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52. フィーネとマーロン。心菜と栗原

 ~ フィーネ ~


 引き続きマーロンと話を続けるフィーネ。

 フィーネにはまだ、マーロンに伝えきれていないことがある。前世でマーロンは、フィーネの事を助けてくれた。その時のお礼をちゃんと言うのだ。


「マーロンさん。実は私、前世で栗原さんと会っているんです」

「―――え?」


 マーロンがフィーネの言葉に驚きを(あら)わにする。この反応では、どうやらマーロンは覚えていない様子である。当のマーロンは渋い顔をしながら「うーん」と唸っている。頑張って記憶を掘り起こそうとしているらしい。


「―――すみません。その、私には浦田心菜という名前には聞き覚えが無く………」


 浦田心菜はフィーネの前世の名前だ。やはりマーロンはフィーネの事を覚えてはいないようだ。

 それは当然であろう。道で偶然助けてもらっただけの縁で、フィーネはあの時名乗ってすらいない。挙句の果てに助けてくれた栗原の顔を見て、逃げ出すような薄情(はくじょう)な人間なのだ。覚えていなくて当然である。


「大丈夫です。マーロンさんは覚えていなくて当然だと思いますから」


 フィーネはそう言って、栗原に助けてもらった時の状況をマーロンに説明を始めた。

 マーロンはやはり、その状況を聞いてもピンとは来ていないようだ。


「すみません………。やっぱり覚えていなくて………」

「いいんです!気にしないでください!」


 頭を下げるマーロンを全力で止めるフィーネ。この話をしたのはマーロンに謝って欲しいからなんかじゃない。フィーネはただ、あの時のお礼を言いたいだけなのだ。


「あの時は助けていただき、本当にありがとうございました。そして、あの時は逃げ出してしまって、ごめんなさい」


 フィーネはそう、誠心誠意の言葉でお礼と謝罪を行った。

 マーロンは真剣なフィーネの雰囲気を感じ取ったのか、マーロンも真剣な顔つきに変わる。


「はい。その礼と謝罪を受け入れます」


 マーロンはそう言い切った。


「―――そんなに簡単に受け入れてもいいんですか?」

「フィーネ様。そもそも私はその時の事を覚えていないんです。だから怒りもありませんし、恩を着せようなんて思いもありません」

「確かに、そうでしたね」


 そう言ってフィーネとマーロンはお互いにクスリと笑う。マーロンはこの時の事は覚えておらず、このお礼と謝罪はフィーネの自己満足だ。だが、それでもフィーネの心の突っかかりが取れた気がした。


「マーロンさんは、いつもああやって人助けをしてたんですか?」

「人助けなんかではありませんよ。その時の事は覚えていないので憶測となりますが、たぶん、やってる事が気に入らなかったんでしょうね。堅気(かたぎ)の、それも未成年の少女に身体を売らせる。それがただ、気に入らなかっただけです」


 マーロンが顔をしかめながら言う。マーロンはヤクザだ。基本的には悪人である。だからこそ、自分の中で明確な基準があるのだろう。


「そんな自分の気まぐれが誰かを救えたのなら、これ程嬉しいことはありませんよ」

「ふふっ。そうですね。その気まぐれのお陰で、25年も生きられました」


 そう言って、フィーネは再度礼を言う。


「―――そういえば、フィーネ様は精神的にはもう大人なんでしたね………。つい見た目とのギャップで………」

「やっぱり違和感がありますか?」

「違和感というか、つい子供として扱ってしまうというか………。これからは大人の女性として扱った方がいいですか?」

「いえ、このままでいいですよ。マーロンさんにお嬢様扱いされるの、実は気に入っているのです」

「そ、そうですか………。それでは、今までと変わらずで」


 マーロンはそう言って苦笑する。

 言葉の通り、フィーネも実はマーロンからの扱いを気に入っていたのだ。自分を貴族のお嬢様として接してくれる執事。やはり女性なら誰もが憧れるシチュエーションであろう。その執事の正体はヤクザであるが、まあそれは些細(ささい)な事だ。


