詰み
大臣の命令に従い数人の男たちはこちらに向かってくる。
「装備的にはSPで合ってるのかな?」
「・・・」
男たちから答えは無かった。
「まぁ今更だな。西園寺さんと氷川さんまで面倒は見切れないので巻き込まれないように自衛してくださいね」
西園寺さんと氷川さんは俺の後ろの方に回る。
まぁ危害を加えられるとは思っていないが思わぬ事故は起こり得る。
向かってきた内の一人のさすまたをかわし懐に入り込み一撃を加える。
男は衝撃で後ろに吹き飛び壁に当たり動かなくなった。
「レベル20以上あるなら大丈夫だよな?」
あまりの飛びっぷりに心配になったがピクピクと動いているようだったので安心した。
その光景に驚き固まっていた大臣含め男たちだったが。
「何をしている!そいつのレベルは5しかないんだぞ!」
その言葉に反応し止まっていた男たちが向かってくる。
「へぇ、よくレベルをご存知でしたね」
「この部屋は入る時にレベルを測定できるようになっていてね。調べさせてもらったよ」
「そうですか、用心深いことですね」
男たちの攻撃をかわしながら話を続ける。
「ええい!何を遊んでいるさっさと捕らえろ!」
遊んでいるのではなく動きについてこれていないということに大臣は気付いていないようだ。
カメラ越しの映像では動きがもたついて見えるだけなんだろう
そして突っ込んできた男にカウンターで拳を叩き込む。
吹き飛んだ男は先程の奴と同じように壁に激突した。
続けて突っ込んできた男の頭を抑えつけ床に叩きつけた。
「本当にレベル5なのか…?」
やっとおかしいことに気付いたようだが残りの男は3人になっていた。
「この人たちじゃ力不足ですよ?怪我しないうちに引かせたほうがいいんじゃないですか?」
「そんなはずはない!いくら格闘経験があろうとも、レベル5にレベル20超えが負ける訳がない!」
「本当にレベル5だったらそうでしょうね」
そう言って扉に向かう。
「貴様!逃げるつもりか!」
不用意に近づけない男たちは後ずさっている。
「そんなことしませんよ、ほらこれでわかりますか?」
扉に触れたことで恐らくレベルが向こうに伝わったのだろう驚きの表情を浮かべていた。
「レベル38だと!?探索者になって1ヶ月も経っていない奴がどうして!?」
「さてこれで武力による制圧は無駄だって分かってもらえました?」
「ぐぬ…」
レベル38に対して武力で制圧することは自衛隊のトップ層を連れてくるしかなく。
この場にはそんな戦力は存在しなかった。
「さてここまでしておいてそちらは、この後どうするおつもりで?」
武力が効かないとなれば別の手しかない。
「いいのか、そんな態度でお前たちの仲間の一人、霧崎ミレイの家族は病院に入院しているのだろう?」
「まっまさか!」
「そのまさかだよ!彼女がどうなってもいいのかね?」
「そんな…そんな事までするのか!」
「ああ、国の大事とあっては個人の命など些事だ」
口元を抑え顔を伏せる。
「わかったか、国を敵に回すことがどれだけの事か。しかし私も鬼ではない、要求さえ飲んでくれれば今後は互いに良好な関係を築こうじゃないか」
相手は勝ったと思い込んでいるようですでに先ほどまでの動揺が嘘のようにニヤついていた。
「ふっふふふ」
笑いを抑えることができず笑い声が部屋に響く。
まるで悪役だ。
まあやってることは悪役に近いんだが
「何がおかしい、追い詰められて頭がおかしくなったか」
「何が良好な関係だ。ここまでこじれてそんなものが築ける訳がないだろ!」
「ならば彼女の妹がどうなっても良いと言うのだな!」
「本当におめでたい頭だな、笑いをこらえる方が大変だったぞ」
「何を言っている!?」
「病院に本当に彼女はいるのか?」
「そんなことか、先程病院に確認して、いることは確認済みだ!」
「もう一度確認してみれば良い。本当にいるかどうか」
