第壱話 鬼の兄弟
そこは都から遠く遠く離れた辺鄙な場所
人が寄り付くような場所ではない所に存在する里
【アシラの里】
そこには人に良く似た"亜人"が住んでいる。
曰くその亜人は、岩をも砕く大力、地をも抉る脚力、豪放磊落で大酒飲み、そして特徴的なツノが生えてるのだとか...
都の人々はその存在を"鬼"という
これはそんな里に住む鬼の話
杼「はあ...全くやってらんないよ」
杼「こんな辺鄙な里には誰も近寄らないし、そもそも人も来ないのに何で訓練なんかしないといけないのさ...」
っと晴れ晴れした青空に愚痴を溢す
するとザッザッザッ...っと遠くの方からこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
???「兄さん...またサボりかい?」
???「まったくこれじゃあこの里を守る鬼守人にはなれないよ」
杼「ん?あぁ鴇か...別になりたくてなるわけじゃないさ...」
杼「生まれつきツノが2本あるからって無理矢理に鬼守人にならないと行けないだけだし...」
杼「修行だからってあの和尚、俺の背中に大岩三つのせて腕立て伏せさせるんだぜ、逃げ出したくもなるだろうよ」
鴇「そ、それはそうだね...」
鴇(それを実行してやる兄さんも兄さんだけど...)
鴇「まあ、でもあの和尚さんも意地悪したくてやらせてるわけじゃないさ」
鴇「実際、この里で兄さんに勝てる奴はいないでしょ?」
杼「まあ...な、だが俺には力しかねぇさ、お前みたいに優れた頭があるわけでもないし」
杼「逆に力しか取り柄絵のない俺が領主になったらと考えると...」
杼「その面に関したらこの2本のツノに感謝だな」
鴇「あはは!そうだね、兄さんが領主になったらこの里は大変なことになるかもね!」
鴇「まあ任せてよ!僕がちゃんとこの里を守るから」
杼「お前なぁ...」
鴇「あ...でも僕一人じゃ里を守る自信ないかも」
杼「あんな威勢よく言ってなに怖気づいてんだよ」
鴇「だから、兄さんも一緒に守ってよ、その力で僕たちを、この里を」
杼「ははっ!.......そうだな」
鴇「じゃあこんなとこでサボってる訳にもいかないね」
杼「...!お前その為にここに!!」
鴇「和尚様カンカンに怒ってるから早く行きなよ!このままじゃ和尚さんの24時間説教コースだよ?」
杼「あの説教受けるくらいなら修行する方が100倍マシだ!!」
杼「鴇!!覚えてろよ!!今日の事は絶対に忘れんからなー!!」
そう言いながら杼は目にも止まらぬ速さで寺に向かった
鴇「流石兄さん、あの速さなら2分もかからないかな」
鴇「さて僕も戻って里の今後の方針について模索するかー!!」
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ダダダダダダ!!!!
