61. 獅子神救出作戦開始
~ マーロン ~
作戦決行日当日。マーロンは牢屋の中で、決行の時を待つ。
決行の合図はフィーネからの念話だ。
『マーロンさん。聞こえますか?』
牢屋の中で精神を研ぎ澄ませていたマーロンの元に、遂に待ちに待ったフィーネからの連絡がきた。
『聞こえます。時間ですか?』
『はい。別動隊が奴隷収容所へと到着しました。作戦開始です』
『了解!』
マーロンはフィーネからの合図を聞き、血を滾らせる。
作戦はいたってシンプル。栗原組と転生者連合の夕日茜、地山からなる別動隊が奴隷収容所にカチコミをかける。別動隊には派手に動いてもらい、敵の戦力を引き付けてもらう。
それと同時にマーロンたちも動き、奴隷収容所の内部から脱出を目指す。これが今回の作戦である。
今のマーロンは『封魔石』で出来た手枷を嵌めている。封魔石の力によって魔力を封じられ、魔法はおろかユニークスキルの使用もできない状態である。この状態では戦えもせず、敵に見つかればすぐに捕まってしまう。
だが、それを想定していないほど馬鹿ではない。マーロンが現在付けられている手枷。これを用意したのは他でもないマーロンたちである。
本鍵はマーロンを引き渡した時にスレイブに渡しているが、こっそりスペアキーも用意してあったのだ。発信機と一緒に、マーロンの身体の中に仕込むという方法で。
「なんだか騒がしいな………」
獅子神が周囲の音を聞いて呟く。
確かに建物全体で、人が動き回る音があちらこちらから聞こえてくる。
どうやら別動隊は既に中に侵入し、予定通り暴れまわっているようだ。
牢屋の警備をしていた私兵達にも騒ぎが耳に入ったのか、少し浮足立って歩き回っている。動くなら今がチャンスだ。
マーロンは手枷を嵌められた腕を動かし、上半身の服をめくり上げた。
めくり上げた服から見えるマーロンの身体。引き締まった筋肉が見える中、お腹の右あたりに大きな怪我の後があった。まるで肉を刃物で斬り裂いて、無理やり縫い付けた様な傷である。
マーロンはそんな大きな傷の場所におもむろに手を持って行き、一気に自らの傷に手を突っ込んだ。
ブチブチと肉や縫い付けた糸が切れる音を立てながら、広がっていくマーロンのお腹の傷。
「お、おい!お前、何やって………」
突然自傷行為を始めたマーロンを見て、獅子神が慌てた様子でそれを止めようとする。
「大丈夫だ、見てろって。………ッ!」
マーロンは痛みを堪えながら傷の中に手を突っ込む。そして、自らの肉の中にあった2つの小さな物体を掴み、身体の外に取り出した。
「お前………それ………!」
マーロンの身体の中から出て来たのは、血に塗れて赤くなった鍵と発信機であった。
「なんでわざわざ奴隷になって捕まったかと思ったら、そういう事かよ!」
マーロンが取り出した物体を見て、獅子神がようやくマーロンの作戦に気付いた。
自らが奴隷として敵地に乗り込むことで、発信機によって場所を特定したのだ。
「そういう事だ。まずは獅子神の手枷を外すための鍵を見つける。その後に別動隊と合流だ」
マーロンは取り出した鍵を使って自らの手枷を外しながら、獅子神に作戦を伝える。
「まて。脱出するのはわかった。だが、出るのは彼女たちも一緒だ」
獅子神がそう言って指差したのは、隣の牢に捕まっていた女性2人だ。吉田という転生者の女性とエルフの女性だ。
「俺が助けてくれと頼まれたのは獅子神、お前だけだ」
「だろうな。けど、彼女たちを見捨てるというのなら、俺はここから動かん」
獅子神はそう言って、牢屋の床に堂々と胡坐をかいた。テコでも動かない。そういう意思表示だ。
「―――ったく………。わかったよ。相変わらず甘い奴だな」
「さんきゅ。栗」
マーロンは頭を掻きながらも獅子神に従う。ここで獅子神を置いて行けばそれこそ本末転倒である。ここは獅子神に従うしかない。
マーロンは獅子神との会話を終えると、封魔石の手枷が外れて自由になった魔力で、自身のユニークスキルを行使した。
人狼化。マーロンの身体が膨張し、3メートルほどの人狼が突然に姿を現した。
「「なっ!?」」
マーロンの姿の突然の変貌に、獅子神が、隣の牢屋の中の女性2人が一様に驚く。
「栗………!お前それ!」
「転生者の特殊能力って奴だ。かっこいいだろ?」
「―――狂犬が狼になったって事かよ………!かっけえじゃねえか!」
獅子神が口角を上げながらマーロンの姿を観察する。見たものを震え上がらせる獣であるが、獅子神はマーロンの姿に怯えたりはしていないようだ。
「そんじゃ早速行ってくる」
一先ずは獅子神たちの手枷の鍵を探さなければならない。おそらく看守室のようなものがあり、そこに鍵が置いてあるはずだ。
マーロンは牢の鉄格子の前に立ち、両手で鉄格子を掴んだ。
