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28. 代理決闘

 ~ウェスト王国貴族学園 生徒会室~


「生徒会長!どうやら一年が決闘をするらしいです~!」


 生徒会長が1人業務に勤しんでいる生徒会室に、1人の女生徒が飛び込んできた。


 レヴィエ・ヴァレンタイン。ヴァレンタイン大公の娘で、2年生にしてウェスト王国貴族学園の生徒会長にまで上り詰めた優等生だ。

 長い桃色のストレートヘアで、170センチほどの女性にしては高い長身。すらっとした体型の、綺麗な女性である。


「へぇ?誰と誰?」

「バーグ公爵家のリッツと、マストン男爵家のグレイスです!」

「何それ。結果は見えてるじゃない。というか、グレイスさんに従者を雇う余裕なんてあったの?」

「一応従者は用意できているらしいです!」

「へぇ。そうなの。でも、あんまり興味ないわね」


 生徒会長はそう言って、先ほどまでの業務に戻ってしまった。確かリッツの執事には、元王直属軍の副隊長がいた筈だ。老いで引退したが、その後はバーグ公爵家で執事に転職した。どう考えても、男爵程度の従者で敵うはずはない。


「最後まで聞いてください!実はその決闘の方式がかなり特殊なんです!」

「特殊?」

「はい!どうやらグレイス側の代理人は丸腰で、リッツ側の代理人は5人らしいです!」

「そんなのリッツ側が有利過ぎるじゃない!?なんでそんな条件をグレイス側は飲んだの!?」

「それが!グレイス側の代理人から提案された条件らしいんです!」

「はぁ!?」


 興味が無さげだった生徒会長も、それには流石に興味が引かれた。


「ね?興味惹かれたでしょう?」

「ええ。そうね。決闘が代理決闘に変わってから数年。私の代はあまり面白くない決闘ばかりだったから」


 ウェスト王国貴族学園の決闘のルールが変わったのは数年前。当時1年だった1人の男生徒が決闘を乱用し、たったの数か月で学園内を制圧してしまったのだ。決闘の回数は3桁を越え、生徒に死者が何人も出た。

 その反省を生かして、翌年から決闘は代理を立てて行う事となったのだ。


 因みにその男生徒は、後程異世界からの転生者だとわかったらしい。


「興味が出て来たわ。見に行きましょう」

「そう来なくっちゃ!」








 ~闘技場の準備室~


 所変わって闘技場の準備室。そこでマーロンは決闘に供えて準備を進めていた。と言っても柔軟体操くらいで、特に用意するべき作戦もない。ただ5人をぶちのめすだけ。それだけである。


「マーロン。ほんとに大丈夫?」

「グレイス様。大丈夫です。信じてください」

「でも。5対1なんて………」


 グレイスとのこんなやり取りが既に10回くらい続いている。


「本当にごめんなさい。私の所為で」

「謝る必要はありません。私が勝ってリッツ様を黙らせるんですから」

「本当に?」

「ええ。なのでグレイス様は、私が勝った後に笑顔を見せてくだされば、それで充分でございます」


 マーロンはそう言って、グレイスを説得する。


「わかった。信じる」


 グレイスがそう言った途端、準備室のドアがばたんと開けられた。


「時間だ!」

「はい」


 どうやら決闘の準備が整ったようだ。


「では。行って参ります」

「うん。頑張って」


 そうグレイスと一言だけ言葉を交わすと、マーロンは準備室を出て行った。






「レディース&ジェントルメ~ン!!」


 闘技場の真ん中に立つ上級生の審判が、闘技場の客に向かって今回の決闘のルールの説明を始めた。

 マーロンと決闘相手の5人の執事は、そんな審判の説明を闘技場のど真ん中で聞く。


 闘技場の観客席には大量の生徒たちが押し寄せて来ていた。ほとんど全校生徒がいるんじゃないかと錯覚するかのような、大量の生徒がこの決闘を見に来ている。

 ウェスト王国貴族学園にはほとんど娯楽が無い。基本は寮暮らしであるし、毎日のようにびっしりと授業が詰まっている。

 そんな忙しい生徒たちにとって、この決闘というものは数少ない娯楽の1つなのだ。だからこそこうして、沢山の生徒が見に来ているのだ。


 観客席のど真ん中には、セレーネとヘレンがマーロンを応援しに来ている。ヘレンは心配そうにしているが、セレーネは単純にマーロンが戦っている姿を見たいというワクワクが滲み出ていた。マーロンが負けるなど、(つゆ)ほども思っていない様子だ。


