57. マーロンとフィーネと栗原組と転生者連合
~ 栗原組 アンナ ~
アンナにとって、そして栗原組の幹部たちにとって、栗原は神にも等しい存在である。
アンナが10歳程度の時、当時一緒に行動していたフィリップ、ファストの三人が質の悪い大人に殺されそうになった事がある。そんな時、面識もなかった栗原が颯爽と駆けつけて、アンナたちを救ってくれたのだ。
ボロボロの装いに、刃のかけた古いナイフ。アンナたちとそう変わらないスラムの小汚いガキ。そんな栗原が大人たちの間を縫い、古びたナイフで次々と大人たちを始末していく。1人は喉を引き裂き、1人は心臓を一突き。そんな栗原の姿に、アンナたちは一様に目を奪われた。
それからだ。栗原の事を神のように慕うようになったのは。
栗原はアンナたちを救うだけでなく、生きる術も教えてくれた。
人を殺すのに特化した戦闘方法。バレない盗みやスリの方法。ビジネスの方法。スラム街で生きるガキが、何とか食い繋いで行けるような方法を、栗原はアンナたちに叩き込んだ。
そのお陰でアンナたちは死なずに済んだのだ。
栗原とアンナたちは、いつの間にか組織のように大きくなっていた。始めは栗原、アンナ、フィリップ、ファストだけだった。だが、他のスラムの子供を次々と吸収していく内に、その徒党は大きくなっていったのだ。
それこそ、いつの間にか闇ギルドの『栗原組』と呼ばれるほどに、大きくなっていった。
アンナたちは栗原に大恩があるのだ。
アンナたちが今ここで生きている。それは全て、栗原のお陰なのだ。
だからこそアンナたちは、抜けてしまった栗原の為に、今でも大きくなった栗原組の組織力を使うのだ。
一生かけても返しきれない大きな恩。それを少しでも返すため、組織ごと栗原に恩返しをしているのだ。
アンナは栗原が好きだ。それは命の恩人としてもそうだし、人間としても、異性としても、全ての面で栗原を愛している。
その事には当の栗原以外は気付いているのだが、残念ながら栗原は別の女性に夢中であった。
それがビレッジ公爵の娘であるセレーネだ。
昔から栗原は、大恩がある人がいると言っていた。昔、命を救ってくれた人がいると。
それがそのセレーネであるのだ。
アンナにとっての栗原が、栗原にとってのセレーネだ。
それじゃあもう、アンナに勝ち目なんてありゃしない。栗原の目は、セレーネ以外には向かないのだ。
義理を通せ。筋を通せ。
栗原が口酸っぱく言っていた言葉だ。
栗原はその言葉の通り、己が人生を投げうって、セレーネへの献身に明け暮れている。
だからこそアンナは、そんな栗原の教えに倣い、アンナ自身も栗原に身を捧げる。
栗原組という組織は、栗原のための組織なのだ。栗原のためなら何だってやる。それこそ栗原の言う、義理を通すという事であろう?
だけど少しだけ、アンナに魔が差すことがある。
栗原の傍にいたい。愛人でもいい。ビジネスパートナーでもいい。ただ栗原の傍にいたい。繋がりを失いたくない。
そんな想いが湧いてくるのだ。
今、栗原組の構成員からの報告を聞いて、そんな栗原への想いが抑えきれなくなる。
「ファストさんですが、栗原さんと仕事するみたいですよ?ファストさんは隠そうとしてたみたいっすけど」
「―――は?」
「どうやら転生者連合と組んで、スレイブ商会に喧嘩を売るみたいっす」
栗原への想いを抑え込んでビレストに残ったアンナの堪忍袋の緒が遂に切れた。ただでさえ栗原と物理的に離れているのに、そんな報告を聞けば黙ってはいられない。
「―――ファストだけズルい………」
アンナが拳を握り締め、ぷるぷると拳を震わす。
そして、アンナの感情が一気に爆発した。
「私も参加します!!ファストだけに美味しい思いはさせません!!」
「えっ………、え~~~~~~!!」
構成員がそんなアンナの叫びに驚く。
「ちょっと待ってください!ビレストの街はどうするんですか!?」
「あなた達に任せます!!」
「ええ~~~~~!!」
そう言ってアンナは、すぐに栗原組を飛び出して行った。
「ちょっと~~~~~!!アンナさんのアホ~~~~~!!!」
このせいで栗原組の構成員たちがてんやわんやするのは、また別の話である。
~ マーロン ~
所変わり、イースト帝国のレズール。マーロンとフィーネは、転生者連合との会合のために栗原組の支部へと足を運んでいた。
これからマーロンたちは、栗原組、転生者連合と共に、獅子神救出の作戦を立てるのだ。
1つの部屋に一堂に会した面々。マーロンとフィーネの他に、栗原組からは複数の構成員と支部長のファスト、転生者連合からは夕日茜と男性がもう1人参加していた。
そんな転生者連合の名前も知らぬ男性が、マーロンたちに自己紹介を行う。
