41. 久しぶりの実家と新たな仲間たち
引き続きビレッジ公爵の執務室。この場にいるマーロン、ビレッジ公爵、セレーネ、フレデリック、フランマは、引き続き話を続ける。
次の話題はマーロンについてだ。セレーネとヒルダ、そしてグレイスにはバレてしまった、マーロンが転生者であるという話である。
この場には先ほどまでフィーネもいたのだが、彼女には少し席を外してもらっている。フィーネはビレッジ公爵家が引き取ったとはいえ、セレーネを殺そうとしたレドシラ伯爵の娘である。ビレッジ公爵家にとっては明確な弱みとなってしまうため、彼女には申し訳ないが聞かせられないのだ。
「これが自分の能力です」
そう言ってマーロンは上着を脱ぎ捨てて、『人狼化』のスキルを行使した。身体が大きく膨張し、人狼の姿へと変貌を遂げる。
「ほ、ほう。これは凄いな」
「まさか、まだこんなものを隠していたとは………」
ビレッジ公爵とフレデリックが少し驚きながらも、マーロンの事を観察する。その顔には多少、恐怖が張り付いている。やはり見た目は怖いようだ。一目見た時に「可愛い」なんて言ってのけたセレーネが異常なのである。
「申し訳ございません。黙っていて」
「よい。これは確かに話せないのも納得だ。こんなものがバレれば一発で王都の監獄行きだ」
この世界での転生者は、その存在自体がご法度なのだ。見つけ次第捕らえられ、一生国に逆らえなくなる誓約が課され、奴隷として一生を過ごすことになってしまう。
「マーロン。よく話してくれた。お前の信頼に応え、この事はここだけの話にしよう」
「国に突き出さなくていいんですか?下手したら旦那様も罪に問われる可能性だってありますよ?」
「マーロンよ。お前はまだわかっていないのだな。マーロンには何度もセレーネの事を救って貰っている。お前を見捨てるつもりなど更々ない」
「旦那様………」
ビレッジ公爵の言葉に心撃たれるマーロン。やはりこの人あってのセレーネなのだろう。義と人情に厚い、優れた人格の男性である。世のほとんどが理想としている上司であろう。
「フレデリックもそう思うだろう?」
「はい。マーロンは色々と役に立つ執事ですから。バレるリスクより、隠して得られるメリットの方が大きい」
「ふっ。お前も素直じゃないな」
フレデリックの素直じゃない物言いに、ビレッジ公爵が苦笑する。フレデリックもそんな事を言いながら、マーロンの事を信頼しているのだ。
「よし!これで一件落着ですね!これからもよろしくお願いします!マーロンにフランマ!」
「はい。これからも誠心誠意、お仕えさせていただきます」
「うむ。よろしく頼むぞセレーネよ」
こうしてマーロンとフランマは、改めてビレッジ公爵家に迎えられたのであった。
その日の夕飯時。
ビレッジ公爵家の食堂にて、共に席に座るビレッジ公爵、セレーネ、フィーネ、そしてグレイスの4人。
すでにグレイスの事はビレッジ公爵にも話していて、自己紹介も済ませてある。
「グレイスよ。寛げておるか?」
「はい。居心地が良さすぎて怖くなるくらいです」
「そうか。それなら良かった」
ビレッジ公爵とグレイスの会話だ。グレイスには客室の一室をあてがっており、そこでグレイスはこの長期休暇を過ごすのだ。
「しかし、こんなにも早くセレーネが友人を連れて来るとはな。流石我が娘よ」
「グレイスは苦楽を共にした仲間ですから。それにもう1人、ヘレンとも仲良くなしました」
「ヘレンと言うと、オルティス公爵家の?」
「はい。グレイスとヘレン。この2人には仲良くさせてもらってます」
「そうか。ありがとうグレイス。セレーネと仲良くしてもらって」
「い、いえ!寧ろこちらからお礼を言いたいくらいで………!」
慌てるグレイスにビレッジ公爵とセレーネが笑う。流石のグレイスも、友人の父親相手には少し緊張してしまうようだ。
「長期休暇は長い。ゆっくりと寛いで行ってくれ」
「はい。ありがとうございます。ビレッジ公爵様」
グレイスはこれから1か月近くビレッジ公爵邸に滞在する予定だ。グレイスが不自由しないように、少し気にかけておこうと思うマーロンであった。
長期休暇のとある日。
ビレッジ公爵邸にある修練場にて、2人の人物?が手合わせをしていた。
「ふん!」