 関係者席に座るのはグレイスとリッツ。今回の決闘の対戦相手である。

 審判がそんな関係者席の2人に問いかける。


「リッツ氏が勝った場合はグレイス氏は学園を退学する。グレイス氏が勝った場合は、リッツ氏がセレーネ氏とヘレン氏に謝罪し、二度と三人に近寄らない。これで間違いはありませんか!?」

「それでいい」

「間違ってない」


 審判が決闘の条件を確認すると、両者ともそれに同意する。これでこの決闘の同意が得られた形である。


 ぼーっと審判の言葉を聞いていたマーロンに、突如初老の執事が話しかけてきた。


「モルゴだ」


 おそらく彼の名前だ。年齢は50代ほどで、筋骨隆々。おそらくリッツの執事の中で唯一の要注意人物だろう。


「マーロン」

「知ってる。今すぐに棄権(きけん)しろ」

「なんで?」

「我々はリッツ様より、お前を事故に見せかけて殺せと命令されている」

「だろうな」


 決闘はあくまで決闘だ。殺すのは禁止されている。だが、それが事故であった場合は仕方ないで済まされることが多いのだ。

 そしてリッツはそれを逆手に取り、マーロンの排除を試みようとしている。リッツから殺害の命令を受けていることなど織り込み済みだ。


「わかってて何故受ける?それも不利な条件で?」

「あんたら勘違いしてるな。この状況は自分が望んだものでもあるんだよ」

「は?」

「どうやら自分の性分ってのは、死んでも治りはしないらしい」

「?」


 マーロンはふつふつと沸き上がる狂犬の血を、なんとか自身の中で抑え込む。異世界に転生したとしても、マーロンの内にある戦いへの渇望(かつぼう)は健在なのだ。


「棄権するつもりは無いという事か。だったら、死んでも我々を恨むなよ?」

「当然。でも、あんたらは俺を恨んで構わないぞ」

「チッ………生意気なガキだ」


 リッツの執事たちとそんなことを話していると、どうやら審判による説明が終わったようだ。

 もうすぐ決闘が始まる。


「では両者とも。位置についてください」


 マーロンはそう言われ、所定の位置につく。リッツの執事たちとは20メートルほど離れた場所で、拳を前に突き出して体制を整える。


 リッツの執事たちも陣形を整える。前衛が3人に、後衛が2人。前衛3人でマーロンを足止めしつつ、後衛2人で仕留めるという、無難な陣形である。


 相手は全員帯剣し、盾も持っている。対するマーロンはステゴロだ。どう見ても不利な状況であるというのに、マーロンの表情からは笑みが消えない。寧ろ、今か今かと心躍らせているような始末である。


