47. 目まぐるしく変わる状況
引き続き栗原組の隠れ家内。今後どうするのかを話し合うマーロンたち。
「さて、これからどうしますか?」
「王都は王の庭だ。とりあえず身を隠すなら王都の外に出たいな」
アンナの問い掛けにマーロンが答える。王都など王のお膝元だ。流石に王都に隠れ続けるのは難しい。
「お父様が心配です………。私が狙われているなら、お父様に矛先が向く可能性も」
「その可能性は大いにあり得ます。だとすると、一度ビレストに行って旦那様と合流した方が良いかと」
ビレッジ公爵を心配するセレーネの言葉に同意を示すマーロン。娘であるセレーネが雲隠れすれば、十中八九、矛先はビレッジ公爵の方に向く。
「あっ!」
そんな中、突然にアンナがそんな声を出した。
「どうしたんだアンナ?」
「まずいです!実は2日前、千人近くの王国兵が南東に向かって王都を出発したと報告がありまして!」
「「!?」」
アンナの思い出したかのようなそんな言葉に、マーロンたちは驚きを露わにする。
南東と言えば、ビレッジ公爵が治めるビレストの領地がある方角である。
「既に王国兵が動き出していたのか!!」
「すみません!まさか目的がビレストだとは思っておらず!!」
アンナが頭を下げるが、それでアンナを責めるのは筋違いだろう。南東に向かったという情報だけでは、目的地がビレストだと判断できるものではない。
「すぐにビレストに向おう!フランマ、お願いできるか?」
「いいぞ。ビレスト程度であれば3日で着く」
「すまんフランマ!恩に着る!」
「ありがとうフランマ!」
マーロンとセレーネがフランマに礼を言う。
既に王国兵はビレストに向かっているため、フランマの力を借りて先回りするのだ。
「え?3日って、どういう?」
フランマの正体を知らぬアンナが尋ねる。
「フランマは竜だ!彼女の翼ならビレストまですぐ着く!」
「えっ………ええ~~~~~!?」
驚きで叫び声をあげるアンナ。何故竜がセレーネの傍にいるのか、全くの謎である。
「悪いアンナ。詳しく話している暇は無い!俺たちは急ぎビレストに向かう!」
「待ってください!私も同行します!」
「いいのかアンナ?」
「もちろんです!ビレッジ公爵のピンチですので!―――その代わり、フランマについてはちゃんと説明してくださいね!!」
「わかった!ありがとうアンナ!」
どうやらアンナも同行してくれるようだ。
急ぎ外に向かおうとするマーロンたちであったが、そこでもう1つ問題があったことに気付く。
それがこの場に連れて来てしまっていたレヴィエである。
「―――レヴィエも連れて行きましょう」
「ええッ!?」
マーロンのその言葉に驚きの声を上げたのはレヴィエであった。
「全部話したでしょう!?解放してよ!!」
「ダメだ。もうお前は栗原組とお嬢の関係を知ってしまった。返すわけにはいかなくなったんだ」
「そ、そんなの理不尽です!勝手に人を連れて来ておいて!!」
マーロンの言葉通り、レヴィエは既にセレーネたちと栗原組が一緒にいるところを目の前で見てしまっている。これから栗原組を頼る都合上、栗原組との関係を知るものを野放しにするわけにはいかないのだ。
「理不尽なのはお嬢の命を狙ったてめえの方だろクソアマァ!!いいから大人しく従え!!」
「ひ、ひぃ!!」
マーロンの恫喝にビビり散らし、またしてもマーロンに首根っこを掴まれるレヴィエ。威厳ある生徒会長としての姿はどこへやら。マーロンに捕まってしまってからの生徒会長はただの怯える小動物である。
「よし!出発じゃ!振り落とされる出ないぞ!!」
フランマのその掛け声とともに、マーロンたちはビレストに向かって飛び去った。
~ 王国兵 ~
2週間程度の進軍を経て辿り着いたビレストの街。その目的であるビレッジ公爵邸に、王国兵は既に到着していた。
「隊長!やはりこの屋敷は既にもぬけの殻のようです!」
「クソッ!どこで情報が漏れたんだ!?」
今回の進軍の隊長が悪態をつく。
