34. 情報交換と行きましょう
所変わって、栗原組が所有する隠れ家の1つ。その場にマーロン、セレーネ、グレイス、ヒルダ、アンナ、ミランダの6人が集まる。
「改めてありがとう。助けてくれて」
グレイスが改めて礼を言う。主にマーロンとセレーネに向けてだ。
「いいんです。グレイスは大切な友人ですから、本当に無事でよかった」
「グレイス様はお嬢の友人です。助けるのは当然ですよ」
マーロンに絶体絶命の危機を救われ、セレーネには死にかけていた身体を治療してもらったのだ。2人への感謝の気持ちは本物であろう。特にマーロンに対する視線は少しだけ熱っぽく、じっとマーロンの事を見つめている。
「どうしたんですかグレイス様?」
「う、ううん。なんでもない」
マーロンが怪訝に感じて尋ねてみるも、グレイスにははぐらかされてしまう。
そんな2人のやり取りを、セレーネとアンナがちょっとだけ不機嫌そうに見る。
「それでグレイス様。どうしてあんな場所で戦っていたんですか?」
グレイスのいつもとは違う様子が気になりはするが、集まったのは睨めっこするためではない。
まずはマーロンが本題に切り込んだ。どうしてあの場所にグレイスが居たのか。そして、どうしてあの男に殺されかけていたのか。マーロンたちにはわからない。
「―――わかった。話す」
そう言ってグレイスは自らの過去から話し始めた。
グレイスの両親が火事で死んだ時の事。その時に見た青い炎が、最近王都でも頻発しているという話を聞いた事。それで両親の仇がこの王都にいると知り、その仇を探していた事。そして、あの男に辿り着いた事。
時折、感情をこめて話すグレイス。
彼女の表情からは珍しく、怒りや憎しみの感情が顔を出していた。
「なるほど。あの黒髪の男が、グレイス様の仇という事なんですね」
マーロンはようやく納得できた。あの場所でグレイスが殺されかけていた黒髪の男性。奴こそがグレイスの両親を殺した仇であったのだ。
「アンナ。あの男は何者だ?」
「奴の名は青山翔太。闇ギルド、『夜空の青炎』のボスです。主にドラッグと殺しを含めた傭兵業で稼いでいる闇ギルドです」
青山翔太。その名をマーロンは知っていた。
「青山翔太?転生者か?」
「え………?よくお気づきになられましたね。青山は確かに転生者です」
アンナの答えで、マーロンは確信を持つ。
(なるほど。あの青山か)
だが、その話をする前に、先に話しておかなければならないことがある。
それが――――――
「セレーネ様。ヒルダさん。グレイス様。実は先に、話しておかなければならないことが………」
「?………どうしたんですか?改まって?」
「実は自分も転生者なんです」
「「!?」」
マーロンからのそんな突然の告白に、セレーネたち3人は目を丸くした。
「今まで黙っていて申し訳ございません」
転生者。この世界、イストウェストに、アースと呼ばれる世界から転生したものを言う。
この世界のすぐ傍には、『魂の運河』と呼ばれる、アースの死者の魂が流れる河が流れている。アースで死んだ人間の魂は、必ずこの『魂の運河』に行きつくのだ。
『魂の運河』に終着点はない。まるでループするかのように、何億何十億もの魂がアースの周りを流れているのだ。
『魂の運河』の役割は、その魂の禊にある。魂が運河を流れる過程で、少しずつその魂の禊を行っているのだ。
そして、禊が終わって初めて、魂は新たな人間として生まれ変わることができる。
この禊の作業は、生前の業が深い魂程、その禊にかかる時間が長くなる。
嘘を付くことから始まり、万引き、強盗、強姦、詐欺、殺人。生前行った様々な悪行によって、禊に費やされる時間が長くなるのだ。その結果、生前の業が深い魂程、『魂の運河』を流れる時間も長くなってしまう。
そして、そんな『魂の運河』とイストウェストが隣接しているからか、稀にアースの禊中の魂が、この世界に迷い込んでくることがある。
その迷い込んだ魂が、新たな人間として生まれ変わったのが、転生者と呼ばれる者たちだ。
先に言った通り、『魂の運河』を流れる魂は、業が深い魂ほど長く運河を彷徨う。
