62. 別動隊と合流
スレイブ商会の奴隷収容所。その牢屋の中に捕らえられていたマーロンと獅子神たちは、共に牢屋を脱出し、破竹の勢いで収容所内を突き進んでいた。
「オラオラオラァ!!」
「どけよ雑魚共がァ!!」
マーロンと獅子神は、警備兵を片っ端から蹴散らしながら施設内を進む。
まるで2人で競い合うかのように、人狼姿のマーロンと人獅子姿の獅子神がスレイブ商会の兵たちを次々と薙ぎ倒す。
元極道と元警察。混じり合わない筈の2人が、この場ではまるでかつての相棒であるかのように息を合わせて敵を蹴散らしていく。
その勢いは誰にも止められず、時折姿を見せる特殊能力を持った転生者の敵兵でさえも、一瞬にしてマーロンたちに弾き飛ばされる。
「いいのかよ?さっきのも転生者だろ?」
マーロンが敵兵をぶん殴って吹き飛ばしながら獅子神に問う。
「いいんだ。誓約を交わされたら最後、解放されることはない。殺さないでいてやるだけ感謝して欲しいくらいだね」
「ふーん。じゃあ遠慮はいらんか」
獅子神とそんな会話を交わしながら進むマーロンたち。
目指すは地上にいる、ファスト率いる別動隊だ。
そんなこんなで進むこと数分、ようやくマーロンたちは前方にファストたち別動隊の姿を見つけた。
「茜!栄太!」
マーロンがファストに話しかける前に、転生者連合の仲間を見つけた獅子神が彼らの名を呼ぶ。
「「獅子神さん!!」」
獅子神の声に気付いた夕日茜と地山栄太は、獅子神の方を振り向いて駆けて来る。
全力で駆けた2人の仲間たちは、その勢いのまま人獅子姿の獅子神に飛びついてくる。
「良かった!獅子神さん、無事だった!」
「心配したんですよ!獅子神さん!」
夕日茜と地山が獅子神との再会を喜ぶ。目に涙を浮かべながら、獅子神と熱い抱擁を交わす。
「悪かった。心配かけたよ」
獅子神が優しげな表情で2人を出迎える。2人の頭をポンポンと叩き、2人からの抱擁を受け止める。
夕日茜と地山。この2人の様子から、獅子神の事を心の底から心配していたことが見て取れる。今も2人は獅子神に抱き着いたまま、身体を離す様子は見えない。
そんな3人の様子を見守っていたマーロンに話しかけてくる人物が2人。
「兄貴!お勤めご苦労様っす!」
「お勤めご苦労様です」
1人は栗原組のファスト。栗原組レズール支部の支部長だ。
ファストがこの場にいるのはわかる。だが、もう1人の方は意外な人物であった。
「―――アンナ。なんでお前がここにいる?」
そう。ウェスト王国のビレストの街に居るはずのアンナが、何故かイースト帝国のレズールにいるのだ。
「ファストのバカが抜け駆けしようとしていたので、急いで駆け付けました」
「駆け付けましたって………。ビレストの方はいいのかよ?」
「問題ありません。信頼する部下に任せてありますので」
「ならいいんだが………」
どうやらアンナはファストが栗原の依頼を黙って受けたことを聞きつけ、わざわざ別国のレズールまで駆け付けたみたいだ。
「クソだりいっす姉御。折角兄貴と2人で楽しめると思ったのに」
「黙りなさいファスト。栗原さんを独り占めしようったって、そうはいきませんから!」
「うぜぇ~!激重女!!」
「殺すぞクソガキ!!」
口汚く罵り合うファストとアンナ。そこまでしてマーロンと仕事したいのか、マーロンにはわからない気持ちである。
「そう喧嘩すんな。ここは敵地だぞ」
「うぃっす。了解っす兄貴」
「はい。わかりました栗原さん」
マーロンの注意には大人しく従う2人。さっきまで罵り合っていたのが嘘のようにケロッと態度を変えた。
マーロンたちがそんなやり取りをしている間に、獅子神たちの再会の喜びは終わったようで、ようやく3人は身体を離してマーロンに話しかけてくる。
「栗。ありがとう。お陰で助かった」
獅子神からの感謝の言葉。彼からそんな言葉を言われたのは前世も含めて初めてかもしれない。少しだけ気持ちよくなるマーロン。