この進軍は極秘の作戦であったはずだ。ビレッジ公爵を確保せよ。王からのその命に従い、極秘に進軍を進めた筈だ。
だが結局、ビレッジ公爵邸は人っ子一人いない、もぬけの殻であったのだ。どこかで情報が漏れていたとしか考えられない。
「隊長!どうします?」
「ビレストの街の中をくまなく探せ!絶対にビレッジ公爵を見つけるのだ!!」
焦燥に満ちた顔でそう命令する隊長。
自身の評価に直結する案件だ。必ずビレッジ公爵を見つけなければ。
~ 栗原組 本部 ~
「栗原組よ、感謝する。まさか私が狙われていたとは」
「いえ。どうにか間に合って良かったです。フランマの翼が無ければ間に合わなかったので、感謝の言葉はフランマにあげてください」
「そうだな。フランマよ、ありがとう」
「うむ。よーく感謝するがよい人間よ」
生意気な口を利くフランマに苦笑するビレッジ公爵。
マーロンたちは現在、ビレッジ公爵、フレデリック、フィーネを連れて、栗原組の本部に身を隠していた。
フランマの翼でビレストの街に直行した後、ビレッジ公爵たちに事情を話し、一緒に身を隠すことにしたのだ。
「フィーネは本当に良かったの?フィーネだけなら、レドシラ伯爵の元に帰って良かったのに………」
セレーネがフィーネの事を気遣って尋ねる。
フィーネはビレッジ公爵家が引き取ってはいるが、元々はレドシラ伯爵家の娘だ。今回身を隠すことになった都合上、フィーネの事はレドシラ伯爵邸に帰すつもりであった。
だが、セレーネの事情を知ったフィーネは、自らセレーネたちに付いて行くことに決めたのだ。
「セレーネ様もビレッジ公爵様も、私にとっては既に第2の家族です。家族が危険な状況で、どうして私だけ安全圏に逃げられましょうか」
フィーネがそんな事を言うが、表情には少しだけ不安が透けて見えた。
おそらく彼女は無理しているのだろう。本音では逃げ出したい気持ちで一杯なのだろう。だが、それでもセレーネたちの身を案じて、フィーネは付いて来てくれたのだ。
「フィーネ………ありがとう………」
セレーネがフィーネの事を抱き締める。フィーネの小さな身体を、セレーネがこれでもかと抱きしめる。
「セレーネ様………」
フィーネも負けじとセレーネを抱く。こうして抱き合っている姿はもう、本物の姉妹にしか見えない。
しばらく抱きしめ合ったセレーネとフィーネ。
2人は周囲からのあたたかな視線を感じ、恥ずかしそうにその身体を離した。
「しかし、何故バーナス王はこんなことを………。我が娘の話じゃなければ、とても信じられんぞ」
「王はどういう人物なのですか?」
「バーナス王は優しく民思いの王だ。こんなことをする人物ではないんだが………」
ビレッジ公爵がうんうんと唸る。
「とにかく、暫くは隠れるしかないか」
「そうですね。―――アンナ。身を隠すのに最適な場所は無いか?」
「あります。とっておきの場所が」
マーロンの問い掛けにアンナがニヤリと笑う。
「ほう。どんな場所だ?」
「―――皆さん。国外旅行なんて、いかがですか?」
~ アリス聖教本部 ~
「聖女様。魔王の暗殺は失敗したようです。魔王の家族もろとも、今は行方不明との事」
執事服を着た青年が聖女メノーテへ報告する。
「なんですって!?」
聖女メノーテが目の前の机をバンッ!と叩く。その顔には怒りと焦燥が張り付いていた。
「落ち着いてくださいアリス。今王国兵に探させている所ですので」
「ごめんなさい、アレク。貴方に当たったわけでは無いの………」
「いいんです。早くあの魔王を討伐せねばと思っているのは、何もアリスだけでは無いですから」
「アレク………」
執事服の青年からアリスと呼ばれている聖女メノーテは、アレクと呼ばれた執事服の青年の肩に寄りかかる。
まるで恋人同士かのように、寄り添い合う2人の男女。
「アレク、愛しているわ………」
「私もですよ。アリス」
愛の言葉をささやき合う2人。
「はやくかの魔王を討伐して、2人だけの世界を作りましょう」
「そうですね。ああ………その日が待ち遠しい」
寄り添い合う2人の男女は、そう言って笑い合った。




