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56. マーロンのわがまま

 引き続きレズールの隠れ家にて話を続けるマーロンたち。

 フィーネの告白も無事終わり、次の話題としては獅子神と転生者連合の話となる。


「実はもう1つ話しておかなければいけないことがありまして………」


 マーロンがそう前置きし、獅子神と転生者連合の事をセレーネたちに話す。獅子神というマーロンの前世からの知り合いが奴隷商に捕まっている事。その獅子神を助け出したいという事をだ。


「獅子神には前世で世話になりました。できればあいつを助けて、その借りを清算しておきたいのです」


 マーロンが話し終えると、セレーネとビレッジ公爵が驚いたような顔をしていた。


「マーロンが頼み事なんて、珍しいですね………」

「うむ。確かに珍しいな」


 どうやらマーロンからの頼みごと自体が珍しいため、それに驚いているようだ。確かに今までマーロンは自身のやりたい事を伝えるというのをあまりやっていなかったように思える。セレーネの傍に仕える。それだけで幸せだったからだ。


「いつも助けてくれているマーロンからの頼みです。私は良いかと思いますが、お父様はどうですか」

「そうだな。滅多にないマーロンからの頼みだ。それくらい許可するのが貴族としての役目よ」


 案の定、マーロンからの頼み事はものの数秒で許可されてしまった。頼むのを渋っていたマーロンがバカみたいである。


「い、いいんですか?そんなに簡単に………。みんなにご迷惑をおかけするかもしれないのに………」

「いいんですよ、マーロン。たまにはわがままくらい言ってください。私たちにはそれを受け入れる器があります!」


 そう言ってセレーネは、「えっへん」と胸を張る。まったく、可愛らしい主人である。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて、獅子神のバカを助けに行って参ります」

「はい!そうしてください!手伝えることがあれば手伝いますので!」

「手伝えることですか………。うーん………」


 マーロンが顎に手を当てて考える。セレーネにできることなど何かあるのだろうか。

 しばらく考えるマーロンであるが、彼女に手伝える事となると何も思いつかない。


「や、やっぱり足手纏(あしでまと)いなんだ………」


 そんな悩むマーロンの様子を見て取ったセレーネが、悲しげな表情で呟いた。


「い、いえ!そういうわけでは………!」

「でも!夜空の青炎(よぞらのせいえん)へのカチコミの際も、何もやらせてもらえなかったですし!」

「あ、あの………その………」


 セレーネの言葉にしどろもどろになるマーロン。

 確かに夜空の青炎(よぞらのせいえん)へカチ込んだ際も、セレーネには何もやらせなかった。闇ギルドへのカチコミという、ただでさえ危険な作戦であったのだ。大人しくしていてもらった方がやりやすいとの判断である。


「確かに戦闘面ではサポートできませんけど、何かできる事は無いですか?………私だって、マーロンの力になりたいんです………」

「お嬢………」


 落ち込んだような表情のセレーネに、マーロンは知恵を振り絞る。どうにかセレーネができる事は無いだろうか。


 そう考えを振り絞ったマーロンに、とあるアイデアが思い浮かぶ。


「―――怪我人の治療なら、頼めるかもしれません」


 マーロンが自らの考えを言葉に出す。


「もちろん、正体は隠してですが。獅子神は怪我をしているだろうし、自分も救出の過程で怪我をしてしまう可能性があります。お嬢のあの強力な治癒魔法があるとわかっていれば、これ程頼もしいものはありません」

「ほ、本当ですか!?」


 獅子神は奴隷として売るために捕まっているが、何の抵抗もせずに捕まったわけではない筈だ。怪我をしている可能性が高い。

 また、獅子神救出の際にも怪我をしない保証はない。セレーネが治療してくれるとわかっているのであれば、獅子神救出の際にも多少の無理は効くようになる。

 これならセレーネのあの強力な治癒魔法を生かせるはずだ。


 もちろん、正体は隠す必要はあるだろう。あの治癒魔法は明らかに異常である。

 普通の治癒魔法であればじっくりと時間をかけてしか治せないのに対し、セレーネの治癒魔法は瀕死(ひんし)の傷でも瞬く間に治療してしまうのだ。その異常性を知られると、良からぬ輩に狙われるかもしれないのだ。

