55. フィーネの告白
~ マーロン ~
夕日茜からの話を聞き終わり、とりあえず詳細を栗原組のファストに話したマーロンたち。ファストはどうやらマーロンたちの秘密の話が終わるのを待っていてくれていたようだ。自分たちから栗原組に押し掛けていて申し訳ない気持ちで一杯であるが、ファストはそんな事気にしていないような様子であった。
「なるほど。その転生者連合のボスがスレイブ商会に捕まったって事っすね?」
「ええ。たぶん奴隷としてオークションで売られるんだと思う」
ファストと夕日茜の会話であるが、ここでマーロンに疑問が湧いてくる。
「奴隷として売られる?転生者は国が管理してるんじゃないのか?」
「それはウェスト王国だけよ。イースト帝国だと転生者は国民にも奴隷として売られてるの。目的は戦力だったり、労働力だったり、様々だけど」
「けど、誓約が必要なんだろう?」
「ええ。もちろん、皇帝に誓約を結んでもらう必要がある。その誓約に、奴隷の所有者はお金を払うのよ」
国によって転生者の扱いは違うようだ。ウェスト王国での転生者の所有権は国にある。国が転生者を管理し、転生者を様々な用途で利用している。
一方イースト王国では、一般市民にも奴隷として転生者の所有が許されているらしい。一般市民と言っても、転生者の奴隷を買えるような金持ちだけだが。
「流れはこう。まず奴隷商が転生者を仕入れる。その奴隷商が奴隷を売る。そして、その奴隷を買った所有者が、皇帝にお金を払って誓約を結んでもらう」
「奴隷の購入者は奴隷商へ国へと2回も金を払うのか」
「ええ。だから高級な奴隷なの」
「なるほどな」
イースト帝国では転生者を個人で所有できる。転生者というのは特殊な力を持っているため、その力目当てで転生者を買うものも少なくなさそうである。
誓約によって従順になった強力な奴隷だ。需要は高そうである。
「誓約を交わされれば助けることは不可能っす。つまり、タイムリミットは今から誓約を交わされるまでの間っす」
「どれくらいだ?」
「次の誓約の儀は一か月後です。少なくとも一ヶ月は猶予があるっす」
「誓約の儀?」
マーロンが聞き慣れない単語に疑問符を浮かべる。
「皇帝も忙しいっすから。毎日誓約なんて交わしてられないんすよ。なんで、一ヶ月に一日だけ日を決めて、その日にまとめて誓約を行うんです」
「それが誓約の儀ってことか」
確かに皇帝も毎日誓約の受付などやってはいられないだろう。一ヶ月に一日と決めておけば、その日を開けるだけで済む。
「というか、そのオークションで買えば済むんじゃないか?」
「そうはいかないんすよ。奴隷の購入には許可証が必要なんす。その許可証は厳正な審査の元で発行されるので、我々みたいな裏の人間には入手不可能っす」
「偽造は?」
「そこいらの奴隷商ならバレない可能性もありますが、相手はスレイブ商会、大手の奴隷商っす。十中八九バレます」
どうやら奴隷として獅子神を購入するという手段はとれないようだ。これができれば金で解決できて楽だったのだが、こればかりは仕方ない。
「スレイブ商会はかなり大きい奴隷商っす。そこから助け出すとなると、かなり手間っすよ?」
「わかってるわ。だからこうやって栗原組に頼んでるんじゃない」
夕日茜の顔に焦りが見える。時間自体はあるとはいえ、獅子神は奴隷商に捕まったままである。やはり彼の事が心配なのであろう。
「まあ、方法は考えておきます。まずはビレッジ公爵たちからの許可っすね」
「許可が取れたら手伝ってくれんのか?アンナに話は通してなくて大丈夫なのかよ?」
「別に大丈夫っすよ。アンナの姉御だって許可するどころか、嬉々として協力するに決まってます。―――それに、アンナの姉御ばっかり栗原さんと仕事できてズルいっす」
「そ、そうか。ならいいんだが」
どうやらファストはこの依頼に乗り気であるようだ。寧ろアンナに黙って依頼を独占しようという考えすらも透けて見える。
「じゃあ俺たちは一度お嬢たちの元に戻るよ。夕日茜はここにいろ。―――大人しくしていろよ?」
「わかってるわ」
マーロンはそう言って、フィーネの方を振り向く。
「かなり遅くなってしまいましたが、お嬢の元に帰りましょう」
「はい。ちょっと色々あって、頭が混乱してます」
「自分もです………」
一度セレーネたちが身を隠している隠れ家に帰ってきたマーロンたち。
予想以上に帰ってくるのに時間がかかっていたマーロンたちを心配していたのか、セレーネたちがマーロンとフィーネの方に駆け寄ってくる。
「マーロン!フィーネ!だいぶ時間がかかってましたね?何かあったんですか?」
「ちょっと色々ありまして………」
「そうですね………。凄いいろんなことがありました」
疲れたような表情でマーロンとフィーネが苦笑する。
「レヴィエ様は席を外してもらえますか?ちょっと秘密の話がありまして」
秘密の話は2つある。フィーネが転生者であることと、転生者連合の話だ。
転生者連合の話は聞かれてもいいが、フィーネが転生者である話は聞かれると問題がある。レヴィエには席を外してもらう必要があるのだ。
「何よ?私だけ仲間外れって事?」
「そういうことです。わきまえてください人質さん」
「ちぇっ………。わかったわよ………」
マーロンがレヴィエを部屋から追い出そうとすると、それを止めたのはまさかの人物であった。
