36. いざカチコミへ
~ ミランダ ~
目の前に鎮座する大きな工場。今からミランダたちがカチコミしようという、夜空の青炎が管理するドラッグ製造工場である。
ミランダの周りには三桁人程にものぼる栗原組の構成員が集まっており、ミランダからのカチコミの合図を今か今かと待ちわびている。
この栗原組という組織は、今までもずっと売られた喧嘩を買い続けて大きくなっていった組織だ。その経緯上、非常に好戦的な者が多い組織である。
その好戦的な栗原組を象徴するような幹部が、このミランダである。
確かに幹部連中の中では圧倒的に頭が足りない。だが、それを補って余りあるほどの戦闘力を持ち合わせているのだ。
そのお陰で、ミランダに対する構成員たちからの信頼も高い。今もカチコミを待つ構成員たちは、ミランダの事を信頼してその心臓を預けているのだ。
ミランダが指示を出す時、開戦の合図はいつもミランダの開口一番の攻撃から始まる。
目の前のドラッグ製造工場の門の前に、ミランダだけが姿を現す。
堂々と斧を担いで現れたミランダに、当然見張りは警戒を表す。
「誰だ貴様!」
「止まれ!」
姿を現したミランダに向かって、見張りたちは武器を向けた。
だが、ミランダはそんな見張りたちを気にしていないかの様子で、背中に担いでいた斧を握った。
見張りたちがいるドラッグ製造工場の門まで50メートルほど。
その門に向かって、ミランダは一気に巨大な斧を振り下ろす。
「おらあああああああああああ!!!!!!」
ミランダの人並外れた身体能力から繰り出された、巨大な斧による一撃。
振り下ろされた斧から発せられた強大な衝撃波が、ミランダの前方の地面ごと斬り裂き、見張りたちが立つ門を真っ二つに引き裂いた。
見張りたちは斧による衝撃で吹き飛ばされ、残るのは地面に刻まれた人為的な地割れのみ。
「お前ら!!行くぞおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「「うおおおおおおおおおおおお!!!」」
ミランダが雄たけびを上げ、栗原組の構成員たちが一気に工場に流れ込んだ。
~ マーロン ~
王都の端にある倉庫群の一角。一見普通の倉庫に偽装した目の前の建物こそ、夜空の青炎の本部である。
マーロンたちはその倉庫を少し離れた建物の中から観察し、本部の動きを観察する。その場にいるのはマーロンの他に、セレーネ、アンナ、グレイス、ヒルダの4人だ。
すると、夜空の青炎の本部の周りが、次第に賑やかになっていく。
恐らく、ミランダたちによるドラッグ製造工場襲撃の知らせが舞い込んできたのだろう。夜空の青炎の構成員たちが慌ただしく動き回っている。
「よし。動き出した」
「ですね。私たちも準備しましょう」
マーロンたちの作戦はこうだ。
ドラッグ製造工場への襲撃によって戦力をおびき出し、守りの薄くなった本部を別動隊が襲撃する陽動作戦である。
しばらく待つこと数分。
夜空の青炎の本部から、数十人規模の構成員たちが外に出て、ドラッグ製造工場の方角へと進んでいく。どうやら陽動は成功したようだ。
その集団の中には夜空の青炎のボスである青山はおらず、予想通り、本部に居座っているようである。
「グレイス!頑張りましょう!」
「うん。私たちも戦えるってところ見せないと」
セレーネとグレイスが気合を入れる。
闇ギルドへのカチコミなど初めての経験だからか、少し緊張した面持ちになっている2人。
そんな2人に向け、アンナがため息をつきながら言う。
「皆さんは付いてくるだけで大丈夫です。敵は私と栗原さんで殲滅しますので」
「おいアンナ。折角気合い入れてるんだ。少しは優しい言い方をだな」
