39. 戦いの後
夜空の青炎へのカチコミを大成功で終えたマーロンたち。彼らは夜空の青炎の本部を焼き払い、既に栗原組の隠れ家に戻って来ていた。
どうやらドラッグ製造工場への襲撃も上手くいったらしく、工場としての機能が停止してしまうほど徹底的に破壊しつくした様だ。栗原組とはやはり怖い組織である。
「セレーネ。マーロン。改めてありがとう」
「私は何もしてませんよ。お礼はマーロンに」
「あれくらい朝飯前です。そう気にすることはありませんよグレイス様」
栗原組の隠れ家にて、改めて礼を言うグレイス。彼女の手で復讐は果たせなかったが、それでも彼女の顔は何だかスッキリしたような顔をしている。
そんなグレイスがセレーネの耳元に口を近づけ、とある耳打ちをする。
「セレーネが言ってた事、わかった気がする」
「私が言ってた事?」
「うん。マーロンがかっこいいって事」
「えっ!?」
グレイスのそんな言葉に驚きを露わにするセレーネ。グレイスの顔を見てみると、少し頬に朱が差していた。
「グ、グレイスもライバルって事ですか!?」
「そうかも」
「ええ~~~~!!」
大げさに驚くセレーネ。マーロンの聴覚なら彼女たちの耳打ちは聞こえているのだが、それは聞かなかったことにする。
マーロンはセレーネの専属執事だ。元よりセレーネ以外の女性に興味はない。それが恋愛感情なのかは微妙なところであるが。
「グレイス!負けませんから!」
「うん。私も負けない」
「うう~!マーロンの魅力をわかってくれる友達ができたのは嬉しいですけど、なんだか複雑な気分です………」
セレーネがグレイスの言葉に慌てふためく。
グレイスはそんなセレーネを尻目に、マーロンに話しかける。
「マーロン。セレーネだけでなく、たまには私の事も見てね」
「え………?ぜ、善処します」
突如そんな事を言われ、少し戸惑うマーロン。好かれるのは嬉しいが、マーロンからしたら彼女たちはまだ15歳の子供である。この世界では成人として扱われる年齢だとは言え、前世の常識がまだ抜けきらないマーロンにとっては、流石に手を出しづらい年齢である。
「マーロン!たまに!たまにですからね!?」
「わ、わかりました!たまにですね!」
今度はセレーネがマーロンに言う。見ちゃダメと言わないあたり、セレーネの性格がよく表れている。
「私が青山の始末をしている間に、随分楽しそうですね………?」
そんなマーロンたちの元に、栗原組のアンナがやってきた。その顔は少し不機嫌そうで、眉間にしわが寄っている。
「栗原さん!栗原組にも、たまには顔を出してくださいね!!特に今回はいっぱい協力したんですから!!」
「はい!わかりました!」
初代ボスであるのに、何故か2代目に敬語になるマーロンであった。
外は既に暗くなり、日が完全に落ちた頃、ようやくマーロンたちはウェスト王国貴族学園の学生寮に帰ってきた。
時間はもう遅いが、セレーネとグレイスは表では3日間も行方不明になっている。ヘレンが心配しているかもしれないので、ヘレンにだけは先に帰還の報告をしに行くのだ。
学生寮のヘレンの部屋。そのドアをグレイスがコンコンコンとノックする。
「ヘレン。いる?」
グレイスがドアの前で尋ねた瞬間、部屋の中からドタバタという物音がして、目の前のドアが勢いよくバタンと開かれた。
「グレイス!?」
中から出て来たのはヘレンその人。目には隈ができており、その表情からは疲れが見て取れる。
「セレーネも!?」
ヘレンはグレイスとセレーネの姿を確認した瞬間、2人に飛びついて抱き締めた。
「もう!2人とも、どこ行ってたんですの!?心配しましたわ!?」
ヘレンはそう言ってグレイスとセレーネをぎゅっと抱きしめる。ヘレンの顔を見ると、少し涙が浮かんでいる。それほど心配していたという事だろう。
「ヘレン。ごめん」
「ヘレン。ごめんなさい………」
グレイスとセレーネが申し訳なさそうに謝罪する。
ヘレンからの抱擁は、ヘレンの涙が流れてこなくなるまで続けられた。
「なるほど。そんな事があったのですね………」
「うん。セレーネは敵討ちを手伝ってくれたの。だから責めないで上げて」
「いえ。ヘレンにはちゃんと伝えておくべきでした。ご心配おかけしました」
ヘレンの部屋の中。セレーネたちはここ数日で起きたことを色々と端折りながらヘレンに報告した。栗原組の事や夜空の青炎の事は伏せており、詳細は両親の仇がいて、その敵討ちに成功したという程度のことしか話していない。
栗原組とセレーネの繋がりは話せないし、夜空の青炎を潰したのは栗原組である。夜空の青炎の事も話せば、そこから栗原組に繋がる可能性があるためだ。
どうやらヘレンはここ数日間の間はずっとセレーネたちを探し回っていたようで、最近は心配でろくに眠れてもいなかったようだ。ヘレンには心配をかけてしまったと、反省するセレーネたち。
「でも、無事でよかったですわ」
「うん、ありがとう。全部セレーネとマーロンのお陰」
グレイスがそう言って、セレーネとマーロンにウインクしてきた。
そんなグレイスとセレーネたちに、ヘレンがジト目を向ける。
「なんだかグレイスとセレーネたちだけ、一段と仲良くなった気がしますわ!」
「えっと、そんなこと無いですよ?」
「うん。そんなこと無い」
どうやらヘレンは、セレーネとグレイスだけが仲良くなって帰ってきたことにお怒りのようである。
「ほんとなんですの?」
「うん。ほんと。ね?セレーネ」
「はい。ほんとです」
「やっぱり!なんか仲間外れな気がしますわ~~!!」
笑いながら頷き合うセレーネとグレイスに、またしてもヘレンが頬を膨らませる。これからヘレンの機嫌を直すのに時間がかかりそうである。
~ アリス聖教本部 聖女メノーテ ~
この世界、イストウェストの女神アリス。かの女神を信仰する、この世界最大規模の宗教『アリス聖教』。そんなアリス聖教の本部にて、綺麗な金髪を携えた女性が1人呟く。
アリス聖教の聖女であるメノーテである。
「魔王、いったいどこに………」
おとぎ話の中だけの存在である魔王。だが、アリス聖教の聖女であるメノーテにだけはわかる。この時代に魔王が既に出現していることが。
魔王は世界を破滅に導く存在であると、はるか昔の文献に記されている。かの魔王は必ずこの世界に産まれ落ちている。必ずかの魔王を見つけなければ。
「どこに逃げようと無駄よ。必ず見つけ出して、とどめを刺す」
まるで呪詛を吐くかのように呟いたメノーテの顔には、魔王に対する憎悪がこれでもかと浮かんでいた。




