進展
次の日は早くから俺だけ氷川さんに呼ばれる事となった。
昨日の夜に連絡があり、会議室に早朝から呼ばれ今は部屋に3人だった。
「すまないね、こんな早くから…」
氷川さんが謝罪をする。
「いえ、俺だけ呼ぶってことは何か進展があったんですか?」
「そうだね、君には話しておかないと、と思ってね」
西園寺さんが口を開く。
「沙月を呼ばなかったのは話しにくい事があったって理解で良いですか?」
なんとなくではあるが俺だけを呼んだ時点で色々ときな臭い話だろうなと思っていた。
「進捗の話でね、とりあえず某国いや、まぁはっきりいってしまうがDDDの二人の工作員についてはDDDから引き渡し要求が来ている」
「まぁ国に関してはわかっていましたが、やはりそうなるでしょうね」
ダンジョン関係でこんな強引な手を打ってくる国はDDDだけだ。
ダンジョンが出来て政府が混乱中に独立した国がDDDだ、本当の名前はクソ長ったらしい名前なのだがみんなDDDと呼んでいる。
ネットなんかではこの国のことは規制対象で呟くだけでアカウントがBANされたりとかなりヤバイ国だ。
確か1人はそれなりに高レベルな上に貴重なスキル持ちだ、替えの効かない人材である以上処分されてしまうのは困るというのは理解出来る。
「まぁこちらとしても当然、国家間の軋轢を生むような行為をするのは望ましくない為、引き渡しに応じる構えのようだ」
「理解はしますが、正直納得できるものではないですね」
こちらを拉致しようとした者を無罪放免にしようというのだ。正直、納得出来るものではない。
「まぁ当然だろう、なのでこちらとしてはある要求をさせてもらっている」
「要求とは?」
「スクロールだな、魔法スキル5つに魔石技能スキル2つとさらに希少スキルをもう3つ、これは機密で言えないが10個のスクロールを要求してある」
「かなり無茶な要求ですね」
「そうでもないさ、うちの国力に関わる重大な人物を誘拐しようとした代償と思えば安いものさ」
ぶっちゃければこちらは命の危険もあった訳だから工作員を返すというのもおかしな話だ。
そう考えれば、引き渡しするのだから資産をよこせというのはわからない話でもない。
「なるほど…」
「まぁ逆に言えばこの国の外交力ではそれが精一杯だったということだ。申し訳なく思うよ…」
こちらの表情を察してか西園寺さんが謝罪を入れてきた。
まぁ当然危険に会った以上厳正に対処して欲しいとは思ってはいるが、別にあそこの国と戦争がしたい訳じゃない、そこは国で折り合いを付けてくれればと考えていた。
「いえ、正直こちらとしては手に余る案件なのでご尽力頂きありがとうございます」
「スキルについては手に入れたうちの半分…ほんとは全部といきたい所だがそこはまぁ交渉中だ。もう少し待ってほしい」
半分といえば5つだ、しかも要求しているのはほとんどが希少スキルと言われる類のもので時価総額で考えれば相当な額なのは知識がない俺でもわかった。
「そもそも、要求が通るかもわからないのでは?」
「いや、まぁ揉めはするだろうが最終的にあちらが折れるさ。工作員の持ってるスキルが貴重過ぎてな」
沙月からどんなスキルを持っているかは、すでに聞いていたが公表されていない未確認スキルだ、しかも2つも所持していた。
レベルはまだ低かったが魔力値レベルもBかなり希少な人材だったことが伺えた。
レベル一桁程度を拉致するには、充分な戦力だったのだろうが残念ながらというやつだ。
「そこに関してはそちらに任せます、口を出すのも難しい問題なので」
「そして恐らく君が気になってるもう一つの件だ」
DDDの工作員については、思うところはあってもこちらで何かすることはできないと考えていた。
正直問題が大きすぎて下手に手を出すとひどい目に合いそうだと感じていた。
国家バランスなんて言われても知らないというのが正直な所だ。
「日和くんに関してだが君の要求を飲むことは難しいという判断が下った」
「それはなぜですか?」
「罪状としては彼女は事情を考慮したとしても外患誘致罪だ。君の一存で無罪にできるほど甘くはなかった」
まぁこれも予想通りというよりどこまで譲歩されるかが勝負だった。
「まぁそうでしょうね。罪状を考えれば無罪が難しいというのは理解できます。でも…」
「まぁ待て、残念ながら無罪には出来なかった。だが彼女の事情と君の陳情を鑑みて減刑は可能となった。とりあえずは死刑ということにはならない」
正直この辺りが妥当なラインだろう…最大限の要求をしたがまぁ通らないだろうと思っていた。