そのまま両手を左右に伸ばし、鉄格子の間の空間を一気に広げ始める。
まるでゴムのようにグニャリと曲がる鉄格子。気付けば人狼化したマーロンでさえ通り抜けられそうな巨大な穴が開いていた。
マーロンは自らで拡げた穴をくぐり、牢屋の外に出る。
「お、おい!お前何やって!」
マーロンが牢屋の外に出た瞬間、見張りの1人に見つかってしまう。
「よう。世話になったな」
マーロンは言いながら一気に駆け、見張りに一瞬で近付き、右拳を振り抜く。
「ぐへぇ!!」
マーロンからの強烈な一撃をモロに喰らい、吹き飛ばされて意識を失った私兵。
そのままマーロンは通路を走って進む。見つかった私兵を一撃でのしながら、マーロンは看守室目指して一直線に突き進む。
そして辿り着いた看守室の中。中にいた何人かの私兵もぶちのめし、牢と手枷の鍵を取って獅子神たちの元へ戻る。
「早かったな」
そんな事を言いつつ、獅子神が自らの手枷を外す。これで獅子神も自由の身だ。
「あ、ありがとう………」
マーロンに手枷を外された吉田は、マーロンの姿に怯えつつ礼を言う。今のマーロンは人狼の姿である。やはりその姿は怖いのだろう。
「―――助かった。まさか人狼族だったとは」
エルフの女性も手枷を外してやると、マーロンに礼を言った。今までの態度であれば無視されるかと思っていたが、どうやらマーロンの事を本物の人狼だと勘違いしているようだ。だが、ここでその押し問答をしている暇は無い。
全員を解放し終えたマーロンは、オペレーターのフィーネに状況を報告する。
『フィーネ様。獅子神を牢から解放しました。一緒に捕まっていた2人の女性も一緒です』
『了解ですマーロンさん。マーロンさんがいるのは施設の地下のようですので、まずは地上を目指してください。別動隊も向かっていますので、途中で合流をお願いします』
『了解です!』
フィーネからの指示を受け、獅子神たちに今後の作戦を伝える。
「これから地上に向かい、別動隊と合流する」
「了解。来てるのは茜と栄太あたりか?」
「おう、正解だ。栗原組も一緒だけどな」
獅子神が言っているのは、転生者連合の夕日茜と地山栄太のことだ。
仲間である彼らが助けに来ていると知り、獅子神も嬉しそうである。
そんな彼らの元に、どたどたと何者かが近付いてくる足音が複数。
「なっ!?」
「おいお前ら!どうやって牢を抜け出した」
近付いて来たのはスレイブ商会の私兵たちだ。大切な商品が保管されている施設である。警備する兵もそれなりに多いようだ。
私兵に見つかったマーロンは、私兵を蹴散らそうと前に出ようとする。
だが、それを獅子神が止めた。
「お前ばかりにいいかっこさせれるかよ。ここは黙って見てろ」
獅子神がそう言って一歩前に出る。
「了解。じゃあ任せた」
「おうよ。任せとけ」
獅子神がそう言った瞬間、獅子神の身体が少しずつ膨張し始めた。
「!?」
「栗。どうやら俺たちは似た者同士らしいな」
驚くマーロンを尻目に、獅子神の姿がどんどん変化を始める。
獅子神の体躯がどんどん膨張し始め、その体皮が黄褐色の毛に包まれ始める。腕が太く膨張し、その先には鋭い爪がこれでもかと光り輝く。
顔にも黄褐色の毛は侵食し、その形を獣のものに変える。鋭い肉食獣の目に、口から見える尖った牙。獣の頭を覆うのは、茶色でふっさふさの鬣だ。
「―――マジかよ………!」
完全に形を変えた獅子神の姿。そこには、まるで人とライオンが混ざったような、そんな生物が目の前にあった。
「『人獅子』。お前が狼なら、俺は獅子だ」
2足歩行のライオン。身長は人狼化したマーロンと同じく3メートル程度で、その肉体は筋骨隆々だ。ライオンの顔を持った巨人。そんな生物がそこにはあった。
「獅子神だからライオンってか?安直だな」
「知らねえよ。気付いたら使えるようになってたんだ」
言葉ではそう言ったが、マーロンは獅子神らしい良い能力だと思う。特に犯罪者を前にした獅子神というのは、前世から獅子のように勇敢で強い男であったからだ。
「さて、行くか」
獅子神はそう言ってスレイブ商会の奴隷たちに向き直る。
突然に姿を変えた獅子神の姿に、私兵たちも驚き慌てふためいている。
「行くぞゴラァ!!」
そう言って獅子神は地面を蹴り、一瞬にして私兵たちの懐へと入る。
そのまま右手の拳を振り上げて、私兵の1人を吹き飛ばす。
「ぐへぇ!!」
吹っ飛ばされた私兵の1人は地面に激突し、その意識を手放す。
「まだまだぁ!!」
暴れまわる獅子神の速さについて来れない私兵たちは、獅子神の攻撃になすすべなく倒されていく。
数秒後。気付けば獅子神の周囲に立っている私兵はいなくなっていた。
「よし。片付いたぞ」
「やるじゃん」
そう言って獅子の顔で笑う獅子神に釣られ、マーロンもニヤリと狼の顔で笑った。




