表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/85

57. マーロンとフィーネと栗原組と転生者連合

 ~ 栗原組 アンナ ~


 アンナにとって、そして栗原組の幹部たちにとって、栗原は神にも等しい存在である。

 アンナが10歳程度の時、当時一緒に行動していたフィリップ、ファストの三人が質の悪い大人に殺されそうになった事がある。そんな時、面識もなかった栗原が颯爽(さっそう)と駆けつけて、アンナたちを救ってくれたのだ。

 ボロボロの装いに、刃のかけた古いナイフ。アンナたちとそう変わらないスラムの小汚いガキ。そんな栗原が大人たちの間を()い、古びたナイフで次々と大人たちを始末していく。1人は喉を引き裂き、1人は心臓を一突き。そんな栗原の姿に、アンナたちは一様に目を奪われた。

 それからだ。栗原の事を神のように(した)うようになったのは。


 栗原はアンナたちを救うだけでなく、生きる術も教えてくれた。

 人を殺すのに特化した戦闘方法。バレない盗みやスリの方法。ビジネスの方法。スラム街で生きるガキが、何とか食い繋いで行けるような方法を、栗原はアンナたちに叩き込んだ。

 そのお陰でアンナたちは死なずに済んだのだ。


 栗原とアンナたちは、いつの間にか組織のように大きくなっていた。始めは栗原、アンナ、フィリップ、ファストだけだった。だが、他のスラムの子供を次々と吸収していく内に、その徒党は大きくなっていったのだ。

 それこそ、いつの間にか闇ギルドの『栗原組』と呼ばれるほどに、大きくなっていった。


 アンナたちは栗原に大恩があるのだ。

 アンナたちが今ここで生きている。それは全て、栗原のお陰なのだ。

 だからこそアンナたちは、抜けてしまった栗原の為に、今でも大きくなった栗原組の組織力を使うのだ。

 一生かけても返しきれない大きな恩。それを少しでも返すため、組織ごと栗原に恩返しをしているのだ。


 アンナは栗原が好きだ。それは命の恩人としてもそうだし、人間としても、異性としても、全ての面で栗原を愛している。

 その事には当の栗原以外は気付いているのだが、残念ながら栗原は別の女性に夢中であった。

 それがビレッジ公爵の娘であるセレーネだ。


 昔から栗原は、大恩がある人がいると言っていた。昔、命を救ってくれた人がいると。

 それがそのセレーネであるのだ。


 アンナにとっての栗原が、栗原にとってのセレーネだ。

 それじゃあもう、アンナに勝ち目なんてありゃしない。栗原の目は、セレーネ以外には向かないのだ。


 義理を通せ。筋を通せ。

 栗原が口酸っぱく言っていた言葉だ。

 栗原はその言葉の通り、己が人生を投げうって、セレーネへの献身(けんしん)に明け暮れている。


 だからこそアンナは、そんな栗原の教えに(なら)い、アンナ自身も栗原に身を捧げる。

 栗原組という組織は、栗原のための組織なのだ。栗原のためなら何だってやる。それこそ栗原の言う、義理を通すという事であろう?


 だけど少しだけ、アンナに魔が差すことがある。

 栗原の傍にいたい。愛人でもいい。ビジネスパートナーでもいい。ただ栗原の傍にいたい。繋がりを失いたくない。

 そんな想いが湧いてくるのだ。


 今、栗原組の構成員からの報告を聞いて、そんな栗原への想いが抑えきれなくなる。


「ファストさんですが、栗原さんと仕事するみたいですよ?ファストさんは隠そうとしてたみたいっすけど」

「―――は?」

「どうやら転生者連合と組んで、スレイブ商会に喧嘩を売るみたいっす」


 栗原への想いを抑え込んでビレストに残ったアンナの堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒が遂に切れた。ただでさえ栗原と物理的に離れているのに、そんな報告を聞けば黙ってはいられない。


