60. マーロンの作戦
~ フィーネ ~
マーロンがスレイブ商会に捕まってから2日後。フィーネは栗原組レズール支部の中でほっと息を撫で下ろした。その理由は、ようやくスレイブ商会の奴隷収容所の場所を突き止めたからである。
場所を突き止めた方法はいたって簡単。マーロンの身体の中に発信機を仕込んだだけである。
まず初めに、転生者連合の地山のユニークスキル『現出』で発信機を作り出す。半径5キロメートルほどに電波を飛ばす、強力な発信機だ。
次は作り出した発信機を、マーロンが自らの身体の中に埋める。フィーネにはその様子は見せてくれなかったが、自らの腹の肉を斬り裂いて、その中に発信機と手枷を外すための鍵を隠したらしい。腹からこぼれ出ないように少し荒く縫い留め、その様子をフィーネが見ていれば、痛々しくて目を背けてしまっていたであろう。
そして、マーロンをスレイブ商会に売り飛ばし、奴隷収容所に送らせる。そうすることで、マーロンは発信機を身体の中に隠したまま、奴隷収容所に収監されるのだ。
後はもう簡単だ。同じく地山が作り出した受信機を使って、マーロンが持つ発信機が出す電波を追い、奴隷収容所の場所を突き止めるだけである。
『マーロンさん。聞こえますか?』
『聞こえます!フィーネ様!』
フィーネが自らのユニークスキル『念話』を使って、マーロンに話しかけた。すると、マーロンは少し嬉しそうに心の中で言葉を返してくれた。
『どうしたんですか?なんだか嬉しそうです』
『牢の中暇なんですよ。隣にはむさい男がいるし、フィーネ様の声が恋しかったんです』
『そ、そうなんですね………』
マーロンからの嬉々とした声で、マーロンが本当に暇だというのが窺い知れる。
捕まっている状態だというのに真っ先に出てくる感想が暇というのはいかがなものかと思わなくもないが、そこは聞かないで置いた方がお互いのためであろう。たぶん、前世でも捕まっていた経験があるとか、そういう理由なのであろう。
『えっと………、収容所の場所が特定できました』
『ほんとですか!?それは嬉しい知らせです』
マーロンの嬉しそうな声が頭の中に響く。たとえ念話であっても相手の感情が伝わってくるほど、マーロンの声は嬉々としている。
『マーロンさんの方はどうですか?獅子神さんと合流出来ましたか?』
『はい。獅子神の奴と同じ牢に入ってます。怪我はあちこちにあるみたいですが、命に別状はありません』
マーロンからの報告にほっとするフィーネ。獅子神がもし居なかったりしたら、それこそマーロンの捕まり損である。とりあえず作戦は上手くいっているようだ。
『他にも捕まっている人間が2人。転生者の女性が1人と、エルフの女性が1人です』
『フィリップさんからの情報通りですね。良かった』
スレイブ商会の会長であるスレイブは、転生者3人とエルフを捕まえたと言っていたらしい。どうやらフィリップからもたらされたその情報に偽りはなかったようだ。
『作戦の決行はいつですか?』
『決行は翌日の深夜となりました。決行の時は再度念話でお知らせしますので、今は身体を休めておいてください!』
『了解しました!』
奴隷収容所はレズールの街の中にあるため、そう遠くない。今から準備すれば充分、明日の決行に間に合うのだ。
『あっ………!獅子神が怪しんでるんでもう切上げますね。もう少しお話をしたかったのですが………』
『わかりました。ではまた、後程』
フィーネはそう言って、マーロンとの念話を終了する。
「栗原さんはどうでしたか?フィーネ様」
マーロンとの念話が終了したのを見計らい、話し掛けてきたのは栗原組幹部のファストだ。
今日も緑髪のリーゼントを携えて、少し怖い人である。
「無事獅子神さんを見つけたみたいです。怪我はしているそうですが、命に別状はないと」
「本当!?」
「本当か!?」
フィーネのその言葉を聞いて喜んだのは夕日茜と地山だ。
「良かった。獅子神さん、無事だったんだ」
「ああ。あの人が死ぬはずないとは思っていたが、やはり心配だったからな」
夕日茜と地山は共にほっと息を撫で下ろす。彼らは本当に獅子神の事を心配していたのだろう。一先ずは命があるとわかってほっとしたのだ。
「では決行は予定通り、明日の深夜で問題なさそうですね」
「「了解!」」
「了解です!」
ファストの一言に、フィーネたちが一斉に反応する。
決行は明日。奴隷収容所を襲撃するメンバーにフィーネは入っていないが、遠くから念話でサポートするという役割があるので、フィーネも来るべき戦いに少し緊張気味である。
そんな彼らが話す栗原組レズール支部の部屋の中に、突然に大きな音が響く。
バタンッ!!
