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異世界に転生した狂犬は、公爵令嬢の執事に転職するようです  作者: あべしろ
第一章 公爵令嬢の執事に転職しました
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03. 竜の逆鱗を頂戴しに

 全速力でぶっ飛ばして1日。マーロンはヴォルカニ火山と呼ばれる活火山に到着した。

 流石は活火山。火山を登るたびその気温は上昇し、火山の8合目程まで来た今では、気温は50度を超えている。常人であれば熱で倒れていてもおかしくはない。


 たった1人で火山を登るマーロンであるが、この世界には魔物と呼ばれる凶暴(きょうぼう)な生物が存在しており、この火山でもそれは例外ではない。

 今もマーロンの目の前に、人間の身体より大きな赤いトカゲが行く手を(さえぎ)っている。レッドリザードと呼ばれる、Cランクの魔物である。


 このランクというのは、その魔物の危険度を表す指標だ。F、E、D、C、B、A、そしてSと階級分けがされており、左から右に行くにつれて、その危険度は大きくなっていく。

 つまりレッドリザードと呼ばれる魔物は、全ての魔物の中で中間くらいの強さ、だという事である。


 当のマーロンはそんな魔物を――――、


「邪魔」


 そう言って蹴飛ばした。


「グゲェ!」


 蹴飛ばされたレッドリザードは変な断末魔(だんまつま)を上げながら数十メートル先の地面に激突し、ピクリとも動かなくなる。

 マーロンの進んできた道には、このようにマーロンによって瞬殺された魔物が、大量に転がっているのだ。


 マーロンは元々、喧嘩の天才であった。前世の栗原時代、何の技術も習っていなかった中学時点ですでに、プロボクサーといい勝負ができるほどの実力を兼ね備えていたのだ。

 大人になって格闘技や武道、合気道を習得した時点から、日本という国においてマーロンと勝負ができる人間は一握りしかいなくなっていた。『狂犬』。そう呼ばれていた理由の1つが、この喧嘩の強さにあるのだ。


 そしてマーロンは、この世界に転生して5年の間で、魔力による身体強化も会得していた。

 この世界の生物全てに流れているエネルギー、『魔力』。この世界の生物の生命維持にも必要なエネルギーで、主に魔法を使うのに消費されるほか、自らの身体能力を高めるのにも使用される。

 自らの魔力を知覚し、全身の筋肉に行き渡らせることで、その人の身体能力を何倍にも跳ね上げることができるのだ。

 この世界で戦う人間にとって、必須とされる技術の1つである。


 この本来持ち合わせていた戦いの技術と、この世界の魔力で強化された身体能力が合わさり、現在のマーロンの無双状態に繋がっているのだ。

 もちろん、魔物のランクがAランク以上とかになってくると話は違ってくる。

 マーロンが今持つ身体能力と技術だけではどうしようもない魔物もいるだろう。だが、Cランク程度の魔物であれば、一瞬で片付けられるほどの実力をマーロンは持っているのだ。


