スキルの解説
ダンジョン実習を受けることになり、日和さんが手元のタブレットで何かを操作している。
「OK!これであと30分位したら案内がくるからそれまで私とおしゃべりしましょう」
そんなことを真正面から急に言われると照れてしまうってもんだ。
「えっあっはい」
「ああ、そんな緊張しないで大丈夫ですよ、なんなら私のが年下なんでそんなかしこまらないで下さい」
ここまで話した感じだとそんなに歳はいってないが年上だと感じていた為そのことに驚いていると
「その感じは年上だと思ってましたね、まぁ臨床や研究ばっかりでその辺のケアがおろそかになっているのはわかってますけど」
そう感じてしまったのは年下というよりは割と社会に疲れ切っているというオーラを感じていたからなのだが当たらずとも遠からずではあったようだ。
「まぁ、おしゃべりといっても何か聞きたいこととかあったら答えますよって感じの質問タイムです。私ばっかり質問しちゃいましたから可能な限り答えますよ。ちなみにプライベートな質問は、もっと好感度あげてから挑戦してください」
冗談交じりに語る日和の言葉に、堅苦しい空気はなく質問するハードルが下がった。
「まぁプライベードに関してはもう少し頑張ってからにします。じゃあ質問なんですけど特攻スキルを持って探索者になった方はいるんですか?」
気になっていたことをぶつけてみる。
「そこを気にするってことは探索者志望?」
「あっいやまぁちょっと興味がある程度ですが」
「そっか、うーん。いると言うか、いたと言うか・・・特攻スキルは割と珍しいスキルでね、世界でもあんまり報告が無いスキルなの。最初の内は効果的には戦闘スキルだから探索者になった人が多かったんだけどねぇ、初めは手探りだったから特攻モンスター以外に対してはダメージが入りにくくなるっていうのに気付かなくてね。でもあからさまに特攻モンスターに関してはダメージが増えるもんだから人気スキルだったんだけど徐々に周りが強くなっていくと顕著にその差がでるようになっていくの」
「例えばドラゴン特攻の場合、特攻スキル持ちであればドラゴンに対して武器でも魔法でもなんでも明らかにダメージが増えるの。およそ普通の人の10倍といっても過言ではないほどにね。これだけ聞くとすごいんだけど逆に他のモンスターに対してはダメージが10分の一になるの」
「10分の一・・・」
思っていた以上の恩恵の代わりに思っていた以上のデメリットに驚いてしまった
「ダンジョンに潜れば強くなると言われているんだけどまぁゲームでいうレベルアップみたいなもんだと思ってもらえばいいと思う、強くなればなった分だけこのスキルが非常に厄介に働いてしまうの」
「それはどうしてです?単純に強くなったのであれば特攻モンスター相手にはさらに強くなりますしそれ以外のモンスターに対してもそれなりにダメージが入るようになるのでは」
「周りとの差がでかすぎるのよね、ドラゴンを一撃で倒せるのにゴブリン一匹に対しては新人探索者ほどのダメージしか出ない。周りが強くなっていけばいくほどこの差が顕著に表れていく。そして最終的にはその探索者の方は引退してしまいました」
「その方はまだマシな部類ですけど特攻相手がゴブリンとかスライムとかの場合はさらにきつくてね、なんせ他の冒険者でもレベルが上がれば1撃で倒せてしまうんですから、そういう人はダメージに対するデバフの影響しか受けられないので最初期の頃は探索者になった方もいましたが最近ではいないですね…」
俺に対しても探索者になるのはおすすめしないと言っているように聞こえる
「そうですか…」
あからさまに声のトーンが下がってしまう先程諦めたはずだがやはりまだ未練はあったようだ。
「まあただ…私は周りの言うことなんか気にせずにチャレンジする人のほうが好みですけどね。それにまだまだ固有スキルに関しては未知の部分が多いのでまだ隠された能力もあるかもしれませんしね」
と付け加えてきた。
そんな言葉に少しやる気を出してしまう辺、乗せられやすい人間かもしれない。
その後も色々と質問させてもらっていると部屋に係りの者が入ってきて呼ばれてしまった。
「色々と教えて頂いてありがとうございました」
「いえ、こちらこそ有意義な時間でした。もし何かありましたらこちらまでご連絡お願いします」
そう言って名刺を渡された。
社交辞令か?とも思ったが年下らしく茶目っ気の笑顔を浮かべ
「再受講者の魔力発現者は定期観察が必要なので1ヶ月経ったらまたこちらにお越しください。その際にはそちらにご連絡を」
事務対応だった。
勘違いしてしまうところだった…。
比較的社交的な方である自覚はあったが、日和に関しては特に話やすかったように感じた。
探索者のメディカルチェック担当ということで日頃から人と接する機会が多いのだろう、まぁそのせいか大分ぶっきらぼうに感じるが必要な事はしっかりこなしている。優秀さを感じた。
そして頭を下げて部屋を後にした。