謀略
更新日時を間違えてしまったのですが1日2話更新は維持します。
その後、話し合いの場を設定されたのは午後を回った後だった。
思っていたよりも早かったが準備はすでに調っていた。
使ったことのない部屋を指定された。かなり上の階で入るのに色々と手続きが必要だった。
扉を開けて入る時に少し違和感を感じたが開けてすぐに氷川さんが駆け寄ってきた。
「遠征帰りなのに大丈夫だったのかい?」
「問題ないですよ、なんなら少しダンジョンで汗を流して来ました」
会議室にいたのは二人だけだが、話し合いに参加するのは二人ではなかった。
会議室に設置されたモニターにはもう一人の人物が映っていた。
「やぁ始めまして、私はこの国のダンジョン大臣の金森泰造かなもりたいぞうという者だ、見たことはあるかな?」
「そうですね、確か新たに新設された大臣に就任した。とニュースで拝見した気がしますね」
「それは結構だ。あまりメディアへの露出は多くないものでね、知っていてくれて幸いだ」
「それで、今日はその偉い大臣様がなんの御用で?」
「なに、君達には多大な迷惑をかけてしまったからね。謝罪と今後の話をしようと思ってね」
「なるほど」
その後、形式的な謝罪を受け、条件を提示された。
国から提示された条件は、以下の通り。
・国が用意した拠点と土地を提供する
・DDDより受け取ったスクロール10個のうち5個を提供する
・日和を奴隷扱いで引き渡す、その代わりにアイテム鑑定石並びに手に入れたそれに準じる石を日本にのみ販売する。
概ね聞いていた条件と一緒だった。
この条件でこちらが懸念するべきは、2つ。
まずひとつは拠点の信頼性。
こちらから要求したことではあるのだが、ここまでの日本の対応は、ずさんな点だらけで拠点に関しては何も安心できない。
タワー内に作成されるという西園寺さんの話を聞いていたが、ある問題が解決してしまった俺達にとってはタワー内というのも安全な場所ではなく。
国に管理=国にバレてしまうということを考えると俺達は秘密を抱えすぎてしまった。
ふたつ、日和の扱い。
これに関してはこちらが被る被害が大きすぎて取引としては不平等。
受けてしまえば、今後の行動に大きな制約をかけられることになる。
「ちなみにその条件にはどこまでの強制力があるんです?」
物品の受け渡しに関してが受け渡しで終わりだが今後の販売権となるとそうもいかない、俺達が他に流す事を止める手立てがないのだ。
「その場合は、奴隷としている如月日和の身がどうなるかという話になる」
「所有権はこちらに移すのではないのですか?」
「正確にいえば奴隷としての所有権を共有する形になる、もし何かこちらとの約束が反故にされるようなことがあれば彼女はこちらが処分することになるだろう」
これでこの話を受けることは出来ないことが決定した。
所有権を共有ということは彼女は俺達といても安全になるとは言えずむしろ何かあれば人質になるということだった。
しかもこの感じだと実質スパイとして彼女を受け入れる羽目になる。
俺にこの交渉を持ちかけたのが西園寺さんだということなら正解だな、これは俺の領分だ。
「なるほど、そういうことでしたらこのお話はお断りさせて頂きます」
「何だと!?」
モニターの向こうで慌てふためく大臣がいた。
「お断りしますといったんです、こちらとしてはその話に乗るメリットを感じられない。すべてお断りします」
「すべてとはどういうことだ!拠点もスクロールも不要だというのか!?」
「そうですね、こちらが要求したことではありますが、拠点については解決することが出来ましたので用意頂く必要がなくなりました。スクロールに関してもあの石があれば金を稼げますし、今後、手にいれることは可能かと思いますので」
「彼女の件はどうするのだ!?君が条件として出したのは彼女の引き渡しだったはずだ!」
「そちらに関しても私としては命さえ助かれば目的は達成です、後は奴隷だろうがなんだろうがお好きにしてください」
一切の迷いもなく伝える。
これで終わる可能性も0じゃない、そうなってしまえば日和は諦めることになるのだが・・・。
「じゃあこの話は終わりだな、俺は帰らせてもらう」
「待て!いいのか、この話を断るという事は今後一切国は手を貸さない、そもそもこの国から出られると思っているのか!」
大臣は自分の思い通りにいかなかったことに腹を立てたのか声を荒げこちらを恫喝してくる。