「転生者という事は、特殊能力があるという事ですよね?お聞きしてもいいですか?」

「そうですね。たぶん話すより、実際に体験した方が早いかもです」


 そう言ってフィーネは突然に目を(つむ)った。


 すると――――――


『マーロンさん。聞こえますか?』

「!?」


 突如、フィーネの声が頭の中に響いてきたのだ。まるで頭の中から直接脳に話し掛けられているような感覚だ。

 目の前のフィーネは目を瞑ったまま、口すら動かしていない。これはどういうことかと、混乱するマーロン。


念話(テレパシー)。任意の対象と、心の中で会話ができる能力です』

「な、なるほど。これは凄い………」

『マーロンさんからも、たぶん心の中で意思を伝えられますよ?試してみてもらえますか?』


 頭の中に聞こえてくるフィーネの言葉に従い、マーロンもフィーネと意思疎通しようと試みる。


 すると――――――


『―――フィーネ様。聞こえますか?』

『聞こえました!』

『ほ、ほんとですか!』


 無事に頭の中での意思疎通が成功する。頭の中で会話するというのは、なんだか不思議な気分である。


『これは凄い能力ですね………』

『ほんとですか?その、あまり戦いとかには役に立たなそうですけど………』

『そんな事はありません!』


 マーロンはそう言って、心の中で力説する。


『まず第一に、内緒話をするには最適な能力です!今日のようにわざわざ密会のような形を取らずとも、聞かれたくない話は心の中で出来る。それだけでとても有用です!』

『確かに、誰にも聞かれる心配が無いのは助かりますね………』

『それに、この念話が届く距離はどれくらいですか?』

『たぶん、半径5キロメートルくらいは届くかと………』


 その届く距離の長さにマーロンはさらに驚いた顔をする。


 フィーネもこの念話がどこまで届くかなど試したことはない。そもそも、念話の能力を打ち明けたのもマーロンが初めてで、実際に能力を使用するのも今回が初めてである。

 なら、何故そんなことがわかるのか。

 それは、何故かわかるとしか言いようがない。転生者の能力というものは、魂に刻まれたものである。そのお陰で、誰に教えられずとも、試して見なくても、自分自身でわかるようになっているのだと思う。


『そんなに届くのであれば文句も何もありません!情報というのは一番の武器です!携帯や無線機など無いこの世界で、遠距離での意思疎通の手段があるというだけで大きなアドバンテージになります!』

『な、なるほど………』


 マーロンの熱量の高さに少しだけ引き気味になるフィーネ。さすがマーロン。戦闘オタクである。


『なのでそう悲観する必要はありませんよ。確かに直接戦えるような能力ではないかもしれませんが、誰かの役に立つ能力であることは疑いようがありません』

『―――ありがとうございます。そう聞くと安心しました』


 そう言ってほほ笑むフィーネ。

 この力が愛する家族の助けになる。そんな日が来ることを、切に願うフィーネであった。








 ~ マーロン ~


 フィーネの話を聞き、ようやく料理店を出たマーロンとフィーネ。

 フィーネからの話は、マーロンにとっては驚きの連続ではあったが、妙な納得感があった。

 確かに彼女はめちゃくちゃ大人びていたし、発想も大人びていた。本当に大人であったという事実を知り、それで納得できる自分がいたのだ。


 そしてフィーネは、マーロンがこの世界で初めて出会った他の転生者である。セレーネがレヴィエに襲われた時も転生者がいたが、あれは操られていたためノーカンだ。

 初めてこの世界で出会えた他の転生者なのだ。前世での話だったり、色々なところで話をしてみたい。

 ただ、フィーネは前世では堅気であったようだ。極道であったマーロンとはもちろん合わない部分もあると思うので、そこら辺の線引きは重要であろう。

 同じ転生者同士。これからはもっと仲良くなれたらいいなと思うマーロンである。


「ちょっと長く話過ぎましたね、マーロンさん。早く買い出しを終わらせて帰らないと」

「そうですね。お嬢たちが心配しているかも」


 そんな事を話しながらマーロンたちが街を歩いていると、突然後ろから大声が聞こえてきた。


 それも、聞き捨てならない単語を含む言葉であった。


「やっと見つけた!栗原恭一!!」


 前世でのマーロンの名。

 厄介事の予感をひしひしと感じるマーロンであった。

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