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44. 学園再開

 そして月日が過ぎ、遂にウェスト王国貴族学園の下期が始まる日。

 長かった長期休暇も終わった教室の中。セレーネはグレイス、ヘレンのいつもの3人で久しぶりの再会を喜んでいた。

 マーロンたち従者はいつものように、教室の後ろ側で待機する。新たにセレーネに同行しているフランマも一緒だが、既に暇なのか、教室の後ろで大あくびしている。


「グレイス。セレーネの家はどうでしたの?」

「おっきかった。あと楽しかった」


 グレイスはそう言って、セレーネの実家であった出来事を話し始めた。それを楽しそうに聞くセレーネとヘレン。


「いいですわね………わたくしもご一緒したかったですわ」


 話を聞き終わり、1人呟くヘレン。

 どうやらヘレンは、1人で自身の実家に帰っていたのが寂しかったようである。


「次の長期休暇はヘレンの家に行きたい」

「ほんと!?ぜひご招待しますわ!」


 だが、グレイスの一言でヘレンの表情がパッと明るくなる。グレイス。その無表情には似合わず気の利く子である。


「そう言えば、下期の最初は王様からの挨拶があるみたいですわ」

「そうなんですか?」

「はいですわ。どうやらそれが毎年の通例みたいで」


 ヘレンの言う通り、毎年の下期の始めまりはウェスト王国の王からの挨拶で始まる。

 どうやら下期が始まる日がウェスト王国貴族学園の開校記念日らしく、それで王から直々に挨拶を(たまわ)れるという事らしい。


「王様。実際にお会いするのは初めてです」

「私も」


 セレーネとグレイスが言う。

 王は忙しい。いくら貴族であっても、辺境貴族のセレーネと新興の男爵であるグレイスでは気軽に合えないのだ。


「そうだったんですの?セレーネは意外ですわね」

「辺境貴族ですから。そうそう機会が無いとお会いするのは難しいんです」


 そんな事を話していると、セレーネたちの教室に担任の先生が入って来て言う。


「時間だ。みんな講堂に集合」

「「は~い」」


 どうやらタイミングよく、王からの挨拶の時間になった様だ。

 セレーネたちは3人揃って、王からの挨拶がある講堂へ向かうのであった。







 ~ レヴィエ・ヴァレンタイン ~


 レヴィエ・ヴァレンタイン。ヴァレンタイン大公の娘で、ウェスト王国貴族学園の生徒会長である彼女は、学園代表として王への応対を行っていた。


 学園にある講堂の裏。目の前にどっしりと座る白い髭を携えた初老の男性。彼こそがウェスト王国の王である、バーナス・ディア・ウェストルテだ。


「レヴィエ、久しいな。息災か?」

「はい。バーナス王も、ご健勝(けんしょう)で何よりでございます」


 バーナス王に話し掛けられたレヴィエは、最大の敬意をもってバーナスに応対する。


「今年の1年に、君のように優秀な生徒はいるかね?」

「はい。マストン男爵家のグレイス。彼女はかなり優秀です」

「ほう。マストンというと、少し前に貴族にしてやった、あの?」

「はい。そのマストン男爵家の娘でございます」

「ほほう。火災で亡くなったと聞いていたが、娘は無事だったのだな」

「はい。マストン男爵と同じく、優秀な貴族です」


 今年の1年で首席なのはグレイスだ。上期の期末試験でも、2位以下に圧倒的な差を付けて1位の座を死守していた。


「他に気になる生徒はいるかね?」

「そうですね………次席のセレーネ・ビレッジも優等生ですね」

「ビレッジ公爵家の1人娘か。そう言えば会ったことはないな」

「グレイス程ではないとはいえ、例年の首席クラスの成績は収めています」

「ほう。去年の君と続いて、今年の生徒たちも優秀なようだな」


 バーナス王はうんうんと大きく頷く。

 そんなバーナス王に、レヴィエは疑問に思っていたことを聞いてみる。


「1つ質問よろしいでしょうか?」

「うむ。なんでも聞くがよい」


 バーナス王は気さくにそう答える。


「バーナス王はどうして、毎年この学園に挨拶をしに?」

「うむ。この学園に通う生徒たちは、将来この国を担う貴族の卵だ。そんな彼らにはできるだけ、立派な貴族になって欲しくてな」

「なるほど。生徒たちの未来のためなんですね」

「よく言えばそうだな。まあ、ワシの自己満足かもしれんが」


 バーナス王からの意外な答えに、レヴィエは少し驚く。てっきり形式的な者であると思っていたのだが、意外と生徒たちの事も考えているのだと、王の事を少し見直すレヴィエ。


 レヴィエがそんな事を考えていると、バーナス王が突然に立ち上がった。


「暇つぶしに付き合ってくれて感謝する。そろそろ時間だろう?行ってくる」

「承知いたしました。壇上(だんじょう)はあちらになります」

「うむ。ありがとう」


 自身の挨拶の時間が近付いたからか、バーナス王は自ら立ち上がって壇上に上がって行った。

 バーナス王の応対の役を賜り、緊張しっ放しだったレヴィエであったが、王の意外な気さくさに内心では驚いていた。


(案外気さくな方なのね。厳格(げんかく)なイメージだったんだけど、以外とそうじゃないのかしら)


 そんな事を考えていると、バーナス王の挨拶が始まった。

 壇上に立つバーナス王を、学園の生徒たち全員が見上げてその言葉を聞いている。


「この国の未来を担う君たちには、できるだけ立派な………………!?」


 バーナス王が全校生徒に言葉を伝えている中、突如バーナス王が硬直したかのように言葉を止める。


 突然止まったバーナス王に、生徒たちは不思議そうな顔でざわざわしだす。

 硬直したバーナス王の視線の先には、1年Aクラスの生徒が集まっていた。


 時間にして数秒。


「コ、コホン。すまない。挨拶を続けよう」


 そう言って何事もなかったかのように続けて話し始めたバーナス王。

 生徒たちも何があったのか訳も分からない状態であるが、バーナス王の言葉が続けられているため、再び黙ってバーナス王の言葉を聞き始めた。


 時間にして20分程度。

 バーナス王の挨拶も終わり、壇上からレヴィエの元に戻ってきたバーナス王。

 そこには、壇上に上がる前の優し気な表情は無く、血走ったような様な目をしたバーナス王がいた。


「レヴィエ。至急の要件だ」

「は、はい!なんでしょう!?」


 目を血走らせたバーナス王は、小声でレヴィエに言う。


「セレーネ・ヴィレッジを殺せ。できるだけ早くだ」

「!?」


 その言葉に驚き、目を見開くレヴィエ。


「ど、どうして………?」

「理由は言えん。だが、極秘にやれ。必要なら戦力も分け与えよう」


 そう命令口調で言うバーナス王。

 まるで人が変わったかのようなバーナス王の言葉に、レヴィエは(うなず)くしかなかった。

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