「これで前世での借りはチャラな」
「了解」
マーロンは前世でガキの頃、獅子神に何度も世話になっていた。獅子神がいなければ、マーロンはガキの頃にどこかで殺されていただろう。その借りを返すことができて、マーロンも満足気だ。
「栗原。ありがとう。獅子神さんを助けてくれて」
「俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう」
夕日茜と地山も栗原に礼を言ってくる。
「お前たちの為にやった事じゃない。獅子神には借りがあった、それだけだ。―――それに、まだ脱出してない。喜ぶのはまだ早いぞ」
まだここは敵地のど真ん中だ。今すぐどこかから襲われても不思議はない状態である。
「それもそうだな。すぐに脱出の準備をしよう。―――が、その前に………」
獅子神が突然に振り向き、後ろにいた2人の女性のうち、1人の姿を見る。
マーロンや獅子神と共に牢屋を脱出した2人の女性のうち、吉田という転生者の女性だ。
「茜。彼女は保護対象か?」
獅子神が夕日茜に問う。
「―――いえ。美人局。犯罪者よ」
「了解」
獅子神は夕日茜のその言葉を聞くと、いつの間か手にしていた拳銃を吉田に向けた。
「えっ!?どういう―――」
バンッ!!
突如銃口を向けられた吉田が狼狽えるが、彼女の言葉を最後まで聞く前に獅子神は引き金を引いた。
銃弾は吉田の眉間に命中し、一瞬にして吉田の命は奪われた。
「―――容赦ないね」
「こんな世界だからな」
「なるほど。前世のように甘いままかと思ってたが、どうやらあんたも変わったみたいだな」
マーロンが容赦なく吉田の命を奪った獅子神の行動に驚き、舌を巻いた。
かつて栗原を気にかけていた獅子神の甘い姿はそこには無く、獅子神はいつの間にかこの世界に染まり、容赦のない男に変貌していたようだ。
恐らく、これが転生者連合の役割なのであろう。
転生者たちの保護を目的としている転生者連合。彼らは夕日茜の目で転生者の本質を見て、保護対象であれば保護する。保護対象外であれば容赦なく殺す。そんな活動をずっと続けて来ていたのだろう。
突然に隣の女性が殺されたしまったからか、一緒に牢屋を脱出したエルフの女性が、驚きつつ警戒を強め、獅子神の事を睨みつける。
この世界には銃が無いため、エルフの彼女は獅子神が何をしたのかわかっていない。だが、獅子神が何らかの方法で吉田を殺したのはわかっているようだ。
「どういうつもり?」
エルフの女性が獅子神を睨みつけながら問う。
「―――茜。彼女はどうだ?」
「人間への憎悪に溢れてる。けど、私たちへの敵意は無いみたいだった。―――さっきまではね」
つまり、今は敵意があるという事である。
たぶん、獅子神が吉田を躊躇もせずに殺したからであろう。
「―――あんたを殺すつもりは無い」
「それを信じろっていうの?何をしたかはわからないけど、吉田って人間を殺したくせに」
「彼女はクズだったからな。けど、あんたはそうじゃないらしい。だったら俺も殺すつもりは無い」
獅子神がエルフの女性の説得にかかる。確かにエルフの女性が獅子神を警戒するのは無理もないことであろう。だが、獅子神にはエルフの彼女を見捨てるつもりは無いみたいだ。そういう所の甘さは、未だに捨てきれないでいるらしい。
「信じられないのもわかる。でも、今俺たちと離れて、あんた1人でこの場所を生きて出られるか?」
「―――ッ!」
どうやら図星であったらしく、エルフの女性の顔が苦く歪む。
「信じなくてもいい。けど、脱出までは一緒に行動してくれ。俺たちはただ、あんたを助けたいだけだ」
その言葉が決定打となったのか、エルフの女性が苦い顔ながらも、渋々頷く。確かにここは敵地のど真ん中だ。こんな所で1人取り残されれば、また牢屋に逆戻りであろう。
「よし、用事は済んだ。脱出に向かおう」
獅子神がそう言うと、夕日茜が答える。
「了解。出口の場所は覚えてるわ。まずはそちらに向かいましょう」