それゆえ、イストウェストに流れ込んでくる魂も、業が深い魂が迷い込む確率が高いのだ。
マーロンしかり。先の青山しかり。このイストウェストに迷い込んでくる魂は、必然的に犯罪者の魂が多くなる。
当然、そんなろくでもない魂が多いため、この世界で再度暴れまわる転生者は多い。
さらに、転生者というのはユニークスキルと呼ばれる特殊な力を持って転生する。
世界を渡る過程で、魔力というこの世界の固有の力が魂に入り込み、それがユニークスキルという形で魂に刻み込まれるのだ。
その所為で転生者というのは、力を持っていてかつ、潜在的な犯罪者である確率が高いのである。
この世界イストウェストでは、一時期、転生者が暴れまわっていた時期がある。そうなってくると、この世界の住民たちも転生者を放って置くわけにはいかない。
この世界で暴れまわる転生者を取り締まるために開発された魔法。それが、『誓約』と呼ばれる魔法である。
誓約の力はいたって簡単。誓約を交わされた転生者は、その使用者と、使用者が認めた人物の命令を必ず聞かなければならなくなる、といったものだ。つまり逆らえない奴隷のようなものである。
誓約の力は絶大であるが、そのデメリットとして、転生者のみに有効な魔法で、ウェスト王国の王と、イースト帝国の皇帝しか使えない力となっている。
転生者は必ずこの誓約を交わさなければならないと法で定めてある。そして一般人の場合は、転生者を見つけた場合は国への報告義務がある。転生者の存在を隠せば、それだけで重罪となる可能性があるのだ。
そのため、この世界の転生者のほとんどは、国に誓約を課されて奴隷のように生きているか、マーロンのように転生者であることを隠しているかである。青山のように強力な力を誇示したい人物である場合はその限りではないが、これはただの例外である。
そんな方法でこの世界は治安を保ってきたのだ。
先に上げた通り、この世界の転生者はかなり危険な立場である。転生者であるとバレれば表では生きていけず、国に捕まれば奴隷となる。そのためマーロンは、迂闊に自身の正体が転生者であると明かすことができなかったのだ。
「自分の本当の名は栗原恭一。別世界で極道、この世界で言う闇ギルドの一員であった男です」
そう言ってマーロンは、自身の身の丈を全て話し始めた。
セレーネたちはそんなマーロンの告白を黙って聞いている。アンナを含めた栗原組の幹部の一部は、既に知っている情報だ。
マーロンが全て話し終わった後、セレーネが言う。
「―――ヒルダ。グレイス。申し訳ないですけど、今聞いた話は黙っていてもらえますか?」
「はい。もちろんでございます」
「うん。わかった」
セレーネがそう言うと、ヒルダもグレイスも即答した。
「お嬢。国に突き出さないんですか?」
「マーロン!私はそんな事しないって、そろそろわかって欲しいです!」
セレーネが頬を膨らませて言う。
「そ、そうですね!失礼しました!」
セレーネに謝るマーロン。セレーネの性格上、国に突き出すようなことはしないと予想はしていた。だが、自分が転生者であるせいでセレーネやビレッジ公爵に迷惑がかかるかもしれない。そう考えてしまって、今まで話す機会を逸してしまっていたのだ。
マーロンが転生者だと知っても尚、セレーネたちはマーロンの事を捨てたりはしないだろう。だからこそ、その所為でセレーネたちはマーロンの共犯者になってしまうのだ。そうなるのはマーロンの本意ではなかった。
結局、このタイミングでの暴露となったのは、話の都合上で話すしかなくなったからに他ならない。
「私は怒っています!確かに話し辛い事だったと思いますが、もう少し私を信頼してもいいんじゃないですか!?」
「し、信頼していないわけではありません!ただバレると、お嬢や旦那様に迷惑が掛かると思い!」
「それを信頼していないと言っているんです!それ込みで、それでも私たちはマーロンを捨てたりしません!」
「お、お嬢………」
セレーネの言葉に反省するマーロン。確かに余計な事は考えずに、早く言っておくべきであった。
「申し訳ございません!お嬢!」