 そもそも、ウェスト王国の王に命を狙われているのだって、この力のせいかもしれないのだ。


「自分が必ず獅子神を連れて帰ります。ですのでお嬢には、その後の彼の治療をお願いできますか?」


 マーロンはそう言ってセレーネに頼む。マーロンからのお願いが嬉しいのか、セレーネは満面の笑みで返事をする。


「はい!怪我の治療は任せてください!」


 そんなにマーロンの力になれるのが嬉しいのか、セレーネはニコニコ笑顔で胸を張っている。


「あっ!―――でも、無理は禁物ですからね?あまり大怪我で帰って来られたら、卒倒(そっとう)しちゃいますから」

「わかりました。ほどほどの怪我で帰ってきますね」

「ほんとは無傷の方が嬉しいんですけどね………」


 冗談を言い合うセレーネとマーロン。

 そんな2人を羨ましそうな表情で見る少女が1人。フィーネである。


 彼女は2人のやり取りを見て何を思ったのか、恐る恐る手を上げて言う。


「わ、私も!何か力になれることはありますか!?」


 そう勇気を振り絞ったかのように言うフィーネ。


「私も、何か力になりたいです!」


 フィーネのそんな言葉に、マーロンは目を丸くした。まさか彼女からもそんな提案がなされるとは思ってもみなかったのだ。


「フィーネ様も、ですか?」

「はい!その、マーロンさんには前世も、現世でもお世話になってるので………。何かお手伝いできないかと思って………」


 フィーネは確かに、前世では栗原に助けられたと言っていた。そして、現世でも絡んできた輩を追い返したりもした。その恩をフィーネは返したいのだろう。


「―――フィーネ様なら、念話(テレパシー)の能力が役に立つかもしれません」

「本当ですか!?」

「はい。声に出さずに意思疎通できるというのも便利ですが、それ以上にその効果範囲が凄まじい。安全圏から互いに情報共有できるというのは凄まじいアドバンテージです」


 フィーネのスキル、『念話(テレパシー)』。対象者と頭の中で会話できる能力だ。声に出さずに会話ができるという秘匿(ひとく)性に、5キロメートルも届くという効果範囲。かなり強力な特殊能力である。


「じゃ、じゃあ!これなら力になれるって事ですね!?」

「はい!フィーネ様の能力は凄まじいですよ!」


 マーロンからの賛辞(さんじ)に喜びを全面に出すフィーネ。両手を上にふり挙げて、ぴょんぴょんと飛び回っている。


 そんなマーロンとフィーネの様子を見て、セレーネが少しへそを曲げる。


「―――私の時はすごく時間がかかったのに、フィーネの時はすぐでしたね!?」

「えっ!?」


 フィーネが頬を膨らませてマーロンを責める。

 セレーネの時は考えに考えて力になれる手段をやっと見つけたというのに、フィーネの時はすぐに手段を思いついたのだ。それに怒っているのだ。


「どーせ私は役立たずです!」


 セレーネはそう言って、ぷいっとそっぽを向いてしまった。


「お、お嬢!そういう訳では!」

「セ、セレーネ様!機嫌を直してください~!」


 可愛らしく拗ねてしまったセレーネの機嫌を直すために、マーロンとフィーネが尽力する。


 そんな2人に、今度はフレデリックから別の話題が投下される。


「そう言えば買い出しはどうなったんですか?マーロン?」

「――――――あっ………」


 今思い出した。確かにマーロンたちは食料の買い出しに外に出た筈だ。

 だが、フィーネの告白と夕日茜の登場で完全に失念してしまっていたのだ。


「わ、忘れてた~~~~~!!!」

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