いつく。
「地山。こんなものを作れないか?」
マーロンはそう言って、地山にとある物の作成を依頼する。
地山が持っているユニークスキルは現出。自身が触ったことのある物体を何でも作り出す能力だ。
「可能だ。自衛隊時代に触ったことがある」
「確かにそれなら………!」
地山と獅子神がマーロンの作戦に同意する。どうやらマーロンの思い描いた通りの事はできそうだ。
「よし。後はそうだな。―――俺たちの勝利の女神に頼みごとをしておくか」
そう言ってマーロンは、心の中でとある人物に話し掛けた。
『フィーネ様。聞こえますか?』




