14. 引き続き密会
引き続き続く、ビレッジ公爵と栗原組の密会。
「それで、依頼料はいくらだ?」
「えっ?」
ビレッジ公爵からのそんな問い掛けに、アンナとフィリップが驚きの声を上げた。まるで考えてもいなかった。そんな様子である。
「め、滅相もありません。栗原さんの主人からお金を頂戴するなどあり得ません!」
そして、アンナがそんな事を宣う。
「う~む………しかし、流石にタダというわけにはいかんだろう?我々としてはありがたいが、君たちの力を借りるわけだし」
「我々としては、タダで何の問題もありません!」
アンナが狼狽えながらマーロンの顔を伺う。おそらくマーロンの顔を立てて、依頼料は不要だと言っているのだろう。だが、それではビレッジ公爵側からの筋が通らない。通すべき筋は通すべきだ。
「『タダより高いものはない』という言葉があります。タダで利益を享受すると、後で無理な要求を飲まざるを得なくなり、かえって高い利子が付く、という意味の言葉です」
マーロンがビレッジ公爵、アンナたち、どちらにも伝える様に話す。
「特に栗原組は闇ギルドです。後から何を要求されるか、依頼主のこちら側からはわかった物じゃあありません」
「栗原さん!我々はそんな事しません!」
「今そうであっても、今後そうならない保証はないし、こちら側からはわからない」
「そうですが………」
もちろんマーロンはアンナやフィリップの事を信頼しているし、ビレッジ公爵たちが不利益を被るようなことはしないという事はわかっている。だが、アンナやフィリップが居なくなった後はわからない。その後の保証まで、彼らに求めるのは酷だというものだ。
それに、タダでお願いすれば、栗原組をタダ働きさせることにもなる。彼らのボスであったマーロンとしては、そのような事はさせたくないのだ。部下には充分金を稼がせる。それが極道としてのマーロンのプライドの1つだ。
「ここは対等な取引であるべきです。こちら側の弱みを、闇ギルドに握られるわけには行けません」
マーロンはビレッジ公爵にそう説いた。
「―――フレデリックはどう思う?」
「僭越ながら、マーロンの言う通りかと。取引自体は対等に行うべきかと存じます」
「そうか。わかった」
ビレッジ公爵はフレデリックの見解も確認すると、アンナたちに向き直った。
「そういうことだ。すまないが、タダというわけにはいかん。こちら側からも、正当な金額を支払わせてくれ」
「―――わかりました」
アンナとフィリップが渋々頷いた。彼らの好意はありがたいが、マーロンとしても、栗原組の仲間たちをタダ働きさせるわけにはいかないのだ。
「フィリップ。今回の依頼の見積もりを出してくれる?」
「はい。少々お待ちを」
そう言ってフィリップが目を瞑って上を向いた。正当な報酬の額を計算しているのだ。
「そうですね。1000万ゴールドくらいが、妥当な額かと」
「ほう。かなり高額だな」
想定していた額より高かったのか、ビレッジ公爵が呟く。
ゴールドとは、この世界の金の単位だ。奇跡的に円と価値が近く、おおよそ1円が1ゴールドだと考えて良い。つまり1000万ゴールドは、1000万円という事である。
「旦那様、妥当な額かと思います」
「本当か?」
「はい。この額の中には暁闇の梟への依頼主の調査料はもちろんの事、死体の処理や暁闇の梟自体の処理の費用も含まれまれているはずです。妥当な額です」
「ほう」
その言葉に興味深そうなビレッジ公爵。
「暁闇の梟の事も、処理してくれるのかね?」
「はい。その予定です」
「そうか。だったら安いくらいだな。その値段で問題ない」
フィリップの返答を聞き、ビレッジ公爵は納得したかのように頷いた。どうやらこの額での取引には前向きなようだ。
「しかし、暁闇の梟の処理に1000万程度とは。決して小さな闇ギルドではないはずだが?」
「我々栗原組にとっては、その程度の存在だという事です」
「ほほう。それはそれは。栗原組とは随分と怖い組織だな」
「そんな組織を利用しようという公爵様の方が、我々としては恐怖の対象ですよ」
「言うではないか!」
そう言ってビレッジ公爵とアンナが笑い合う。彼らは意外と、今後もうまくやっていけそうな予感がする。
「支払いはどうする?」
「フロント企業であるフィリップ商会を経由しましょう。そうすれば足は付きません」
「なるほど。承知した」
表向きは普通の商会であるフィリップ商会。そこを経由することで、依頼主と栗原組との金の流れを隠蔽するのだ。
もちろんフィリップ商会から栗原組へも、直接金が流れるわけではない。フィリップ商会から別の商会へ、そしてまたしても別の商会へ。そうやって様々な団体を経由し、時には国も渡って、足がつかぬように金を移動させる。栗原組へ金が届くころには、足取りを追う事の出来ない、出自不明金になっているというわけである。
「良い取引になった。君たちの人となりも多少は掴めた。今後ともよろしく頼む」
ビレッジ公爵が、『今後とも』という言葉を付けて、右手をアンナに差し出した。どうやら栗原組は、ビレッジ公爵のお眼鏡に叶ったようだ。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします。ビレッジ公爵」
そう言ってアンナがビレッジ公爵の手を握り、きつく握手をした。これからも、この関係は続きそうだ。
「栗原さん。たまには我々の本部にも顔を出してください」
しばらくの雑談を交えた情報交換の後、アンナがマーロンにそんなお願いをしてくる。
「顔を出すったって、公爵家の執事が気軽に闇ギルドに顔を出すなんてできないだろ」
「栗原さんなら、誰にもバレず、尾行られずに来ることはできるでしょう?それに今回のように、密会のような形でも構いません」
「まあ、できるけどさ………」
マーロンは困惑した顔で頭を掻く。
「よいではないか。たまに暇を出してやるから、顔くらいたまに見せてやれ」
「―――いいんですか?」
「ああ。お前には世話になっているしな。―――ただし!絶対にバレない様にな」
「ありがとうございます。では、そうさせてもらいます」
ビレッジ公爵は寛容にも許可を出してくれた。正体がバレない様にという条件付きではあるが、それは人狼であるマーロンにとってはかなり容易である。鋭い嗅覚があるし、聴覚も敏感だ。マーロンを尾行するのは不可能に近いだろう。
「という事だ。まあ、これからもよろしくな、アンナにフィリップ」
「はい!」
「もちろんです!」
そう言って彼らは笑顔を浮かべた。どうやらまだまだ、部下たちとの関係も切れないようだ。




