25. お節介な御令嬢方
セレーネたちがグレイスの制服を隠していた犯人に注意してから1週間程度。
その日から剣技の授業があってもグレイスの制服が行方不明になることは無くなった。どうやら注意されたミリンとその友人たちは嫌がらせをやめたようだ。
「セレーネ。良かったですわね」
「そうですねヘレン」
相変わらず仲の良さそうなセレーネとヘレン。いつの間にかお互いに呼び捨てになるほど仲が良くなっている。
このまま平和な学園生活が続けばいいのだが、現実はそうはいかない。
ある日の事。
それもまた、剣技の授業の後のことであった。
次の授業はまたしても経済学。その教室の中に、何故かグレイスの姿が無かったのだ。
今まで一度も休まず皆勤賞であったグレイス。そんな彼女が初めて無断で授業を欠席しているのだ。
「どうしたんでしょうグレイス様………」
「心配ですわね………」
その後の授業もグレイスは欠席していて、結局放課後までに、一度も教室にグレイスは顔を出すことは無かった。
放課後になり、帰り支度を整えて教室をでるセレーネとヘレンたち。そんな彼女たちと、一日気になっていたグレイスがすれ違う。
すれ違ったグレイスは顔を下に向け、地面にキョロキョロと視線を彷徨わせながら歩いていた。まるで落とし物を探している、そんな様子であった。
いつもと様子が違うグレイスを見て取ったセレーネとヘレンは、互いに目を見合わせて頷き合う。
そして、2人はすれ違ったグレイスに向かって振り返り、セレーネがグレイスに話し掛けた。
「グレイス様。どうなさったんですか?何か探し物をしているようですけど………」
セレーネに話し掛けられたグレイスが振り返る。その顔には焦燥が浮かんでいて、あしらうかのようにセレーネに言葉を返す。
「別に。何でもない」
「何でもないことは無いと思いますが………授業にも出ていらっしゃらなかったようですし」
「何でもないって言ってるでしょ。構わないで」
面倒くさそうに返すグレイス。やはりかなりツンツンしている。
そんな刺々しい様子のグレイスを観察していたセレーネが、とある違和感に気付いた。
いつもグレイスが首から下げているペンダント。それが今、彼女の首元に無いのだ。剣技の授業にすら付けていき、大切な物だと言っていたペンダントである。
「もしかして、いつも付けているペンダントを失くしてしまったんですか?」
「!?」
セレーネの言葉が正解だと言わんばかりに、グレイスの身体がビクリと反応した。
「―――あなた達には関係ない」
だが、それでも頑なに何も話そうとしないグレイス。そんなグレイスに対してでも、セレーネのいつもの優しさは変わらない。グレイスはお節介だと思うかもしれないが、セレーネはグレイスの事を放って置けないようだ。
「探すの手伝います。まだ探していない所はありますか?」
「えっ!?」
グレイスの刺々しい反応など気にしていないような素振りでそう尋ねてくるセレーネに、グレイスは一瞬放心してしまう。
「セレーネ。私も手伝いますわ」
「ありがとうヘレン」
そう言って彼女たちは、一緒に学校の廊下の床をキョロキョロと探し始めた。
「ま、待って!そんなの頼んでない!」
「グレイスはクラスメイトです。頼んでなくても、困っていれば手伝いますよ」
「え?………」
セレーネからのそんな言葉に、グレイスは驚愕で目を見開いた。
「本気で言ってるの?」
「はい。本気ですよ?」
「今まであんなに酷い態度取ってたのに?」
「別に気にしてませんよ」
グレイスの問い掛けにも、何でもないような様子で返すセレーネ。セレーネにとってはこれが普通なのだ。
「―――わかった。もう何も言わない」
グレイスの顔は相変わらずの冷たい表情であるが、少しだけ表情筋が和らいだ気がする。
「校舎の中はほとんど探したけど、外はまだほとんど手を付けられてない」
「了解です。外ですね!」
「確かに外には修練場や運動場があって広いですからね。わかりましたわ!」
そう言って校舎の外に向かって行ったグレイスを追うように、セレーネたちも校舎の外に向かう。
「マーロン。ヒルダ。手伝ってくれる?」
「セバス。手伝ってもらえるかしら?」
「「はい。もちろんでございます」」
セレーネとヘレンにそう問われた従者たちも、喜んで彼女たちの後を追うのであった。
校舎の外でグレイスのペンダントを探すこと2時間程度。ようやくグレイスのペンダントが見つかった。
見つかった場所は馬術の授業用に学園が飼っている馬の小屋中。その中にある、馬へのエサ用に積まれた藁の中に、そのペンダントはあった。
マーロンの人狼としての嗅覚をフル活用し、時間はかかったがこの場所を見つけ出したのだ。