その言葉に不安を覚えたのかモニターをそのままで電話で確認する金森。
「おい、そこにまだ妹はいるよな!」
「はい、先程、霧崎ミレイが出ていってから誰も出入りはしておりません」
その報告にこちらにどうだと言わんばかりに話かける。
「ふんっ!なんだ慌てさせおって!いるではないか!」
「ちゃんと確認した方がいいぞ」
その言葉に不安に駆られ指示を出す。
「病室の中を確認しろ!」
「はっ!」
部下は病室の中に入り確認する。
しかしそこにはベッドで寝ているはずの彼女はいなかった。
「病室には誰もいません!」
その報告が金森へと届けられた。
「どういうことだ!説明しろ!」
「私にも何がなんだか…」
「くそっ!!!」
電話を乱暴に切る、金森。
「いったい、何をした!妹は病気で意識もなかったはず!どうやって移動した!?」
「さて?そんなことを説明する義理はないのですよ。さてこの落とし前はどうつけてくれるんですか?」
大臣の頭ではどうすればいいのかわからず苦虫を噛み潰したような表情で顔を真っ赤にしていた。
(ここまでくると後はあっちの取れる手は2つしかないはずだが…)
「くそっ!いいのかそんな態度でまだこちらには如月日和がいるんだぞ!」
まぁそうなるよなと思い返答する。
「だから、それに関しては無理なら無理で良いと話したじゃないか。そうですね・・・ここまでこじれてしまったので・・・この状況でこちらが通したい要求は、一つだけありますよ。あるダンジョンの占有権です」
その言葉に、その場にいた一人を除いて全員が息を飲んだ。
ダンジョンは国の資源。それを一個人に占有させるなどあってはならないことだった。
国内のダンジョンは活気に差はあれど正常に運営されており国益となっている。
それを一つでも渡すことはできない。
「そんな要求は無理だとわかっているだろう!」
声を荒げ否定される。
まぁ当然の反応なのだが、一つだけ例外のダンジョンがある。
日本所属のダンジョンでありながら別の国と共同で所有しているダンジョンが存在しているのだ。
まぁそんな決定権は彼にはなく、すでに彼の手に負える範囲は超えてしまっていた。
「だったら最初から要求を飲んでおけばこんなことにはならなかったんですよ、自業自得です」
「ぐぬぬぬぬ」
悔しさのあまりか声にならないような唸り声だけが響く。
「良いだろう、そんなに彼女の事が不要だというなら彼女を処刑する」
実際に見せてしまえば折れると思っているな。
「そんな事をしても無駄だってわからないかなぁ…」
「無駄だというなら問題ないだろう。そこで彼女が死ぬところを見ていればいい!」
そういってモニターに映し出された映像には彼女は映っていなかった。
「なぜだ!やつはどこにいった!!」
レベル20といっても完全に拘束された状態から抜け出すのは不可能。
逃げられるはずはなかった。
しかし、映像には彼女は映っていなかった。
「なぜだ!いったいどこに!」
「諦めたほうが良いと思いますけどまだやります?」
状況がつかめないまま追い詰められていく金森。
「こうなったらお前たち全員を犯罪者として全国に指名手配してやる!そうなれば日本でも生活できず海外に渡ることもできない!どうだ!嫌だったら要求を飲め」
もうここまで来るときっと何も思いつかなかったのだろう。
そんな事をされた所で俺達を捕まえられる人間は国内にはほとんどいない。指名手配されていようが海外は快く受け入れてくれるだろう、それほどまでに俺達の価値は高まっていた。
まぁでも、実際に指名手配されるのは面倒も多いので次の手を打つことにした。
「はぁ…じゃあここからはある人物と話してもらいますかね」
「は!?いったいなにを言って…」
部屋に入ってきたのは、アメリカのトップ探索者の一人モーガン・ジョーンズだった。




