初討伐
ダンジョンに入ると明らかに温度が下がったように感じた。
それと同時に手持ちのスマホも電波が遮断されたようで圏外表示となっていた。
どういう原理で電波が届かなくなるのかは、未だに解明されてないそうでダンジョンと内と外ではあらゆる影響が遮断されるそうだ。
気温も先程よりも少し低くなったように感じる。
ダンジョンの気温は基本的にその階層で一定であり、変化もないそうだ。
ここ最近の夏の暑さなんかはダンジョンに避暑すればいいかもしれないなんて考えながらも歩く。
奥に進んでいくと段々と道が広くなっていき、天井も高くなり、そうこうしているうちに大きな空洞に出た。
「ここは、この階層で一番大きい空間で東京ドームほどの広さがあります、1階層自体は広さだけなら小さな町ほどの広さがあります」
「ほぇー」
沙月は驚きの声をあげている。
東京ドームほどと言われれば大きく感じるが実は直線距離にするとそれほどの距離はなかったりもする。
しかし、洞窟のようだが少し薄暗い印象はあるものの、しっかり光源は確保されているようで視界が暗くて困るようなことはなかった。
広さ的にはかなり広いがここから肉眼で対面の壁が見える程度には視界が確保されている。
「この明るさはなにか理由があるんですか?」
「明るさに関しては洞窟自体が発光しているということしかわかっていません、壁を削りだし外に持ち出しても発光しないのでダンジョンで機能している発光現象だということです」
その不思議な空間を見回していると
「さてここから先はモンスターが出現します、この階層ではスライムとゴブリンが出現しますが、ゴブリンが出るのは2階層に続く階段付近なので、この辺はスライムしか出現しません。スライムは天井等にも貼り付き、落ちてくることもあるので注意してください」
そう言われ周囲を、特に天井を警戒する。
「ああ、ここは大丈夫ですよ。この空間はセーフエリアになっていますので、モンスターは出現しませんしモンスターが入ることも出来ません。こういったセーフエリアは各階層に設置されています。広い階層だと東京都位の広さの階層もありますので」
そこまで広い階層になると探索するのも大変そうだ・・・
「さて、ではモンスター討伐の実践といきますか」
そう言うと氷川さんは空洞から小さな横穴に入っていく。それに続き進む。
少し進むと氷川さんが止まった。
「これがスライムになります」
その言葉に従って氷川さんの前を見ると、大きなゼリーのようなぷよぷよした物体が動いていた。
「これがスライムですか?なんかちょっとかわいいかも」
沙月さんがそんなことを言っていると
「まぁそれほど危険性はないのですが、倒すのは結構手間で、しかも物理系の攻撃には耐性があってなかなか倒せず、しかも体も少し酸の特性があるので長く触れていると皮膚が爛れます、天井から落ちてきて顔を覆われたりすると、窒息の危険性もありますのでこんな見た目でも油断しないことです」
「ひぃ」
そんなことを聴き、沙月は声をあげスライムから距離をとる。
「まぁ、そこまで警戒せずとも攻撃力はほとんどなく、その警棒で何回か叩けば消滅しますので、注意は大事ですがあまり怖がらなくても大丈夫ですよ、天井から落ちてきた際も慌てず振りほどけば、それほど力もないので特には問題になりません。なのでパニックにならないように気をつけてください」
その説明で沙月は少し安心した様子だった。
「では先に小林さん、スライムを倒して見ましょうか」
そう言われて沙月は警棒を構える。少しためらっていた印象を受けたが、深呼吸して覚悟を決めたのか警棒をスライムに振り下ろした。
恐らく人生のなかで警棒を振った経験などないからか、たどたどしくゆっくり動くスライム相手に外したりもしていたが、何度目かの警棒がスライムに当たった時、スライムは溶けるように消え小さな石が残った。
「はぁはぁ、倒せたんですか?」
そんなに時間はかかっていなかったが緊張による疲れがあったのか、沙月は肩で息をしていた。
「はい、これで討伐完了です」
氷川さんはそういって残った小さな石を拾い沙月に渡した。
「この魔石で100円くらいです、お疲れさまでした」
結構苦労していたようだが小さな魔石をもらい喜んでいた。
「やりました!私、モンスターを倒しましたよ!」
そういってこちらに手をあげて向かってくる。それに応えるようにこちらも手をあげハイタッチする。
「すごいな、もっと躊躇うかと思ったけど」
「ここまできたら躊躇ってる場合じゃないかなと思ったので・・・でもなかなか倒せないし微妙に動くしで大変でした・・・」
確かに結構格闘してた気がする。
「じゃあ次は暁さんの番ですね」
そう言われてさらに奥に向かって歩き、しばらくして氷川さんが止まり前を見るとスライムがいた。
「たくさんいるもんだと思ってたんですけど、あんまりスライムっていないんですか?」
「そうですね、固まっている時もいますけど、見つからない時は1時間位探す羽目になることもありますね・・・」
「それはそれは・・・」
倒しても100円となると相当コスパが悪く感じる。
「まぁ今の時期は実習もほとんどないので比較的すぐ見つかるんですけどね」
「他の探索者の方はスライムは狩らないんですか?」
「そうですね、倒すのも結構大変ですし、倒しても100円ってこともあって探索者の方はスルーしていく人が多いですね」
そんな話をしながら暁は警棒を構える。
さっき見てたのもあってあまり緊張はなかった。
警棒を振りかぶりスライムに当てると一撃でスライムは溶けて消えた。
「えっ一撃!?すごい!」
そう言って沙月に言われ自分の固有スキルの効果を実感した。
沙月の方を向くと手をあげていた。恐らく先ほどと同じくハイタッチを求めているようなので、近付いていきハイタッチした。
「一撃で倒すなんてすごいですね!私の時は何回も叩いたのに」
「固有スキルの効果でスライムには強いんです」
そんなことを話していると氷川さんが魔石を拾いこちらにもってきてくれた。
「固有スキルの効果ということは、もしかして特攻スキルですか?」
「あっはい、そうです。特攻スキルで対象はスライムなので・・・情報が共有されてるもんだと思ってましたけど」
「基本的には固有スキルや魔力値は個人情報なので共有はされないんです。貴方方みたいに特異な場合じゃなければ我々は魔力値等もわかりません。しかしスライムの特攻スキルですか・・・それは」
言いにくそうにしていた氷川さんだったが
「ああ、大丈夫ですよ。日和さんからも聴きましたけどハズレスキルらしいですね」
「あいつは、そんなことを・・・まぁ世間的な評価としてはハズレスキルと呼ばれるスキルです。特に特攻先がスライムとなると・・・」
「大丈夫ですよ、探索者になる気はないのでハズレスキルでも問題ないです」
そんな風に強がってみたが、やはり残念な気持ちは捨てきれなかった。
「そういうことなら・・・これで実習は終わりです戻りましょうか」
その後ダンジョンを出て装備などを返却し、また会議室に案内された。
「さてこれで、ダンジョン実習も終わりましたのでお二人は探索者として活動することも可能です。このあとに小林さんにはお話がありますので、暁さんは少しお持ちください」
そう言って小林さんは氷川さんと一緒に出ていった。
一人になり少し考える時間ができ、先程倒したスライムの魔石を換金した100円を見ていた。