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異世界に転生した狂犬は、公爵令嬢の執事に転職するようです  作者: あべしろ
第一章 公爵令嬢の執事に転職しました
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15. フクロウは泣き喚く

 ~暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)本部~


 暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)。以前まではビレストの街を牛耳っていたが、栗原組との抗争に敗れ、街の端まで追いやられた闇ギルドである。


 もうかつての栄華(えいが)微塵(みじん)も残っておらず、その勢力は全盛期の1/3まで減ってしまった。

 今では構成員たちが生きていけるやっと程しか稼ぎはなく、盗みと詐欺と昔からの伝手(つて)で何とかやっていけている。そんな惨めな闇ギルドである。


「レミからはまだ連絡が無いのか?」

「はい、ボス。一体何をちんたらとしているのか」


 ボスと呼ばれた男性が、組織の女性の報告を聞いて「チッ」と舌打ちを漏らす。彼の名はジャスト。暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)のボスである。

 この街ビレストに住む伯爵であるレドシラ伯爵夫妻から、ビレッジ公爵家の娘セレーネの暗殺依頼を請け負ってから約1ヶ月半。未だにレミからセレーネの暗殺が完了したという報告は来ていない。


「まさか一回目の時のように、暗殺に失敗したのではなかろうな?」

「わざわざ『デススコーピオンの毒』まで持たせたのに、失敗はあり得ませんよ」

「まあ、そうだよな」


 一回目の失敗、『コカトリス』の毒による暗殺が偶然手に入った竜の逆鱗によって失敗したことを反省し、二回目には即効性の毒である『デススコーピオン』の毒を持たせたのだ。一滴で何百万もするほどの毒で、レドシラ夫妻から大量の前金を貰っていなければ用意できなかった程の代物だ。失敗などあり得ないのだ。


「この暗殺こそが我々暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)にとっての運命の分かれ道なんだ。失敗したらただじゃすまさんぞ」

「失敗してたらもう殺されてますよ」

「ふっ。それもそうだな」


 そんな会話を続ける彼らの元に、暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)の構成員の1人が飛び込んできた。


「報告です!またしても差出人不明の届け物が………」

「クソ!いったい何なんだよ!毎日毎日!!」


 ジャストが部下の報告に悪態(あくたい)を突く。

 彼がこのように怒っているのには理由があるのだ。


 今日から4日前。暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)の本部宛てに差出人不明の荷物が届いたのだ。何らかの罠を警戒し、慎重に届け物の中身を確認した暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)は、中に入っていた届け物に驚く。


「!?」


 そこに入っていたのは、人間の右腕であった。


 その右腕の切断面から見える血はまだ乾ききっておらず、鮮度を保ったままであった。おそらく、まだ生きている人間の右腕を生きたまま切断して、暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)宛てに届けたのだ。


 それからというもの、差出人不明の荷物が毎日届くようになった。2日目は左腕。3日目は右足。4日目は左足。

 まるで嫌がらせのように人間の四肢が暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)宛てに送られてくるのだ。


「四肢はもう終わったぞ。次に送られてきたのは何かな」


 毎日送られ続けて今日が5日目。もう慣れたのか、ジャストが何の緊張感も無しに届いた荷物を開けた。


「なっ!?!?」


 その瞬間、ジャストと暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)の構成員たちは、一斉に腰を抜かした。届けられた荷物を投げ捨て、箱の中から出てきた何かが地面を転がる。


「あ、あれは………」


 箱の中から転がり出て来た物は、人間の生首であった。


「ひ、ひぃ!」


 コロンと転がった生首は、腰を抜かしたジャストの方を向いた。尻もちを付いたボスの視線と、生首の視線が交わる。

 ジャストはその生首の人物を知っていた。


「レ、レミ………!」


 セレーネ暗殺の為にビレッジ公爵邸に送り込んだはずのレミの生首が、今ここに転がっているのだ。


 レミが殺された。そして、そのレミの死体が暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)の本部まで送られてきた。

 これが意味するのは――――――


「ビレッジ公爵にバレた!!」


 暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)がセレーネを暗殺しようとしている事がビレッジ公爵にバレてしまったのだ。

 暗殺の犯人を知ったビレッジ公爵は、犯人はわかっているぞと、レミの死体を毎日送ることでメッセージを送っていたのだ。


「まずいまずいまずい………相手は公爵だ………今の暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)じゃ相手にもならない………」


 レミは殺された。それも、生きたまま四肢を切断されるという残虐(ざんぎゃく)な方法で。どう考えても、ビレッジ公爵は怒り狂っている。今から詫びても手遅れだろう。


「ボ、ボス!レドシラ夫妻を頼るのはどうでしょう!?」

「ダメだ!レドシラ伯爵家程度じゃ焼け石に水だ!落ちぶれた暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)に依頼を持ってくるような奴らだぞ!?」