 そんなこんなで急いで火山を登山すること数時間。遂に竜がいるとされる洞穴(ほらあな)の前まで辿り着いた。

 その場の気温は55度。急がなければ、マーロン自身が干からびてしまうだろう。


 急ぎ洞穴の中を進むマーロン。

 洞穴の中は薄暗く、空気も乾ききっているが、そう長い道ではないようであった。直ぐに洞穴の奥まで辿り着く。


 辿り着いた先は巨大な空間。名古屋ドームほどに横も縦も広い、そんな空間であった。


 そして、そんな洞穴の中で、マーロンを待ち受けていた生物が1つ。


「何者じゃ?」


 その空間に、何者かの声が響き渡った。

 マーロンが声の主を確認すると、そこにあったのは――――――、


 物語の中でしか見たことないような、そんな赤き竜であった。


 全長30メートルほどの巨大な体躯(たいく)を持ち、全身を(おお)う赤く輝く鱗が、まるで精錬(せいれん)中の鋼鉄のように綺麗な赤で輝いている。

 瞳は燃え盛る火炎のような深紅に輝いており、顎は鋭利(えいり)な牙で満ち、その一噛みで岩すら粉々に砕く力を秘める。

 大きく広げられた翼は暗い炎のように揺らめき、空を舞うたびに灼熱の風を巻き起こすであろうことが容易に見て取れる。

 先端に鋭い槍のような突起が付いた長い尻尾も、この竜の凶悪さと威厳(いげん)拍車(はくしゃ)をかけている。


 そんな、強烈な威厳を放つ竜を前にして、マーロンは嬉しそうに口角を上げる。


「竜ってのは喋れるんだな」

「当たり前じゃ。竜というのは人間なんかより優れた生物よ。話せない筈が無かろうに」


 目の前の竜はマーロンの言葉が気に障ったのか、少し眉をひそめた。そんな竜の機微(きび)を見て取ったマーロンは、頭を下げて謝罪する。


「そうか。それは失礼した」

「うむ。意外と礼儀正しい人間じゃのう」


 竜が感心したように言う。どうやら、意外と話は通じる生物らしい。


 さっさと逆鱗(げきりん)頂戴(ちょうだい)して帰るつもりであったマーロンであるが、話しができるとなると話は変わってくる。

 逆鱗をくれと頼みに来た立場である。ここは下手に出て、誠心誠意(せいしんせいい)頼むのが筋であろう。


 マーロンは膝を軽く曲げ、腰を落とす。左足に左手を乗せたまま後ろに引き、右手を前に突き出して手の平を上に向ける。所謂(いわゆる)、お控えなすっての姿勢だ。


手前(てまえ)生国(しょうごく)と発しますはビレストにござんす。縁持ちまして、親と発しますは、ビレッジ公爵家御令嬢、セレーネ・ビレッジにござんす。姓はなし、名はマーロン。以後、万事万端(ばんじばんたん)、宜しくお頼み申します」


 マーロンは初対面の相手への敬意を示すため、竜相手に仁義(じんぎ)を切る。現代日本でも伝わるかわからないような古い作法である。

 ただ、勝手にセレーネを親としているのはご愛敬(あいきょう)である。


「?????」


 当然、仁義の切り方など知らぬ竜は、マーロンの言葉と態度に疑問符を浮かべる。きょとんとした目で、マーロンを見る。


「…………」


 シーンとした静寂が流れる。


 マーロンは姿勢を直し、気恥ずかしそうに頭を掻いた。


「―――まあ形式的なもんだ。気にするな。………俺の名前はマーロン」


 結局この竜に伝わらず、普通の挨拶を交わす。


「何だったんださっきのは………。まあよい。我はフランマじゃ」


 目の前の竜はフランマと名乗る。名乗れば名乗り返してくれるところを見るに、もしかしたら逆鱗を貰えるかもしれない。


「それで?何用じゃ?」

「フランマ、あんたに頼みがある。―――あんたの逆鱗、俺にくれないか?」


 マーロンがそう言った途端、ピリッと空気が張り詰めた。


「―――今、何と言った?」


 先ほどより低い声音でフランマが問う。


「あんたの逆鱗が欲しいと言ったんだ」


 張りつめた空気の中で、それでもお構いなしにマーロンは言う。恩人であるセレーネ。彼女の命を救うため、竜の逆鱗がどうしても必要なのだ。


「―――ダメじゃ」

「どうしてだ?くれるなら、俺ができる事をなんでもしてやる」


 どうしても逆鱗が欲しくて食い下がるマーロン。


「………痛いんじゃ」

「え?」


 ボソッと呟いたフランマであったが、マーロンには聞こえず聞き返してしまう。

 そんなマーロンに、フランマの怒りが爆発する。


「痛いんじゃ!!逆鱗に触れられるだけで、物凄い激痛が襲うんじゃ!!」


 大声で(まく)し立てるフランマ。その突然の大声にマーロンは驚いて気圧(けお)される。


「ただでさえ痛いのに、逆鱗を取るなんて、想像するのも恐ろしいわ!!」


 目をカッと見開き、大口を開けてマーロンを威嚇(いかく)するフランマ。どうやら痛いから逆鱗をあげるのは嫌らしい。何とも情けない理由であるが、人間であっても爪を剥いでくれと言われれば、ほとんどの人間は拒否してしまうだろう。それと同じ感じだろうか。


「そうか………けど、どうしても必要なんだよ………」


 マーロンが呟くと、フランメが(あざけ)るような口調で言った。


「どうしても欲しいと言うなら、力づくで奪って見せるがよい。―――まあ、人間風情にできるのなら、な」


 その一言に、マーロンの眉がピクリと動いた。

 先ほどまでの(ゆる)んでいた空気は一気に無くなり、ピリッとした空気が洞穴の中を支配する。


「つまり、力づくであれば奪っていいと。そういう事だな、ワレぇ………?」


 マーロンはフランマを射殺すような眼光で睨みつけた。口角が吊り上がり、不敵な笑みを浮かべるマーロン。


「だったらお望み通り、力づくで奪ってやろうじゃあねえかぁ………!」


 マーロンがそう呟いた瞬間、マーロンの身体が膨張(ぼうちょう)を始めた。

 脊椎(せきつい)が伸び、肩甲骨(けんこうこつ)が広がり、上半身の服は裂けるように破れ落ちる。その下から現れたのは人間の肌ではなく、暗い灰色の毛に(おお)われた獣の姿だった。

 指先が伸び、爪が鋭く尖っていく。マーロンの整った顔は歪み、どんどん顎が伸び、歯は鋭く白い牙へと変わっていく。


「お、お前は、まさか………!」


 フランマがその姿を見て叫んだ。


人狼(ワーウルフ)か!」

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