「私の名前は地山栄太。前世では自衛隊に所属していた」
地山栄太。茶色の髪を短く切り揃え、よく鍛えられた肉体を持つ180センチほどの身長の男性だ。年齢は20後半から30代前半くらいだろうか。
「私のスキルは『現出』。実際に触ったことがあるものを現実に出現させる能力だ」
「現実に出現させる?」
「ああ。実際に見た方が早いだろう」
そう言って地山は、手のひらを上に向けて目を瞑り、何やら集中し始めた。すると、突然に手の平が光り出し、彼の手の上に何かが出現した。
黒光りする物体。マーロンはそれを知っている。
「拳銃!?」
そう、拳銃であった。
マーロンも使ったことがある、9㎜経口の自動式拳銃だ。
「このように、この世界にない物であっても実際に出現させることができる。ただし、一日に出現させられる物の数は質量で決まっているがね。拳銃程度の質量であれば、一日に10丁ほどは作り出せる」
言いながら地山は、マーロンに拳銃を手渡してくる。
「栗原君は触ったことがあるのだろう?どうだね?本物かい?」
栗原は手渡された拳銃を隅々まで確認する。
重さはずっしりとしていて、手触りも本物と変わらない。安全装置もちゃんとついており、正真正銘の、スライド式の拳銃であった。
「確かに本物だ」
本物の拳銃であることを確認したマーロンは、手に取った拳銃を地山に返そうとする。だが、地山がそれを拒む。
「それは栗原君にあげよう。手伝ってもらうお礼だ」
「いいのか?」
「ああ。目も輝かせているようだしな」
実はマーロンは心の中で、うきうきを堪えられないでいたのだ。前世で慣れ親しんだ武器である。それが今、この世界で再び相まみえることができたのだ。その喜びが外部に滲み出てしまっていたのだろう。
「ありがとう」
「こちらこそだ。弾は後で作っておくよ」
「助かるよ」
現出。とても便利な能力なようだ。
「転生者連合からは2人だけなのか?」
「ごめんなさい。戦える戦力で今残っているのは私と地山だけなの。私も護身術程度しか戦えないから、強敵となると戦力になるのは地山だけ」
「少ないな」
「転生者に出現するスキルは、その人の魂の性質に左右される。転生者連合は罪のない転生者を保護する関係上、あまり戦い向きの能力を持っていないのよ」
「なるほど。それもそうか」
例えばマーロンや青山は、その性格上、青い炎や人狼化など、戦いに特化した能力であった。その反対に、フィーネや夕日茜のような罪のない転生者は、戦いよりサポート寄りの能力になる傾向であるらしい。
「そんじゃあ、実際に戦うのは俺に転生者連合の2人、そして栗原組って事か」
「そういう事になるっすね。久しぶりの兄貴との作戦、腕が鳴るっす!」
ファストが緑色のリーゼントを揺らしながら、パシッと拳を打ち鳴らす。
共に戦う面子の確認を行ったマーロンであったが、そのメンバーに夕日茜が疑問の声を漏らす。
「あれ?フィーネさんは?」
「フィーネ様は後方支援だ。そもそも遠隔で意思疎通ができるということ自体、かなりのアドバンテージになるからな」
「確かに。確か念話だっけ?」
「ああ。便利な能力だよな」
マーロンはフィーネの方を向き、彼女の右手を取って膝をつく。
「フィーネ様。よろしくお願いいたしますね」
「は、はい!頑張ります!」
フィーネには後方に待機してもらい、各メンバーと念話を繋いでもらって、各々が離れていても意思疎通が可能な状態にしてもらうのだ。それが彼女の主な役割である。
「目標のスレイブ商会なんすけど、栗原組で調べてもまだ奴隷の収容所は見つけられていないっす。スレイブ商会主催のオークションが開催されるのが2週間後。それまでにはなんとか見つけたいっすが………」
「まだ時間はあるとはいえ、いつまでも獅子神が無事だとは限らない。どうにかして見つけられないか?」
「うーん………。総力を挙げて調べてはいるんですが、まだまだ時間はかかりそうっす」
「そうか………。獅子神がどこにいるかわからなきゃ、助けようがないよな………」
スレイブ商会が保管している商品の奴隷たち。その中に獅子神がいる筈であるが、その肝心の奴隷の収容所の場所がまだ掴めていないのだ。これでは獅子神を助けることなど到底できない。
(どうにか奴隷の収容所を見つけられる方法は無いだろうか………)
マーロンがそう思案した時、ふとある考えが頭をよぎった。
「―――地山。こういうのは作り出せるか?」
マーロンはそう言って、とあるものの作成を頼んでみる。
「可能だが、何に使うつもりだ?」
その答えを聞き、マーロンがニヤリと口角を吊り上げた。
「なに。奴隷たちの場所がわからないなら、奴隷になってやりゃあいい話じゃねえかと思ってな」