 両者ともに集中し、審判の開始の合図を待つ。


 今から始まろうという決闘を前に、観客席も静まり返った。


 そして――――――


「代理決闘!開始ィ!!」


 審判から開始の合図が発せられた瞬間、マーロンが動く。

 全力で床を蹴り、一瞬にして離れていた距離を縮める。


 目標は前衛3人の内、右にいる一番若い執事。リッツがグレイスに絡んできたときに、ガンつけてきた若い執事だ。


 マーロンは多対一の戦闘を得意としている。

 前世で狂犬として恐れられていた関係上、集団で襲われたり、鉄砲玉として敵陣につっこんだりする経験が多かったからだ。


 多対一の戦闘の鉄則は、まず何といっても、弱い奴から戦闘不能にし、相手の頭数を減らすことだ。


「ふっ!」


 マーロンは一瞬にして若い執事と距離を詰め、左拳で顔面にジャブを繰り出す。

 若い執事が応戦するために剣を振ろうとするも、既に懐に入られており、剣を振る前にジャブが命中してしまう。


「ぐっ!」


 鼻頭に拳が刺さった若い執事は、痛みで一瞬怯んでしまう。その隙がマーロン相手だと命取りになる。


 マーロンは剣を持っている若い執事の右手を上に蹴り上げ、相手の剣を蹴り飛ばす。手から解放された剣は上空にくるくると飛ばされ、残ったのは丸腰の若い執事。


 マーロンはすぐに若い執事の後ろにするりと回り込み、彼の懐からナイフを奪い取る。高級そうな綺麗なナイフだ。

 その後すぐにマーロンは後ろから執事を羽交い絞めにし、奪ったナイフを執事の横腹に突き刺した。


「ぐあっ!!」


 痛そうに(うめ)く若い執事。だが、まだマーロンは彼を解放するつもりは無い。

 そのままナイフを腹から引き抜き、今度は首筋に突きつけた。


「おっと動くな?動けばこいつの命はないぞ?」


 マーロンのその言葉で、応援に行こうとしていた残り2人の前衛と、魔法の詠唱をしていた2人の後衛が動きを止めた。


「貴様!人質だと!?」


 彼らの前に突きつけられたのは、ナイフを首筋にあてられた若い執事の姿だ。

 これでは前衛は動けないし、魔法もその執事に当たってしまうため使えない。これで戦況は硬直状態に(おちい)る。


 多対一で重要な鉄則はまだある。それが、敵の身体を盾にすることだ。

 敵の仲間を盾にすれば、どんな敵であっても多少は怯む。特に飛び道具を持つ相手には効果は絶大で、強力な武器である飛び道具の使用を制限できるのだ。

 やっていることは外道だが、ただでさえ不利な戦闘だ。利用できるものはとことん利用するべきだ。


 仲間を人質に取られ、一瞬だけ制止した執事たち。マーロンが欲していたのはこの一瞬だ。


 マーロンは突如、制止した執事たちの内、後衛の1人にナイフを投げつける。

 ナイフは一直線に飛んで行き、完全に不意を突かれた後衛の執事の肩に深々と突き刺さる。


「ぐぅ!!」


 痛みで(ひざまず)く執事。


 マーロンはその後すぐに、後ろから羽交い絞めにしていた若い執事を解放し、後ろから背中を蹴りつける。狙いは前衛の執事。彼に向かって若い執事を蹴り飛ばした。


「おわっ!」


 マーロンによって蹴り飛ばされた若い執事は、蹴られた勢いで前につんのめってバランスを崩した。

 蹴り飛ばされた勢いのまま、狙い定めた前衛の1人と衝突し、2人は一緒に倒れ込む。


 後衛の1人にはナイフが突き刺さり、前衛2人は一緒に倒れ込んでいる。

 今立ち上がっている者は2人だ。


 その後、待ち構えていたかのように、先ほど上に蹴り飛ばしていた剣が、マーロンの頭上から落ちてくる。

 マーロンはその剣を掴み取り、前衛にいた初老の執事モルゴに向けて投げ飛ばした。


「くっ!」


 モルゴは投げられた剣を何とか自らの盾で防ぐ。

 人質は解放されて、相手は丸腰だ。今こそ反撃の時だと、モルゴがマーロンの方を見ると、彼は少し目を離した隙に姿を消していた。


「どこにいった!?」


 モルゴがそう思った瞬間、彼の後ろから叫び声が聞こえてきた。


「ぐああああああああ!!!!」


 振り返ったそこにあったのは、今まさにマーロンによって両手両足をあらぬ方向にひん曲げられた、仲間の執事の姿であった。

 後衛の執事の内、最後に残っていた彼がマーロンによってやられたのだ。


「き、貴様ァ!!」


 あの様子ではもう彼は戦えない。立ち上がることすら困難であろう。

 残る執事は4人。陣形も何もぐちゃぐちゃにされ、うち2人は既に負傷している。

 対してマーロンは未だ無傷のままである。


 リッツの執事たちの目の前で不敵に笑うマーロン。

 その顔には心の底から、殺し合いを楽しむ狂犬の笑顔が張り付いていた。

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