当然、グレイスは馬小屋などに来ていない。自然に落としてこんな場所にあるわけがない。
つまり、誰かしらが意図的にこの場所にペンダントを隠したのだ。
ペンダントが戻ってきたグレイスは、そのペンダントを大切そうに抱き締める。その表情はいつもの氷のような無表情とは違い、喜びと、少しの悲哀が混ざっていた。
「―――セレーネ。ヘレン。ありがとう」
グレイスがぽつりとそう呟いた。見ると少しだけ頬に朱が差している。
「いえいえ。無事に見つかってよかったです」
「そうですわ。だって、大切な物のようでしたので」
セレーネとヘレンが笑顔で答える。
「うん、そう。―――両親の形見」
ボソッと答えたグレイスの言葉に、セレーネとヘレンの表情が引き締まる。
グレイスの両親は確か、火事で亡くなったと聞いている。
「そうだったんですね………」
「なおさら、見つかってよかったですわ」
「うん。ありがとう」
2時間も一緒に探し物をしたからか、少しだけ心を開いたように見えるグレイス。セレーネたちと話している時だけ、少しだけ表情が和らいで見えるのだ。
「でも、どうしてこんな所にペンダントが………」
「またミリン様たちに、意図的に隠されていたとか………?」
セレーネとヘレンの会話を聞き、グレイスが怪訝な表情を浮かべる。
「待って。どういう事?」
「えっ?………あっ!」
グレイスに問われたヘレンは、途中で自身の失言に気付く。
「どうして私がミリンたちに嫌がらせを受けていた事知ってるの?」
「えっと、それは………」
何も悪いことはしていない筈のセレーネとヘレンだが、無表情のグレイスに詰められると何だか悪いことをしたような気分になる。
「もしかして、制服の件もセレーネとヘレンが?」
そこでグレイスが、自身の制服が隠されていた件もセレーネたちが解決してくれたことに気付く。ミリンたちに突然謝られた裏には、セレーネとヘレンの存在があったのだ。
「えーっと………はい、そうです………」
セレーネもヘレンもその事はグレイスに話すつもりは無かったのだろう。だが、隠れて手助けしていたことがバレてしまっため、セレーネたちは少しバツが悪い表情だ。
「―――そっか。2回も助けてくれてたんだ」
グレイスはそう呟くと、セレーネたちに向かって頭を下げた。
「2人ともありがとう」
「い、いえ!」
「当然の事をしたまでですわ!顔を上げてください!」
深く頭を下げるグレイス。それほど感謝しているという事なのであろう。
「どうして言ってくれなかったの?」
「お節介かもと思いましたので」
「あっ………そうだよね………」
今までのグレイスの態度の悪さを見れば、グレイスに黙っておくのも頷ける。
「その………今までの事、ごめんなさい。酷い態度取ってたよね?」
「いえ、いいんです。あなたの事情も考えずに話し掛けていただけなので」
グレイスがまたしても、セレーネたちに深く頭を下げた。そんなグレイスの謝罪を、セレーネが受け入れる。
しかし、ヘレンはその謝罪をすぐには受け入れなかった。
「私は許しません」
「えっ!?」
その言葉にセレーネが驚く。セレーネはてっきり、ヘレンもすぐに受け入れると思っていたのだ。
「どうすれば許してくれる?なんでもする」
グレイスが頭を上げ、ヘレンに問う。セレーネとヘレンには世話になったのだ。受けた恩は返す。この国の貴族の鉄則だ。
「では、1つお願いがあります」
ヘレンが言った。何かグレイスにして欲しいことがあるのだろうか。
グレイスもセレーネも、次のヘレンの言葉を待つ。
だが、次にヘレンが放った言葉は、想像の斜め上のお願いであった。
「私とセレーネ、2人の友人になって欲しいですわ!」
「――――――え?」
ヘレンが放った予想外のお願いに、グレイスは驚きで口をポカンと開けた。
「いいですね!私も賛成です!グレイス様にはぜひ、私たちのお友達になってもらいましょう!」
「でしょう?実はずっと思ってたんですわ!お友達になりたいって」
ヘレンの言葉にすぐに同意を示すセレーネ。そんなセレーネとヘレンの様子を、ポカンと口を開いたまま見つめるグレイス。
「―――そんな事でいいの?」
「「はい!!」」
グレイスが本当にそんな事でいいのか恐る恐る尋ねるが、、セレーネとヘレンから返ってきた言葉は元気な肯定の返事であった。
「―――わかった。じゃあ、友達になる」
「やった~~!!」
「やりましたわ~~!!」
グレイスの返事に喜ぶセレーネとヘレン。
「これからよろしくお願いしますね!グレイス!」
「よろしくお願いしますわ!グレイス!」
セレーネとヘレンはそう言って、グレイスの手を取って握手をした。
「は、はい。よろしく。セレーネ。ヘレン」
戸惑いながらも、グレイスは握られた手を握り返しのであった。