「―――ファストだけズルい………」


 アンナが拳を握り締め、ぷるぷると拳を震わす。

 そして、アンナの感情が一気に爆発した。


「私も参加します!!ファストだけに美味しい思いはさせません!!」

「えっ………、え~~~~~~!!」


 構成員がそんなアンナの叫びに驚く。


「ちょっと待ってください!ビレストの街はどうするんですか!?」

「あなた達に任せます!!」

「ええ~~~~~!!」


 そう言ってアンナは、すぐに栗原組を飛び出して行った。


「ちょっと~~~~~!!アンナさんのアホ~~~~~!!!」


 このせいで栗原組の構成員たちがてんやわんやするのは、また別の話である。







 ~ マーロン ~


 所変わり、イースト帝国のレズール。マーロンとフィーネは、転生者連合との会合のために栗原組の支部へと足を運んでいた。

 これからマーロンたちは、栗原組、転生者連合と共に、獅子神救出の作戦を立てるのだ。


 1つの部屋に一堂に会した面々。マーロンとフィーネの他に、栗原組からは複数の構成員と支部長のファスト、転生者連合からは夕日茜と男性がもう1人参加していた。


 そんな転生者連合の名前も知らぬ男性が、マーロンたちに自己紹介を行う。


「私の名前は地山栄太(じやまえいた)。前世では自衛隊に所属していた」


 地山栄太。茶色の髪を短く切り揃え、よく鍛えられた肉体を持つ180センチほどの身長の男性だ。年齢は20後半から30代前半くらいだろうか。


「私のスキルは『現出(アピアランス)』。実際に触ったことがあるものを現実に出現させる能力だ」

「現実に出現させる?」

「ああ。実際に見た方が早いだろう」


 そう言って地山は、手のひらを上に向けて目を(つむ)り、何やら集中し始めた。すると、突然に手の平が光り出し、彼の手の上に何かが出現した。

 黒光りする物体。マーロンはそれを知っている。


拳銃(ハジキ)!?」


 そう、拳銃であった。

 マーロンも使ったことがある、9㎜経口の自動式拳銃だ。


「このように、この世界にない物であっても実際に出現させることができる。ただし、一日に出現させられる物の数は質量で決まっているがね。拳銃程度の質量であれば、一日に10丁ほどは作り出せる」


 言いながら地山は、マーロンに拳銃を手渡してくる。


「栗原君は触ったことがあるのだろう?どうだね?本物かい?」


 栗原は手渡された拳銃を隅々まで確認する。

 重さはずっしりとしていて、手触りも本物と変わらない。安全装置もちゃんとついており、正真正銘の、スライド式の拳銃であった。


「確かに本物だ」


 本物の拳銃であることを確認したマーロンは、手に取った拳銃を地山に返そうとする。だが、地山がそれを拒む。


「それは栗原君にあげよう。手伝ってもらうお礼だ」

「いいのか?」

「ああ。目も輝かせているようだしな」


 実はマーロンは心の中で、うきうきを(こら)えられないでいたのだ。前世で慣れ親しんだ武器である。それが今、この世界で再び相まみえることができたのだ。その喜びが外部に滲み出てしまっていたのだろう。


「ありがとう」

「こちらこそだ。弾は後で作っておくよ」

「助かるよ」


 現出(アピアランス)。とても便利な能力なようだ。


「転生者連合からは2人だけなのか?」

「ごめんなさい。戦える戦力で今残っているのは私と地山だけなの。私も護身術程度しか戦えないから、強敵となると戦力になるのは地山だけ」

「少ないな」

「転生者に出現するスキルは、その人の魂の性質に左右される。転生者連合は罪のない転生者を保護する関係上、あまり戦い向きの能力を持っていないのよ」

「なるほど。それもそうか」


 例えばマーロンや青山は、その性格上、青い炎や人狼化など、戦いに特化した能力であった。その反対に、フィーネや夕日茜のような罪のない転生者は、戦いよりサポート寄りの能力になる傾向であるらしい。


「そんじゃあ、実際に戦うのは俺に転生者連合の2人、そして栗原組って事か」

「そういう事になるっすね。久しぶりの兄貴との作戦、腕が鳴るっす!」


 ファストが緑色のリーゼントを揺らしながら、パシッと拳を打ち鳴らす。

 共に戦う面子の確認を行ったマーロンであったが、そのメンバーに夕日茜が疑問の声を漏らす。


「あれ?フィーネさんは?」

「フィーネ様は後方支援だ。そもそも遠隔で意思疎通ができるということ自体、かなりのアドバンテージになるからな」

「確かに。確か念話(テレパシー)だっけ?」

「ああ。便利な能力だよな」


 マーロンはフィーネの方を向き、彼女の右手を取って膝をつく。


「フィーネ様。よろしくお願いいたしますね」

「は、はい!頑張ります!」


 フィーネには後方に待機してもらい、各メンバーと念話(テレパシー)を繋いでもらって、各々が離れていても意思疎通が可能な状態にしてもらうのだ。それが彼女の主な役割である。


「目標のスレイブ商会なんすけど、栗原組で調べてもまだ奴隷の収容所は見つけられていないっす。スレイブ商会主催のオークションが開催されるのが2週間後。それまでにはなんとか見つけたいっすが………」

「まだ時間はあるとはいえ、いつまでも獅子神が無事だとは限らない。どうにかして見つけられないか?」

「うーん………。総力を挙げて調べてはいるんですが、まだまだ時間はかかりそうっす」

「そうか………。獅子神がどこにいるかわからなきゃ、助けようがないよな………」


 スレイブ商会が保管している商品の奴隷たち。その中に獅子神がいる筈であるが、その肝心の奴隷の収容所の場所がまだ掴めていないのだ。これでは獅子神を助けることなど到底できない。


(どうにか奴隷の収容所を見つけられる方法は無いだろうか………)


 マーロンがそう思案した時、ふとある考えが頭をよぎった。


「―――地山。こういうのは作り出せるか?」


 マーロンはそう言って、とあるものの作成を頼んでみる。


「可能だが、何に使うつもりだ?」


 その答えを聞き、マーロンがニヤリと口角を吊り上げた。


「なに。奴隷たちの場所がわからないなら、奴隷になってやりゃあいい話じゃねえかと思ってな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