ダンジョンについて
部屋を後にすると、すでに準備されていたようで係の人に連れられ小さな教室のような部屋に案内される。
中に入ると先ほどまで一緒だった小林さんがいた。
こちらの顔を見ると嬉しそうに笑い
「暁さん!また一緒ですね、実習受けずに帰ってたらどうしようかと思いました」
小林さんの心配も尤もで二人で実習を受けようと約束していた訳では無い。スキルによっては実習を受けずに帰る可能性も充分にあった。
日本では、魔力値があっても探索者になる人間は全体の数%しかいないというのが一般常識だ。
こちらとしても実習で小林さんと会うことは無いだろうなと思っていた。
「小林さんも実習を受けるんだね、ダンジョンに入ることはないと思ってたよ」
「私もそのつもりだったんですけど魔力値が高いと色々と問題があることがわかって・・・あっそれは後で話します」
講師の先生らしき男性がきたみたいで話は中断した。
講師の先生からは一般常識として知られているダンジョンに関する知識と合わせてダンジョン内での注意事項に関してはかなり念入りに教えられた。
基本的にダンジョンの中では警察などの機能が及ばない為、犯罪行為が行われることもある。
監視カメラ等の設置も不可能の為、なかでの犯罪が実証できないのだ。
探索者は入る前に税関並のチェックがあったりするがモンスターと戦う以上は武器の持ち込みが必要になる。その武器が人間に向かうこともある。そう考えれば念入りに行われる意味も分かる。
特に問題になるのはドロップアイテムの扱いである。
ドロップアイテムの種類は多岐にわたり特に物によってはかなり高価な物がある。それを巡ってのトラブルが後を絶たない。
特に高価なドロップである新たにスキルを取得することができるスクロールと言われる物が問題である。これはすべてのモンスターからドロップされると言われているがその確率は非常に低くモンスターを何百匹と狩ってもドロップしないの通常運転である。
そのせいかダンジョンからドロップされる物の中では非常に高価で得られるスキルによっては億単位のお金が動くこともある。
手に入れるのはあくまで運ということで、思わぬドロップからパーティー内でトラブルになることが多い。
ダンジョン内での死亡、怪我等に関しては保険等の対象外となっており、あくまでも自己責任というのが前提となっている。探索者管理団体でもトラブルの仲裁等は行うことはあってもあくまでも探索者同士の自己責任というスタンスである。
なので探索者に求められるモラルに関してはかなり高いものが求められている。日本は比較的マシな方ではあるそうだが、実態はどうなっているかわからないというのが現状らしい。
2人しかいないせいか口酸っぱくクドい位に教えられたこともあって、実習後の確認テストはふたりとも問題なかったようだ。
「それでは二人共このままダンジョン内での説明に移ります、ここからは氷川が案内させて頂きます」
先ほど氷川部長と言われていた男性がやってきた。
「さて、ではダンジョンに入りますので合わせて施設の案内をさせて頂きます」
そういって施設内の案内が始まった。
かなりでかいこのシーカーズタワーであったが、基本的な施設は各所のダンジョンも同じらしく、説明を受け、ついにダンジョン内に入ることになった。
ダンジョンに入るには専用の税関のようなゲートを通る必要があり、そこでCTスキャン等を受け危険物や違法な物を持ち込んでいないかチェックされる。
ちなみにダンジョン産の物品はゲートの内側で預かりとなり、基本的にはダンジョンから武器を含め持ち出すことはできないようになっている。
武器に関してはゲート内に専用のロッカーがあり、預けることができるようになっている。
ドロップの中には危険な物もある為、それを防ぐ目的もある。
ゲートは特に問題なく通ることができ、そのまま更衣室等の施設の案内をされ、貸出用の武器と防具を装備する。しかし、今回は一階層にでるスライムを倒すだけの為、装備は簡単な自転車を乗る時につけるようなプロテクターと警棒であった。
二人で装備をつけるとついにダンジョンに向かうことになった。
ゲートを通ってからも色々な施設があったが、他の利用者もいて物珍しくもないのかあまりこちらを気にしてない様子だった。
「あんまりみなさんこちらを気にしないんですね」
「実習者自体は珍しい物ではないですからね、1月から3月とかは溢れんばかりに人がいますし、この時期の実習者は珍しいといえば珍しいですがいない訳でもないので」
言われてみたら時期外れだから少ないだけで多い時期には大量にいるのだからそれはそうかと納得した。
「でもあんまり探索者になる方っていないって聞きましたけど」
沙月さんも質問する。
「探索者にはならなくても実習自体は受けていく方は結構いるんですよ、ダンジョンに入る機会なんて探索者にならない方だと滅多にありませんので」
そう言われてみれば例え探索者にならなくても受けようって人の気持ちはわかる気もする。
そんな話をしながら歩いていくとダンジョンの入口らしきものが見えてきた。
明らかに周りとは違う大きな扉な上に、かなり頑丈な作りになっている。今はオープンになっているが非常時には閉められるようになっているようだった。
ダンジョンの入口とわかったのは、その先に見える景色が明らかに建物にそぐわない岩肌の洞窟のようになっているのが見えたからである。
「ここから先は電波も繋がりませんのではぐれないようにしてください。中は洞窟になっていますが明るいので心配しないで大丈夫です」
二人で息を飲み緊張しながらも扉をくぐり、ダンジョンへと潜入した。
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誤字脱字については章完結後にまとめて修正する予定なのでお見逃しいただける幸いです。