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21. 王都到着

 ウェスト王国。この世界、イストウェストに存在する2つの大国の内、西にある大国である。

 その大国のど真ん中に位置するウェスト王国の首都、王都ウェストルテ。そこにセレーネが入学予定のウェスト王国貴族学園がある。

 ウェスト王国に住む貴族に、紳士として、淑女(しゅくじょ)として、必要な知識や技術を学ぶための学園だ。基本的な学問はもちろんの事、貴族としての振る舞いやマナーなど、様々な事を学ぶことができる。また、隣国のイスト帝国と戦争になった時の為に、剣術や魔法などの戦闘技術や、軍事戦略なども教わる。

 いわば、遺族になるために必要なものを詰め込むための学校、という事である。







 馬車に揺られ続け、色々な街を経由すること2週間。遂にセレーネ、ヒルダ、マーロンの3人は王都に到着した。


「着きました~!!」


 馬車から降り、大きく伸びをするセレーネ。

 目の前には巨大な城門がドンと鎮座(ちんざ)している。その開閉だけで数十人の力が必要だろう程、重く強固そうな城門である。この城門が、多くの外敵を幾度ともなく阻んできたのであろう。それがわかるほど、城門には様々な傷がついている。


「コラ!セレーネお嬢様!はしたないですよ!」

「えへへ。ごめんなさい」


 そう言って「てへっ」と舌を出すセレーネ。普段はしゃんとしているように見えて、たまに顔を出すこういう子供らしいところも、彼女の魅力の一つだろう。


「さぁ、行きましょう!マーロンにヒルダ!」


 そう言ってセレーネはマーロンとヒルダの手を取り、引っ張るように城門の先へと歩き始めた。


「ちょ!お嬢!?」

「行きましょう!久しぶりの王都、楽しみです!」


 セレーネは子供のような無邪気(むじゃき)さで、王都の中に入って行く。マーロンの心も不思議とわくわくしてくる。


「はぁ………全く、世話が焼けますね………」


 そう言ってヒルダは、まるで我が子を見守る母のような表情で、2人に付いて行く。







 セレーネたちはウェスト王国貴族学園の寮に向かうべく、王都ウェストルテの街を歩く。荷物は既に寮に送っていて身軽なので、王都の様子を見ながら徒歩で寮に向かう。


 王都の街は賑わっていて、特にセレーネたちが歩く大通りは、沢山の人が行き来していた。流石王都というだけの事はある。身なりのいい貴族だけでなく、庶民であろう人も沢山いる。

 人だけでなく露店や商店も大量だ。客をより多く招くべく、今もたくさんの露店や客引きが、行きかう人々に声を掛けている。

 総じて栄えている街、という印象を抱くマーロンである。


 そんな大通りを観察しながら歩くセレーネたちに、2人の男女が話しかけてきた。


「長旅ご苦労さんです。セレーネ様。マーロンさん。ヒルダさん」


 2人の男女の内、女性の方の言葉だ。

 2人とも帽子を深く被り、眼鏡や装飾品で顔の輪郭(りんかく)をわかり辛くしている。おそらく正体を隠しているのだろうが、鋭い人狼の嗅覚でマーロンには正体がバレている。


「アンナ、フィリップ。どうしてここに?」


 話しかけてきたのは変装した栗原組の2代目ボスと幹部であるアンナとフィリップであった。


「アンとフィリーです。変装中ですので」

「おっと、悪い」

「少しお話しませんか?色々と話しておきたいこともございますので」


 アンナはそう言って、1つの喫茶店を指差した。


「―――どうします、お嬢?」

「いいですよ。お腹も空きましたし。それに()()()()()()()話があるみたいですし、断ったら可哀想です」


 何故か「私のマーロン」という言葉を強調するセレーネ。確かに自分の命はセレーネの物なので間違ってはいないが、やはりアンナ相手だと少し言い方に棘が出てくるセレーネだ。


「チッ………」


 そんなセレーネの言葉に舌打ちをするアンナ。やっぱりこの2人はまだまだ相性が悪いようだ。


 場所を移して喫茶店内。一つのテーブルに向かい合って座るセレーネたち。

 値段はお安く庶民的な店であるにも関わらず、店内は綺麗に清掃されており、所々におしゃれな『観葉植物』が置かれている。

 またそれぞれの客のテーブルには、店員からサービスとして渡された人数分の白い布が置かれている。白い布はしっとりと水分を含んでいて、肌触りは柔らかく、温められているからか触ればほかほかと温かい。いわゆる『おしぼり』というものだ。