こうなってしまえばこちらのペースだ。
「おっとおかしいな?今回はこちらに関する賠償の話だったはずだがいつからそちらが要求してくる立場に?」
そうこれはあくまでも謝罪の場だ、こちらに関しては謝罪を受ける為にここにいる。
そしてその謝罪を受けないと突っぱねただけの話だ。
「この話は今後、互いに協力する為に必要なことだ。そもそも彼女はこの事を承諾しているのか!なぜこの場にいない!」
「沙月からはすべて俺に委任されています。奴隷だのなんだの人をやりとりする話に彼女を同席なんてさせる訳無いでしょう」
やはり俺だけを呼んだのは西園寺さんの意思、そうなるとこの辺で恐らく…
「まぁまぁ、双方ヒートアップしてるようですが話し合いませんか?双方の納得する形に」
西園寺さんがこの場を取り仕切るように俺と大臣をなだめるように提案する。
「しかし…」
どうも大臣は納得がいかないらしく難色を示すが。
「ここは彼の要望を聞いてからにしませんか?それからでも遅くはないかと」
「わかった…しかし少し待ってくれすぐに戻る」
そういって大臣の映っていたモニターは切れた。
さてこの間にこちらも仕込みを済ませるか。
念話で待機していたカナタに連絡をする。
(恐らくそろそろ動きがあるはずだ)
(任せとけ、こっちもあちらと合流済みだ、いつでもいける)
(了解)
その後10分ほど経ち大臣のモニターが点いた。
「待たせて済まなかったね、では条件の折り合いをつけようではないか」
「そうですね、こちらの要求は2つです」
提示した条件は2つ。
・国外への移動の許可
・日和の奴隷権のこちらへの完全移譲
「この要求が飲まれればそれでいいし飲まれないならそれでも構いませんよ」
「ふざけているのかね!そんな要求飲める訳がないだろう」
「そちらには某国から10個の希少スクロールが渡るのですから損ではないでしょう?国外移動にしたって自由にいく権利を求めているだけで何も亡命する訳ではないのですからそれほど難しいことではないでしょう?」
「君も彼女の重要性は知っているだろう?彼女は今後国防の要となってくる存在だ。他国に渡るのを許可する訳にはいかん」
「そもそも関係者が問題を起こしたからこんなことになったんですからそこは考えて欲しいもんですけどねぇ」
この国に彼女を守る力も隠す力もない。
すでに彼女の力は他国に知られているし一人で行動をさせられなくなっている。
本当に大事だというならそれ相応の対応をしておくべきだったのだ。
「それについては…こちらの落ち度だ、返す言葉もない。しかし、先の要求である如月日和についてはどうなのだ!そもそもの問題を起こしたのは彼女だろう?なぜそこまで彼女に拘る」
「拘ってるつもりはないんですがねぇ、そもそも実行犯だとしても彼女も脅されてやっただけの事でしょう?」
「しかし、彼女の犯したのは国家反逆罪に相当する罪を犯したのだぞ、なぜ犯罪者をそこまで庇う」
「犯罪者…犯罪者ですか、そうですね。私の事も調べ済みだと思うんですけど、俺が犯罪者に対してそこまで悪感情を持つと本気で思ってます?」
その言葉を聞き、口をつぐむ大臣。
「要求が飲めないのならこれで話は終わりで良いですよね?」
「待て、こうなったらこちらも手段を選べない。彼女の事を含め君には退場してもらおう」
「何をいっているんだ。大臣!」
その様子に慌てたように西園寺さんが問いかける。
「そいつを捕らえろ、罪状はそうだな国家反逆罪で構わない」
そういって部屋に武装した数人の男たちが乱入してきた。
今の状況を考えるといい得て正しい罪状に少し口元が緩む。
「彼らは全員レベル20を超えている。探索者になって1ヶ月も経たない君にはどうしようもないレベル差だ。捕らえられるのが嫌なら、諦めて彼女にこちらの要望を飲むように伝えろ!」
勝ちを確信したかのようにこちらを恫喝する。
「うわぁ、考えられる限りで最悪の対応だ…せっかく色々考えてきたのに台無しだよ」
「何を言っているんだ?」
俺が全く狼狽えてないことを疑問に思ったようだ。
「一番短絡的な回答だったから俺好みだったって話だよ」
「だから一体何を言っているんだ!」
「はぁ、とりあえず答えはノーだ、そっちの要求を飲む気は一切ない」
「そうか、だったら君には消えてもらうよ。捕らえろ!」
その答えに怒り心頭だったようで大臣は男たちに命令を下した。