「で、ですが、他に何か手は………!?」


 そう問われしばらく考えるジャスト。絶体絶命のピンチ。組織を存続させるためには、手段は選んでいられない。


「―――決めた」


 しばしの思考の後、ジャストは決意する。


「クリハラグミを頼ろう」

「なっ!?」


 ジャストの予想外の一言に、組織の構成員は驚く。


「クリハラグミをですか!?」

「ああ。この際、恥など捨てて、あいつらを頼ろう」

「で、ですが、元々敵対していた組織ですよ!?我々を助けてなどくれないでしょう!?」

「仕方あるまい!それに、落ちぶれた我々に傘下に入るよう提案してくれたし、我々をまだ潰さないでいてくれている。情はある組織だ」

「確かに、言われてみれば………」

「クリハラグミの傘下に入ってでも、生き残りの道を探すべきだ」


 ジャストの必死の説得で、構成員たちも(うなす)き始めた。どうやら納得してくれたようだ。


「よし!そうと決まれば速攻で動くぞ!まずはクリハラグミに渡りを付けろ!」

「了解です!」








 ~栗原組本部~


「それで、今日はどんなお話を持って来てくれたんですか?ジャストさん」

「ああ。火急の話だ。すぐに時間を取ってくれて助かるよアンナさん」


 暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)のボスであるジャストと、栗原組の2代目であるアンナが向かい合う。かつて敵対していた組織のボス同士だ。


「もしかして、ビレッジ公爵家とのいざこざの話ですか」

「!?」


 いきなり核心を突くようなアンナの一言に、ジャストは動揺を隠せなかった。


「あらあら。図星のようですね」

「あんたら、何故知って………!」

「当然です。この街の裏を牛耳っているのは我々ですよ?それくらいは既に調査済みですよ。セレーネ様を狙っていることも、その報復で暗殺者の死体が送られてきたことも、全てです」


 ジャストはアンナのその言葉に戦慄(せんりつ)を覚えた。セレーネ暗殺の件も、レミの死体の件も、一切外部に漏らしていないつもりであった。なのに栗原組は、既に把握しているというのだ。


「―――流石の情報網だな。なら、俺たちの状況もわかっているんだろう?」

「ええ。ビレッジ公爵家に下手に手を出してしまい、彼らを完全に敵に回した。引き潰されるのも時間の問題。そういう状況ですね」

「悔しいがその通りだ。だから、俺たちをどうか助けてくれないか?」


 恥も外聞もなく、敵対関係にあった栗原組に頭を下げるジャスト。


「もちろん、タダで、なんて事は言いませんよね?」

「ああ!あんたら、俺たちを傘下に加えたがっていただろう!?俺たち暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)がクリハラグミの傘下に入る!それでどうだ!?」

「ほう。それは魅力的な提案です。我々栗原組は新興(しんこう)の組織ですので、経験が圧倒的に不足しています。それを補える経験豊富なあなた方が手に入るなら、一考の余地はあるかもしれませんね」

「だ、だろう!?」


 確かな手応えをジャストは感じる。栗原組というのは10代の若者だけで組織された闇ギルドだ。今までは豊富な武力で何とかやっていけていたが、経験不足なのは否めない。1代目であった栗原がボスを退いてからは、特にそれが顕著(けんちょ)である。


「魅力的な提案であるのですが、1つだけ懸念があります」

「なんだ?」

暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)の取引相手ですよ。あなた方を傘下に迎える以上、その取引相手との関係も構築せねばなりません。ですが、その中に我々栗原組にとって、都合の悪い取引相手がいるかもしれませんので」

「確かにそうだな………」


 例えば同業者であったり、今栗原組が抱えている顧客との競合が取引相手にいた場合、面倒なことになるのだ。そこは清算してからでしか受け入れられない。


暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)の過去の取引に関する帳簿(ちょうぼ)を持ってきなさい。それを精査してから、あなた方を傘下に向えるか検討しましょう」

「………!」


 ジャストは渋い顔を浮かべた。

 暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)の帳簿には、過去の取引相手の情報が全て乗っている。どこの誰と、どのような取引をしたか。そんな重要機密が帳簿にはあるのだ。

 それを栗原組に渡してしまっていいのかと思い悩むジャスト。帳簿を渡してしまうと、暁闇の梟(ぎょうあんのふくろう)の取引相手の情報を全て、栗原組に売り払う事になるのだ。


 だが、(しばら)く考えて決意する。優先すべきは組織の存続だ。ここは取引相手を売ってでも、生き残りを図るべきだ。


「―――わかった。今すぐ取りに向かわせよう」

「そうですか。それは良かった」


 目の前のアンナは、不敵に口角を吊り上げた。

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