「君はいまこの国の量刑がどうなっているか知ってる?」
「量刑って言われてもそんなに詳しくないんですけど、死刑か懲役刑、後は罰金刑位じゃないんですか?」
「まぁ他にもあるんだが、大雑把にはその辺りだね」
「なぜその話を?」
「近年というか他の国ではすでに実施されてる刑罰がある」
珍しい刑罰なのだろうか、確かに国によっては変わった刑罰があると聞いたことはあったが。
「奴隷」
近年では聞くことはなくなった言葉に動揺を隠し切れなかった。
「久しくこの国では聞かなくなった言葉ですね…」
「この世界でも奴隷制度はまだあるそうだけど?」
「一部の地域ではまだ根深いとは聞いたことがある程度です」
「探索者に限りこの量刑が適用されることになった」
すでに審議はすんでおり、次の国会で正式に承認されるそうだ。
ちなみにこの制度については全世界で同時に発表され、全世界で実施される。
対外的には実施はされてない扱いだそうだが、すでに海外では実施検証もされているそうだ。
「よくそんな制度許されましたね…」
正直奴隷と聞いて嫌悪感しか抱かないのは、学校で奴隷の扱いについてある程度の学びがあったからだろう。日本でそんな制度が出来るとは信じられなかった。
「よく考えて欲しい、高レベルの探索者が犯罪を起こした場合、処分するのは大変な上に処分してもメリットが無い。ならば強制的に働かせてしまえば良いとなるのは自然じゃないか?」
「理解は出来ますけど…そんなこと許されるんですか?」
「私達の世界には、普通にあった刑罰だからね。拒否感の理由が理解できないのだけど、ちなみにこの制度を提唱したのは私達エルフだ」
「そうですか…それでその奴隷制度がどう関係してくるんですか?」
ここまで聞いたらすでにわかっていた。しかし西園寺の口から聞くまでは理解したくなかった。
「彼女は奴隷落ちとなることが決まった」
「くっ…」
先ほどは命が助かって良かったと安堵したが、もしかしたら死刑よりも重い刑罰かもしれない。
「彼女の人権は剥奪され生殺与奪を含め国の管理となる。つまり彼女は国の所有物になるわけだ」
「何が言いたい?」
語気を強め答える
「察しの良い君の事だから、もうわかってるんじゃないかな?例の石の件も報告を受けているよ」
「鑑定石の話ですよね、それとなんの関係が?」
「まぁそう警戒しないでくれ。産出元については深く聞く気はないけどね。その手の石の売却先をうちだけにしてほしいんだよ」
「独占的に物を卸せってことですか?」
「もちろん、報酬は支払う、国として欲しいのはその手の石の独占購入権という訳だ。もちろん前に話してた転移石もだ」
「なるほど、まぁこちらとしても他の売却先に当てがあるわけではないのでそれほど難しい要求ではないですが」
「いや、君はわからないが沙月くんはこの石の価値を理解していたみたいだよ。価格はおまかせしますと言ってきたからね、例の件も含めてと含みを持たせてね」
思ってた以上に沙月は考えていたようだ、石の価値を見せることでこの交渉を引き出したということになる。
「国としてはアイテム鑑定石だけではなく今後の君たちの生み出す利益を独占出来るというのなら『如月日和』の所有権を売り渡す用意がある」
「奴隷という話からなんとなく予想をしていましたがかなり吹っかけてきましたね」
「悪くない話だと私は思うが?」
そう悪くない話だ。正直、俺達で引き取るというのは考えていたが裏切りのリスクを考えると奴隷という点に関しては良いのかもしれない。しかし、奴隷を持つということにどうしても嫌悪感が拭えない。
俺が返事を渋っていると。
「まぁ君だけで決められる話ではないだろう、相談して決めると良い。しかし、これはあくまでも内々の話だ。外部に漏れた場合はこの話は無かったことになり交渉の権利すら失うと思ってくれ」
どちらにしても承諾するには沙月の許諾が必要不可欠だ。
「ちなみにその奴隷という扱いの強制力はどれくらいあるんですか?」
「うーん。詳しくは言えないがスキルが関与しているとだけ言っておくよ」
これで完全にアウトだった。スキル関係ということは通常の奴隷制度とは違いかなり強い強制力があるということだ。
「わかりました、近日中に返事をさせて頂きます」
「良い返事を期待しているよ。ああ、ちなみに君たち専用の部屋を用意することが決定した。こちらは、近日中に終わるから楽しみにしていてくれ」
最後に聞いた専用の部屋が手に入るという嬉しい話題が素直に喜べない状況に釈然としない表情で部屋をあとにすることになった。




