出発
心配事も払拭された為、すっきりとした目覚めを迎える。
ある程度の予想をつけていたつもりだったが西園寺さんの反応をみて確信を持っていた。
少し時間を空けてからにしないと出来レースと思われてしまうことを危惧して返事はドラゴン戦の後にすることにした。
さて、今日からしばらくはドラゴン狩りだ。今までの相手とは違う。
気合いを入れ直し食堂で3人と合流する。
そこからダンジョンに向かう。
いつもの1階層だが今日は、スライムをスルーしてそのまま2階層に向かう。
今回の目的はドラゴンのみの為、可能な限りモンスターはスルーして階層を走り抜ける。
4人とも36という高レベルに加え、最低限の荷物以外はすべてアイテムボックスに入っている。
恐ろしい速さで駆け抜けていく。
「階段周りってモンスターいないんですか?」
「そうね、階段にはモンスターは現れないし入っても来ないわ」
「なるほど、ゴブリン見たかったんですけどちょっと離れてるんですよねぇ残念」
沙月の生命感知のおかげでモンスターをスルーできる為、ほとんど戦闘になることはなかった。
その後、初めてダンジョン内で他のパーティを見かけたが見られても面倒な為、避けてそのまま階層を抜けた。
そうこうしてるうちにあっという間に10階層のボス部屋の前までたどり着いた。
「なんか色々ありましたけどあんまり風景に浸る余裕はなかったですね」
「まぁ10階層まではさっさと抜けないとな、こっから先は広い上に動きにくいフィールドが増える」
「それでもダンジョン内なのに太陽があるのは変な感じですね」
「ここは草原フィールドだからな、ここに抜けてくるまでにも色々あっただろ」
「まぁだから不思議なんですけどね」
「まぁそういうもんだと思うしかないと思いますよ、さてここからは私にまかせてください」
ボス戦はミレイの言葉通り俺達の出番はなかった。
3mもあるサイクロプスはミレイと目があっただけで動かなくなりそこに分身したミレイがひたすら攻撃する。
本当に相性が最悪だということが理解できた。
俺達が手を出す事もなくミレイだけで完封してしまった。
「昔やった時よりも楽すぎて拍子抜けでした」
涼しい顔のミレイをよそにサイクロプスがドロップしたのは小魔石だった。
スライム以外だと初めてのモンスター討伐だったが、特に何をすることもなく終わってしまった。
11階層からもひたすらモンスターを避け進む。
普通ならここまで1日かかるそうだが、まだ半日ほどしか経っていなかった。
そうこうしてるうちに20階層の入口まで辿り着いた。
「今日はこの階層でキャンプにしましょう」
「20階層には行かなくて良いんですか?」
「20階層は人もそれなりにいるのでここの方が都合が良いかと」
確かにコンテナハウスを見られるのは問題になる。
19階層は見渡す限りの荒野のフィールドとなっていて砂埃もひどい為、ほとんどのパーティが駐留しない。
しかも視界もよく無いため少し順路から外れて岩陰に隠れれば人に見つかる事は、ほとんどない。
なによりここのモンスターは地面の中にいるモンスターが多く探索者が近くに寄らないと攻撃してこないという特徴を持っていた。
沙月の生命感知のおかげでスルーしたが奇襲攻撃を受ける為、ここを狩り場にしている探索者自体がとても少ない。
そんなこともあって、今日はここで1泊することになった。
沙月は安全確認した後にコンテナハウスを出す。
購入時に広さは確認したが最後は女性陣で決めてしまった為、中を見るのはこれが初めてだった。
エアコン、キッチンに冷蔵庫とトイレとさらに風呂までついている優れものだ。
これが単品で利用できる、魔石燃料型に驚きを隠せなかった。
「コンテナハウスって狭い印象ありましたけど結構広く感じますね」
「ベッドが壁に収納されてるタイプだからな、まぁ普通に生活するには困らないと思うぞ」
それぞれ入口で砂等を落とし装備を置き中央のテーブルに集まる。