 店内にある観葉植物に、支給されたおしぼり。この2つでマーロンは、この店が栗原組の影響下にある店だと察する。


「『おしぼり』か。王都の店からも『みかじめ料』取ってるんだな」

「やはり気付かれましたか」

「当たり前だ。俺が教えたんだから」


 マーロンとアンナが会話をしているが、その話の内容がわからないのか、セレーネとヒルダが頭に?を浮かべている。確かにこの世界にはなじみのない文化である。


「この店は組の縄張りって事です。お嬢。ヒルダさん」

「縄張り?」

「はい。このお店は組によって守られているんです」


 マーロンがみかじめ料の説明を始める。


「まず店側が『みかじめ料』と呼ばれる高額の金を組織に支払います。すると、そのお店で何らかのトラブルが起きた時に、組織の人間がそのトラブルを解決してくれるんです。時には金、時には暴力で」

「用心棒、みたいなものでしょうか?」

「はい。それに近いです。そして、その『みかじめ料』というのは、この店に置いてある観葉植物代やおしぼり代の名目で支払われるんです。直接反社に用心棒代を払っているとなると外聞が悪いですからね」


 組織に観葉植物代やおしぼり代などの名目で、法外な金額がお店から支払われる。そうすることでその店は組織の庇護(ひご)下に入り、質の悪い客への圧力になり、有事の際には組織から守ってもらえる。それがみかじめ料だ。

 現代の日本ではほとんど廃れてしまった文化ではあるが、この世界は治安が悪く、衛兵などの警察にあたる組織も機能していない。自らで自らを守る力の無い店が行きつくのが、反社組織であるという事なのだろう。


「なるほど。そういう事だったのですね」

「裏社会にも色々と知らないことがあるんですね………」


 ヒルダとセレーネが暖かいおしぼりで手を拭きながら、店内の観葉植物を眺める。観葉植物は綺麗に手入れされており、お店の雰囲気とマッチしておしゃれだ。


「なんで王都からもみかじめを?」

「実は半年前から組は王都に進出してるんです」

「ビレストからいきなり王都に?遠くないか?」

「セレーネ様が王都の学園に通うとのことでしたので、()()()()サポートしに来たのです」


 突如アンナの言葉が刺々しくなる。『わざわざ』なんて言葉、わざわざつける必要は無いはずだが。


「別に頼んでませんけど?」

「それほどの過保護が必要な存在だって事をご自覚ください。御令嬢?」

「―――くっ!」


 セレーネが唇を噛んで悔しがる。どうやら今回はアンナの勝利のようだ。


「王都では暴れまわっている闇ギルドが多く、ドラッグも蔓延(まんえん)してます。マーロンさんはドラッグがお嫌いでしたよね?」

「ああ。嫌いだ」

「ですよね。なので王都にいらっしゃる前に掃除しておこうかと思ったのですが、そう上手くはいかぬものです」

「なるほど。俺のためでもあるのか」

「余計なお世話でしたらすみません。ですが、セレーネ様の執事業務に専念したいかと思いまして」

「いや。気を使ってもらって助かるよ」


 栗原組の目的としては、どうやら王都に住む予定のセレーネとマーロンの為に、王都の治安を少しでも良くしようとしてくれたらしい。だが、半年という短い間ではそう上手くはいっていないようである。


 マーロンはドラッグが嫌いだ。

 確かにドラッグは少ない労力で大量の金を稼げる。費用対効果の高いビジネスの一つである。

 だがその分、シマの治安はすこぶる悪くなる。ドラッグを売れば売るほど人でなしで溢れるし、警察からのマークも強くなる。警察はドラッグと聞くと目の色を変えて追って来る。余所が売ったドラッグの所為で何度マル暴に捕まりかけたか、数えきれないほどであるのだ。


 それに、マーロンも前世にドラッグを試してみたことがあるのだが、体質的に合わなかったのか、そう普段と変わりが無かったのだ。今はマーロンという別の肉体になっているため変わっているかもしれないが、マーロンは他にもっと快感を得られる方法を知っている。

 喧嘩。殺し合い。これこそセックスより、ドラッグより、最も快楽を得られる行為なのだ。高い金を払ってドラッグに手を出す者の気が知れないというのが正直なところである。


 そう言った理由でドラッグが嫌いなので、王都でドラッグが蔓延しているとなると、マーロンがセレーネの執事としての業務に集中できないかもしれない。そんな懸念を栗原組は持っていたのだろう。それで事前に少しでも、減らそうとしてくれていたのだ。

 まあ本音としてはドラッグ程度に気を取られるほど、マーロンにとってセレーネの専属執事という仕事は軽くない。周りの人間が全てドラッグをやっていようと、マーロンにとっては関係ないと今は断言できる。


「ビレストの街でドラッグの話を聞かないと思ったら、そう言う理由があったのですね」

「はい。先代は大のドラッグ嫌いですから」


 ヒルダの言葉に応えながらマーロンをちらりと見る。今もちゃんとあなたの教えを守っていますよと、言外にそう伝えているのだ。ほんと、マーロンに負けず劣らず、忠誠心の高い元部下たちである。

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