まるでドアを蹴破るかのような音が、部屋の中に響いた。
フィーネたちは驚き、音がした方向を見る。
そこに立っていた人物は――――――、
「ファスト………!どうやら間に合ったようね………!」
蹴破られた部屋のドアの先に立っていた人物。それはアンナであった。
栗原組の2代目ボス。ビレストの街に居るはずのアンナだ。
「あ、姉御………!なんでレズールに………!?」
まさかのアンナの登場に、ファストが大口を開けて驚く。見られてはいけない物を見られたかのように、冷汗をだらだらと垂らしながらアンナを見る。
「ファスト?何か言いたいことはある?」
アンナが眉間に深いしわを刻みながらファストに問う。見るからに怒り心頭である。
「な、何のことですか姉御………」
「ふーん。あくまですっとぼけるつもり?」
アンナは腕を組み、片足のつま先をトントンと鳴らす。
「部下から報告があったわ。栗原さんとカチコミの予定があるって?」
「げっ!?バレてる!?」
ファストのこの反応である。それでは完全に自白しているようなものだ。
「私に黙ってやろうとしてたわね………?」
ファストはどうやら獅子神救出作戦をアンナに伝えないままであったらしく、そのことにアンナは怒っているようだ。
「ほ、報告するまでもないと思いまして………」
「栗原さんに関することは全て報告するように、口酸っぱく言っておいたはずだけど?」
「そ、そうでしたかね………?」
苦しい言い訳を重ねるファストに、アンナの怒りのボルテージは上がっていく。
「―――ファスト。栗原さんを独り占めしようとしたわね?」
「そ、そんなことするはずないじゃないですか~!やだな~!」
あくまでとぼけようとするファストの態度に、遂にアンナが切れる。
「ファ~ス~ト~!!」
アンナはファストの名を叫びながら、ファストに躍り掛かった。
突然襲われたファストは抵抗もできず、アンナによって関節をきめられる。
「いてててて!!アンナの姉御!!やめてくださいっす!!」
「あんたが認めるまで絶対にやめないわ!!」
「ぎゃあああああああ!!いたいいたい!!!」
ギリギリと関節をきめられ続け、苦痛に表情が歪むファスト。ファストは徐々に涙目になって行き、遂にトントンと床をタップした。
「ギブ!ギブっす!姉御の言う通りっす!黙って栗原さんと仕事しようとしてたっす!!」
とうとう白状したファスト。白状したファストの言葉を聞き、アンナもようやくファストの関節を解放する。
「―――ファストだけズルいわ!私だって栗原さんと仕事したいのに!」
「それはこっちのセリフっす!夜空の青炎の時は、姉御だけ栗原さんとカチ込んだくせに!!」
「そ、それはそうだけど!」
どうやらファストはマーロンからの依頼を独占しようとし、アンナがそれに気付いて怒りのあまり駆けつけてきたという事らしい。なんともしょうもない理由である。
「と、とにかく!私もそのカチコミに参加しますから!!」
「クソッ!栗原さんを独り占めできると思ってたのに!!」
無理やり同行を決めたアンナと、悔しそうに悪態をつくファスト。
どうやらマーロンは、栗原組のメンバーからめちゃくちゃ愛されているようだ。
「それで?その栗原さんは?」
アンナが問うと、ファストが気まずそうに視線を逸らして。
アンナはそんなファストの態度を見逃さなかった。
「ファスト?どういうことですか?栗原さんはどこですか?」
アンナがファストに再度尋ねると、ファストは観念したかのように話し始めた。
「―――栗原さんは奴隷になってスレイブ商会に潜入中っす」
「は?――――――はぁ!?」
アンナが口をあんぐりと開ける。
「なんでそんな危険な事させてるのよ!!」
「も、もちろん止めましたよ!!でも、一度決めた栗原さんが止まらないことは姉御だって知ってるでしょ!!」
「くっ………!あの人はまた無茶して………!」
アンナが呆れ返ったかのようにため息をつく。無茶な作戦を実行したのは、どうやら今回だけじゃあないらしい。
「とにかく!絶対に栗原さんを助け出すわよ!!」
「姉御!趣旨変わって来てますって!!」