フィーネである。
「待ってください!レヴィエさんがいても大丈夫です!」
「いいんですか?部外者ですよ?」
「いえ!もう一緒に逃亡を続けている友人です!いつまでも仲間外れだと可哀想です!―――それに、もうレヴィエさんはいろんなこと知っちゃってますし、今さらです」
「それはそうですが………」
マーロンとしてはこれ以上弱みを握らせたくないという思いでレヴィエを追い出そうとした。だが、確かにフィーネの言う通り、既に色々と知ってしまっている面もあるのだ。ビレッジ公爵と栗原組の関係しかり、マーロンの正体しかり。今さら秘密が増えても問題ないという意見は確かに一行の余地はある。
「―――わかりました。フィーネ様がそうおっしゃるなら、私は従います」
「マーロンさん。ありがとうございます」
フィーネが問題ないというのであれば、マーロンも強く反対するつもりは無い。元々従順な男なのである。
「レヴィエ様。フィーネ様に感謝してください」
「ありがとうフィーネ!未だに私を警戒してるのはもうマーロンだけよ?」
「うるさい黙れ」
「なんで私にだけそんなに威圧的なのよ………」
レヴィエはセレーネの命を狙った前科がある。マーロンはそれを未だに許せていないのだ。
「それで、秘密の話というのは?」
ビレッジ公爵がマーロンたちに話を促す。
転生者連合の話をスムーズに行うならば、先にフィーネが転生者であることを話した方が良いだろう。
マーロンはそう判断し、フィーネの背中を優しく押した。
「フィーネ様。まずはあの話を」
「―――はい。わかりました」
フィーネが一歩前に出る。その顔は強張っており、指はぎゅっと握り締められている。見るからに緊張している様子だ。
マーロンはそんなフィーネの様子を見て取り、彼女の頭に手をポンと置く。
そんなマーロンの行動に驚き、ピクリと肩を跳ね上げるフィーネ。だが次第に、フィーネから無駄な力が抜けていく。
どうやら緊張は解れたみたいだ。
フィーネは顔を真剣そのものに戻し、決意したかのように話し始めた。
「皆さんに話さなければいけないことがあります」
フィーネの言葉にセレーネたちの背筋が伸びる。フィーネからどんな話があるのかわからないが、彼女の真剣な様子から真面目な話であることを読み取ったのだろう。
背筋を伸ばし、真剣な表情でフィーネの次の言葉を待つ。
「実は私、転生者なんです」
「「!?」」
そう告白したフィーネ。彼女のそんな突然の一言に、セレーネたちが目を見開いた。
「今まで黙っていてごめんなさい」
フィーネはその一言を皮切りに、自分の過去について話し始めた。
つらつらと話すフィーネの過去を真剣に聞くセレーネたち。セレーネたちの表情や態度には、転生者に対する侮蔑や嫌悪は微塵もなく、ただ大切な話を聞く家族の姿がそこにはあった。
自らの過去を話し終えたフィーネに、まずはセレーネが言葉を掛ける。
「フィーネ。よく打ち明けてくれました。今までその秘密を抱えて生きるのは、大変だったでしょう?」
「大変、というより、罪悪感の方が強かったです。セレーネ様やビレッジ公爵様に隠し事をしている。それが辛かったです」
「安心してください。フィーネが転生者であると知っても、国に突き出すような真似はしません。あなたはこれからも、我々の家族です。ね?お父様?」
セレーネがビレッジ公爵に振る。
「うむ。そうだな。もうフィーネは我々の家族だ。マーロン同様、我々は君を受け入れよう」
「セレーネ様………。ビレッジ公爵………」
セレーネとビレッジ公爵の言葉に、フィーネは込み上げる感情を抑えるように唇を噛む。胸の前で両手を握り締め、じんわりと目尻に涙が滲んだ。
「ありがとうございます。勇気を出して言って良かった………」
フィーネはそう言ってセレーネたちに頭を下げた。嬉しさを噛みしめながら、日本人らしく深々とお辞儀をする。
セレーネたちはそんなフィーネの姿を、微笑ましそうに見る。
彼女たちにとって転生者であるかどうかなど些細な事なのだ。マーロンのようなならず者を受け入れた人たちである。フィーネが受け入れられるのも、思えば当然である。
「これからもよろしくお願いしますね。フィーネ!」
「はい!よろしくお願いしますセレーネ様!」
そう言って、まるで姉妹のように笑い合う2人の少女。
「そういえば、話を聞く限りは私より年上って事ですよね?やっぱり私の方が敬語を使った方が良いですか?」
突然に、セレーネがそんな事を言う。その表情には少し、意地悪な表情が張り付いていた。
「あ、あの………。確かに精神年齢的には私の方が上ですけど、セレーネ様の事は実の姉のように思っています………」
フィーネが顔を朱く染めながら、恥ずかしそうに言う。
「だから、これまで通り接していただけませんか!?」
照れながらもそう言い切ったフィーネ。
セレーネはそんなフィーネの言葉を聞いて、嬉しそうにけらけらと笑う。
「あははは。それじゃあ、今まで通り姉ぶりますね!フィーネ!」
「はい!」
血の繋がらない2人の姉妹。だが、その2人の間には血縁以上の確かな繋がりが感じられた気がした。
そして、そんな2人の様子を驚いたような目で見る人物が1人。
「―――あんないい子が転生者………。もう何が正解なのか、わからなくなるわ………」
レヴィエがそう呟き、1人考え込むように下を向いた。