「はっ!」
1人はフランマ。見た目は可愛らしい赤髪の少女であるが、その実は100歳前後の竜である。
もう1人はマーロン。人間形態のまま、フランマとステゴロで手合わせをしている。
「どりゃあ!!」
「隙だらけだ!!」
フランマの大振りの飛び蹴りをマーロンは難なく避け、そのまま足を掴み取ってフランマの身体ごと投げ飛ばした。
「ふげぇ!!」
投げ飛ばされて地面に叩きつけられるフランマ。ちょっとだけ涙目である。
「うう………また負けた………」
「やっぱりまだまだ人間形態の時は隙が多いな。竜だから身体能力はケタ違いだが、技術は素人レベルだ。それじゃあ雑魚は蹴散らせるが、俺レベルの人間にはやられるぞ」
「わ、わかった!」
フランマは立ち上がり、もう一度マーロンに向かって行った。
このマーロンとフランマの組手は、セレーネ、グレイスへの戦闘指導の延長線上で行われているものだ。
マーロンが行っていたセレーネとグレイスへの戦闘指導をフランマが目撃し、自分にも教えろとせがんできたのである。
フランマがマーロンの元へと来た目的の中には、打ち負かした相手の戦闘技術を学んでくるという目的もあったらしく、それに体よく利用されているというわけである。
「すごいですね………」
「うん。凄い」
そんな2人の組手を観察するセレーネとグレイスは、目で追うのすらやっとの戦いを見て舌を巻いている。
フランマのビレッジ公爵家での立場は、セレーネの専属メイドという事になっている。と言っても、メイドとして働いているわけではない。セレーネのお世話は引き続きマーロンとヒルダが行い、フランマの仕事はセレーネの護衛1つだ。
そんな強力な従者が2人もセレーネについているのだ。これ程心強いことは無いだろう。
「どうしたぁ!?もう終わりかぁ!?」
「く、クッソ~~!!人間風情がぁ~~!!」
そう言ってまたしても飛ばされるフランマ。どうやら現時点では、マーロンの圧勝のようであった。
組手が終わり、汗を流して着替え終わった後の少しの空き時間。
するっとセレーネがマーロンの方に寄って行き、マーロンに小声で話し掛けてくる。
「マーロン。長期休暇中、どこかでその………2人っきりで出かけませんか?」
恥ずかしそうに顔を朱くしながら言うセレーネ。
女性経験が少ないマーロンにでもわかる。これはデートの誘いである。マーロンは背筋をピンと伸ばし、セレーネにすぐに返事をする。
「はい。喜んでエスコートさせていただきます」
「ほ、ほんとですか?」
「はい、もちろん」
マーロンからのそんな返事を聞き、セレーネの顔は不安そうな顔から徐々にニマニマとした嬉しそうな笑顔に変わっていく。
「やった~!」
「そう直球で喜ばれると照れてしまいますね」
「だって、本当に嬉しいんだもん!」
「それは私としても光栄でございます」
嬉しそうにぴょんぴょんと飛び回るセレーネ。兎みたいでとてもキュートだ。
「間近に空いている日だと、三日後が空いてますね」
マーロンがセレーネのスケジュールを確認して言う。セレーネのスケジュール管理もマーロンの仕事の1つだ。
「じゃあその日で!」
「わかりました。では、執事長にその日は一日外出すると伝えておきます」
「うん、よろしくね!―――あっ!でも、お父様には内緒ですよ?茶化されそうなので」
「わかりました」
ニコニコとした笑顔をマーロンに向け続けるセレーネ。
「今から楽しみです!早く三日後にならないかな~!」
「私も楽しみです。当日までにデートプランを考えておきますね」
「ほんと?お任せしちゃっていいの?」
「はい。とっておきのおもてなしをさせていただきます」
「ふふっ。じゃあ楽しみにしてますね!」
「はい。ご期待に沿えるよう、全力でエスコートいたします!」
こうして三日後にセレーネとデートすることが決まった。
マーロンにはあまり女性とのデートの経験はない。あっても片手の指で数えられる程度である。さらに、この世界でのデートの経験はもちろんゼロだ。
セレーネと別れた後、マーロンの顔は真剣そのものに変わる。
(これから徹夜でデートプランを考えなければ………。お嬢をがっかりさせるわけにはいかない!!)
そう、心の中で決意したマーロンであった。