深々と謝罪するマーロン。そんな真剣なマーロンの謝罪に、セレーネはようやく留飲を下げる。
「わかりました。許しましょう。――――――ただし、お父様やフレデリックにもちゃんと伝えておくのですよ?」
「はい。わかりました。ビレストに戻った際は必ず」
こうしてセレーネの許しを得たマーロン。これでようやく本題に戻ってこれる。
「話を戻しましょう。それでその青山ですが、前世の私の知り合いです」
「え?そうだったんですか?」
「はい。青山翔太。前世で放火魔だった男です。自らの欲望のため、無差別に放火を繰り返す犯罪者でした」
青山翔太。前世の栗原時代。確か栗原が18歳くらいの頃であっただろうか。組のシマ内で放火事件が後を絶たなかった時期がある。その犯人の名前が、青山翔太であったのだ。
「その青山翔太ですが、私が所属していた組の重要物件を燃やしてくれましてね。それで怒り狂った親父から、青山の拉致を命令されました」
「前世から関わりがあったのですね?」
「はい。青山は素人だったので拉致するのは簡単でした。後はもう、お察しの通りで」
怒り狂った組長にさんざん痛めつけられて、最後はサメのエサになった。そういう事だ。
因みに海に突き落としたのは栗原だ。つまり、青山に止めを刺したのも栗原である。
「つまり、前世で青山を殺したのは自分。ということになります」
なんと数奇な運命だろうか。過去に自分が殺した人間にこうして出会うとは。素晴らしいほどの運命力である。
「青山も転生者であることはわかりました。転生者であれば特殊な力を持っているはずです。その情報はありますか?」
セレーネの問いに、今度はアンナが答える。
「はい。奴は『青い炎』を操る能力を持っているようです。青い炎を任意の場所に出現させたり、自身の身体から発したり。まあまあ厄介な能力です」
「なるほど。青い炎は転生者の………」
グレイスが唇を噛み締める。青山が操る青い炎に散々やられたのだ。その苦い記憶を思い出したのだろう。
「そう言えばマーロンも転生者って事なら、特殊な力を持ってるって事ですよね?」
「はい。―――たぶん、見せた方が早いかと」
そう言ってマーロンは、自身のユニークスキルである『人狼化』を行使する。
急激にマーロンの身体が膨張し、上半身の服が弾け飛ぶ。その中から現れたのは、灰色の毛に覆われた半分人型の狼であった。
身長は3メートルほどに伸び、鋭い牙と爪を携えた人狼である。
「「!?」」
急激なマーロンの姿の変わりように、この姿を知らなかったグレイスとヒルダは身体を仰け反らせて驚く。
だが――――――
「か、かわいい………!」
何故かセレーネ1人だけ、驚きもせずに目を輝かせていた。
「か、かわいい、ですか?」
「はい!マーロン!触ってみてもいいですか!?」
「いいですけど………」
「やった~!!」
セレーネはそう言って、マーロンの腕をふにふにと触り始めた。
「毛がモフモフで気持ちいいです!それに、肉球もふにふに………!」
「あ、あの………爪には気を付けて………」
マーロンの身体をこれでもかと触るセレーネの顔には、まるで小動物を愛でるかのような優しい表情が浮かんでいる。
今のマーロンは3メートルを超える人狼の姿である。なのにセレーネは怖がることもせず、寧ろ嬉しそうにマーロンを触る。その予想外の反応に、マーロンは困惑を隠せない。
そんなセレーネの行動を見たからであろうか。驚いていたはずのグレイスとヒルダもマーロンに触れようとしてくる。
「マーロン。私も触っていい?」
「私もいいですか?」
「いいですけど………」
マーロンの許可を得たグレイスとヒルダも、セレーネと同じようにマーロンに触れ始めた。
「ふわふわ………」
「モフモフ………」
「………」
嬉しそうにマーロンを触る2人。
タイプの違う女性3人に触れられて、マーロンもまんざらでもない気分である。
結局このマーロンふれあい会は、数分ほど続いた。
「あ、あの………私も………」
「お前は触ったことあるだろ!!」
アンナも便乗しようとしてきたので、流石に突っ込むマーロン。早く本題に戻りたい。