杼「和尚様!!ただいま戻りましたーー!!!」
和尚「はあ...やっと戻ったか...まったく」
和尚「まあお主のサボりは一度や二度ではないからな」
和尚「ささ戻ったのなら修行の続きをするぞ」
杼「はい!精一杯頑張ります!!」
杼(あれ?もしかして対して怒ってないか?こいつはついてる)
和尚「はあ...」
杼「して...今日の修行はなにを?」
和尚「今日はこれだ」
そういうと和尚は一本の長い棒を持ち杼に向けた
和尚「棒術だ...棒術はいかなる武器術の基礎」
和尚「今日は棒術の一連の流れを叩き込んでやる」
杼「えー!ほんとにですか!?」
和尚「なんだ?不満でもあるのか?」
杼「そりゃあ...我らが鬼族といえば金棒でしょう!」
和尚「いいたことはわかるがな、だがお前には必要のない武器術だ」
杼「必要ないって、金棒を持つ膂力もあるしこれまでに何回も金棒で式神と戦う父様も見てきましたよ?」
和尚「そうだな、だからこそだ」
和尚「お主、頭は多少弱いが、戦いに関する技術を学ぶ時は元の才能なのかはわからんが、覚えが早い」
和尚「幼い時からお主の父の金棒の戦いを幾度となく見ているのならば、わしから教えることは何もない」
和尚「ましてやお主の父はこの里でも金棒扱う所においては一流だ」
杼「父様が...里で一番...」
杼「なるほど...そういうことでしたか」
杼「ですがなぜ棒術を?」
和尚「言ったであろう、棒術は武器術の基礎だと」
和尚「基礎を盤石にすれば、剣術、槍術を学ぶ時に役に立つ」
和尚「故に棒術だ..............あとわしの得意分野だから...ボソッ」
杼「ん?和尚様、今なんと?」
和尚「いやいや何でもない、ささ棒を構えよ!」
ぞわッ
杼(!?...和尚様が棒を構えた瞬間とんでもない殺気が...........やっぱサボったこと超怒ってる!!)
杼(とほほ...今日は生きて家に帰れるだろうか...)
杼もなくなく棒をとり構える
杼「...お手柔らかに」
和尚「ははは!何を言うか!手加減するほどわしは甘くないぞ!」
和尚「では...行くぞ!!」
すると和尚は一気に踏み込み棒を顔にめがけて突き出してきた
杼(!!あっぶね!!だけどこれくらいなら目で追える!)
杼は咄嗟に突き出された棒を横に回避する
和尚「甘い!!」
そういうと和尚は突き出した棒を次は胴体めがけて薙ぎ払おう形で棒を振った
一撃目を回避した杼だったが二撃目を避けるには間に合わなかった
杼「...ぐふぅっ!!!」
和尚「わしが言ったことを忘れたか!敵の攻撃を避けるときは最小限の動きで避けろ!!」
和尚「そんな大振りな回避、敵に攻撃して下さいと言っているようなものだぞ!」
杼(そんなこと言ったって...って!)
そんなことを思ってると同時に和尚が続けて攻撃してくる
杼(次の攻撃は連撃か!?ならば!)
グン!っと和尚から攻撃される前に棒を連続で突き出し杼から攻める!
だが和尚はそれを見越して棒と華麗な体さばきで連続で突き出された棒の間をぬって
杼のみぞに棒を突き出す!
杼(これいなしながら突っ込んでくるとか化け物かよ!)
杼(だが...!!)
杼めがけて突き出された棒と同時に紙一重で避け、棒を振り払いカウンターを入れる!
杼(この距離からの反撃ならば!!)
だが和尚めがけて振り払った棒は空を切る
空を切った棒が一気に重くなる
棒の先端には和尚が立っており棒が重くなったことによって杼の重心が崩れ
顔に一撃をもらった
杼「いったぁ!!」
和尚「今の攻防は中々によかったぞ」
和尚「わしからの連撃を食い止めるために先に攻撃したのも良い判断だ」
和尚「だが最後の反撃、反撃自体は悪くなかったが、あれで仕留めた!と思ったのがよくなかったな」
和尚「最後の最後で気を抜いたのがお主の敗因じゃな」
杼「だからってあの距離からの反撃を飛び跳ねて棒に乗るのとか、人間業じゃないですよ...」
和尚「まあ人間じゃなく、わしも鬼だからな」