少しきついアンナの言葉に、セレーネたちが落ち込んでシュンとしてしまう。
「やっぱり足手纏いですか………?」
「はい」
「うう………」
「くっ………!」
「おいアンナ!はっきり言い過ぎだ!!」
いつも以上に刺々しいアンナの言葉に、セレーネ、グレイス、ヒルダは更に落ち込む。
「お嬢。グレイス様。大丈夫です。見た所、構成員たちの練度はそこまで高くない。この程度であれば、私とアンナだけで楽勝ですので」
「うう………!やっぱり戦力にカウントされてない!」
「悔しい………」
「私が戦えるメイドであれば………!」
「あっ………すみません………」
そしてマーロンの一言でとどめを刺してしまう。マーロンも元々裏の人間なので、デリカシーなど期待できないのだ。
「アンナはどうしてそんなに刺々しいんだ?」
「別に何でもないです。折角の栗原さんとの久しぶりのカチコミだってのに、余計な者が3人も付いてきてて怒ってるとかではないですから」
「全部言ってんじゃねえか」
どうやらアンナは久しぶりのマーロンとのカチコミを楽しみにしていたようだ。
確かにアンナと敵地にカチ込むのはかなり久しぶりなので、マーロンとしても少しワクワクしている所もある。
「そう言わずに楽しもうや。久しぶりのアンナとの共闘なんだし、俺も楽しみなんだ」
「ですね、失礼しました。ちょっと栗原さんを困らせたかっただけです」
アンナはそう言って笑顔に戻った。どうやら機嫌を直してくれたようだ。
「開口一番はどうする?いつものでいいか?」
「はい。栗原さん、やっちゃってください」
「了解」
そう言ってマーロンは、夜空の青炎本部の入り口の前に立つ。
「いつものって?」
「まあ見ていてくださいお嬢様方」
アンナにそう言われたセレーネたちは、大人しくマーロンの動向を見守る。
夜空の青炎本部の入り口の前に立ったマーロンは、ユニークスキル『人狼化』を行使し、3メートルほどの大きな人狼に身体を変化させる。
そしてクラウンチングスタートの構えを取り、一気に地面を蹴った。
「弾丸の如き突進!!」
弾丸の如き速さで飛び出したマーロンは、巨大な人狼の身体を弾丸にして、一気に倉庫の入り口を突き破った。
爆音を立てて突き破られる倉庫の扉。
倉庫の中には、突然の出来事に面食らう十数人の構成員たち。
「カチコミじゃごらあああああああああ!!!」
マーロンはそう言って、近くの構成員たちに次々と襲い掛かった。自慢の人狼の爪で、次々と構成員たちを引き裂いて行く。
そんなマーロンに遅れること数秒、アンナも倉庫の中に入ってくる。
「行きます!!」
アンナはそう言って、両手に短剣を持ち、残る構成員たちに躍り掛かる。
蝶のように舞い踊りながら、次々と構成員たちの喉元を斬り裂くアンナ。
もう中の構成員たちはパニックだ。
突如現れた大きな人狼に、踊り狂いながら襲い掛かってくる茶髪の女性。
驚き面食らい、対処が遅れた構成員たちは成すすべなく、その数を急激に減らしていく。
時間にして1分程度。
倉庫の入り口付近にいた構成員たちはみな、マーロンとアンナによって引き潰されてしまった。
「ふぅ、終わりました。とりあえずは楽勝でしたね、栗原さん」
「ああ。―――お嬢様方!もう入って大丈夫です!」
何事も無かったかのように、セレーネたちに笑顔で手を振るマーロン。この2人にとっては、この程度準備運動ですらないのだろう。
そんなマーロンとアンナの大暴れっぷりを、セレーネたちは入口の外から見ていた。
「私たち、本当に何もせずに終わるかもですね………」
「うん………やばすぎ………」
「これは………凄いですね………」
セレーネ、グレイス、ヒルダはそれぞれ、思い思いの言葉でマーロンたちの戦いっぷりに引いてしまうのであった。