「ってな訳で飯はどうする?交代制にするか?何日もいる予定な訳だし」
「それなら平等にじゃんけんで決めますか、作れない人います?」
特に誰も文句は言わなかったのでじゃんけんで料理当番を決めることになった。
「じゃあ沙月、カナタ、ミレイ、俺の順番で決定で」
「なぁ」
「どうしました?」
「お前たち二人なんかやってないか?」
カナタは俺とミレイに疑いの目を向ける。
「公平にじゃんけんで決めたんですから文句はいいっこ無しですよ」
「そのとおり」
「ふーん」
まぁ何か不満そうだったが諦めたようだ。
「じゃあ先に風呂を頂くぞ」
そういってカナタは風呂に入りにいった。
あまり追及されなくて助かった。
1回目と2回目に俺とミレイが同じ手を出して一回で負けが決まったせいか疑われてしまったようだ。
恐らくミレイも俺と同じく相手の手が見えていたのだろう1回目はカナタに合わせ、2回目はカナタに勝てる手を出した結果だった。
最後は手を隠してじゃんけんをしたおかげで完全に運の勝負になったが…
まぁ一番最初を回避できれば後は何番でもOKだった為、結果オーライである。
料理ができるとはいえどのレベルの料理が出てくるか不安だったのだ。
沙月は何を作ろうかキッチンで悩んでいた。
そんな沙月の様子を見てミレイは声をかける。
「何か手伝いましょうか?」
「そうですね、カレーを作ろうと思うのでお米をお願いしてもいいですか?」
「わかりました」
そうなってしまうと手持ち無沙汰となってしまいスマホにダウンロードしておいたドラゴン戦の情報を見ていることにした。
少ししてカナタが風呂を上がってきた。
「いやぁさっぱりした、ダンジョンの中で風呂に入れるなんて最高だな!」
しかし上がったカナタの姿を見て沙月とミレイが声を上げた。
「ちょっとカナタなんて格好してるんですか!」
「だめですよ!そんな格好は!」
よそ見をしていた俺はその声に反応して顔を向けようとすると
「アキラ、ストップです。それ以上向いたら魔眼を使います」
その声に間一髪顔を向けるのを停止した。
「ええ、別によくないか?いつも風呂上がりはこんな格好だろ?」
「いつもとは違います!アキラもいるんですからちゃんとブラはつけて!下も履いてください!」
「仕方ないなぁ…」
そういって渋々と着替えるカナタだった。
「良くはないですけどもういいですよ」
「じゃあ次は俺が風呂に入るよ」
「おう」
入る時にカナタを見たがタンクトップに下はジャージを履いていた。
先ほどのやりとりでなんとなく出てきた姿を想像してしまうがカナタを見ていたのがバレたのか沙月とミレイからジト目を浴びせられ退散するように風呂場に逃げ込んだ。
脱衣所には洗濯機もあり、洗濯かごのなかには…
脱衣所から少し顔を出し
「カナタ、少しは気遣え」
「どうした?」
カナタはすでにアイスを食べてくつろぎムードである。
「下着はさすがに隠してくれ」
「ああ、そうかわりぃわりぃ」
そのやりとりでミレイは察したのか脱衣所に入りすぐにカナタの下着を回収する。
「カナタ!!」
「はい!」
ミレイに大声で呼ばれビクッとするカナタ。
「下着はネットに入れてと何度も言っているでしょ」
「悪い、忘れてたわ」
反省の色のないカナタがミレイにお説教を食らっている間に俺は風呂に入ることにした。
それほど広い湯船ではないがダンジョン内ということを考えれば充分だった。
汗や汚れを落とし風呂から出る。
カナタは散々怒られたからか足が痺れたようで足を抑えてもがいている。
「あがったぞ、俺のは一応置いてあるが一緒に洗うのが嫌だったら後で自分で洗うから置いといてくれ」
「いえ、一緒に洗ったほうが楽ですし大丈夫ですよ、ただ取り出すのは私達がします」
「おう、頼んだ」
まぁ俺は特に気にしないから問題はないが女性陣は気になるだろう。
その後ミレイが風呂に入り、その後に沙月。
沙月が入ってる間に飯の用意をし明日の打ち合わせをしつつ夕食となった。