和尚「さあほらまだまだ稽古は始まったばっかりだぞ?」
杼「ここまで来たらとことん技術を盗んでいってやりますよ!」
同時刻ーーーーーーー
鴇「父上、人里まで下りた同胞からは何か報告はありましたか?」
梟雄「うむ、人里に降りたものからの報告だが、どうやら陰陽道の者どもが人里にいたらしい」
鴇「はあ...またですか...まあ幾度とここに来ようと巫女様が張った結界によってたどり着くことはないでしょうが...」
梟雄「ふむ、だが今回人里にきている陰陽の者どもの中に階級の高い者が複数いたらしい。」
梟雄「もしかしたらこの結界に気づくかもしれん、もしもの時の為に備えておいても問題はないだろう。」
鴇「そうでしたか、では里の者にも...」
梟雄「あぁ...それと近頃、北の森の方で物の怪を見たものがいる。」
梟雄「物の怪自体はそこまで強くないようだが、いささか不可解でな。」
鴇「不可解とは?」
梟雄「ふむ...里の者の情報では物の怪特有の凶暴さがなかったとか」
梟雄「普通、物の怪ならば手当たり次第に動物を食い漁り、その土地をダメにするんだが、どうやらそういう節が見られなかったらしい」
梟雄「近々、杼を向かわせる。」
梟雄「なんたって鬼守人だからな、今のうち経験を積ませて、俺が長から退いた後なんの不安もなく過ごしたいしな」
鴇「ふふっ...御冗談を」
ーーーーー数日後ーーーーー
杼「あああ!!めんどくせぇー!!」
杼「今日は稽古が休みだから遊ぼうとおもってたのに...」
杼「まぁ...父様から頼まれたからやるけどさぁ...」
杼「人里の方には陰陽の者がいたそうだし、落ち着かないなぁ」
杼「はぁ...愚痴言ってないでとっとと終わらせるか」
そういうと杼は目を閉じ感覚を研ぎ澄ませる
生まれ持った才能、妖力を使わずに、においや音だけで周りの地形や生き物を把握することができる
杼(確かに情報どおり動物が襲われてるわけでもないな)
杼(ここら一体で妖力を持ってるやつは...)
杼「!!!」
その瞬間、頭に激痛が走った
杼「ぐあぁっ!!」
杼「なんだ...!?確かに今一瞬だけ捕捉出来たが...」
杼(確かに妖力は大したことはないが、見えた瞬間、あっちもこっちを見ていてぞ!?)
杼(しかもあの方向は歴代当主の墓地の方向...)
杼(まさかあいつ...!!!妖力じゃなく魂力のほうを!?だが一介の物の怪が何故!?)
魂力と妖力の違い、それは生物としての格、妖力はその生物が持つ純粋な力。
妖力を使えば、念力のように物を浮かせたり、結界を張ったりなどといったことができる
だが魂力は妖力のような力ではない、魂の格を上げるのに必要な力
杼(知性の低い物の怪が何故、魂力を狙う!?)
杼(しかも何故今なんだ!?魂力を吸収するだけなら、いつだってできたはず!)
杼(おそらく誰か来るのを待ってたのか?)
杼(...くそっ、奴の策略に嵌るようで嫌だが、歴代当主の魂力を吸収されちゃどうなるかわからん!)
杼(相手は謎の物の怪...生憎、俺は鬼守人だ、そうそう負けることもない....)
杼「なら答えは一つだな」
杼「...まってろよ」
杼「今、退治してやるからよ」
一方で里の方では
タッタッタッタッタ
静かな屋敷に忙しない足音が響く
バンッ!!
勢いよく扉が開く
使用人「当主様!!!」
梟雄「どうした、騒がしいぞ」
使用人「はぁ...はぁ...里の結界が...破られました!!!」
梟雄「なんだと!?」
使用人「巫女様からたった今、結界が破られたと!」
梟雄「今の今まで破られたことのなかった結界が....陰陽の者たちも本気で里を潰す気だな...!」
梟雄(杼がいない中大きな戦力になるのは、守備隊と和尚様、それと私か...)
梟雄「里の男たちを広場に招集しろ!!女子供、巫女様は屋敷の中に避難!」
梟雄「巫女様には屋敷に"吽経の結界"を張ってもらうように言ってくれ!」
使用人「畏まりました!」
梟雄「私も準備ができ次第に里の広場に向かう!」
初めて執筆したから優しい目で見ろ