戦鬼
彼女は最初から戦闘狂だった訳では無い。
最初の探索で失敗し、ひどい目にあった…しかしその失敗と彼女の状況により、彼女は自分の心を守る為に戦闘時は一切の妥協なく相手を殺す為に心を研ぎ澄ましていった。
アキラと沙月は霧崎ミレイという人物の事を調べていた。
そうしてわかったのは普段の様子からは想像できない、戦鬼という異名だった。
彼女のその異名は、槍で遠中近すべてのレンジを一人でカバーするほどの槍捌きと戦闘中の敵を一切の躊躇なく殲滅するその徹底した戦闘スタイルから名付けられていた。
普通はパートナーのカナタの粗暴さに目がいくが、戦闘中は彼女の方が、苛烈だった。
常に笑みを浮かべ敵の急所を的確に突き、魔眼の力で魅了する。
一度でも彼女の戦闘を目撃した人は皆、口々に言う。『鬼』のようだったと。
魔眼発動中は目が赤く光るのもその噂を助長する理由の一つだったようだ。
そんな彼女であれば、戦えばわかる。
説得なんて必要なく力でわからせればきっと分かってもらえると…だからこそこの手段を選んだ。
そんな彼女だからこそ、この組手に入る前に色々と葛藤があったのだろう。
しかし戦闘のスイッチが入った彼女からは躊躇いも迷いも消えていた。
最初の一撃は彼女からだった、縦に構えていた槍が鋭く動き正確にアキラのいた場所を突く。
(あの構えからなんで突きが飛んでくるんだ!?)
そう思わずにはいられなかった。
その攻撃を間一髪の所でかわし間合いを詰める。
彼女はその一撃で完全にスイッチが入ったようで口角がさらに上がる。
間合いを詰めさせないようにバックステップとサイドステップを駆使して突きを連打する。
一撃一撃が速く鋭い、アキラの反射神経と動体視力を持ってかろうじてかわせるレベルだった。
(距離をとったら負ける)
戦闘スタイルが近距離しかないアキラは、距離をとればそれだけ不利になる。
どんなに突きが激しくても後ろに下がる訳にはいかなかった。
壁が近づくが後ろに目でもあるように横に回避する霧崎、その状態でも槍はアキラを捉えていた。
(まじで鬼かよ、なんで回避と攻撃同時にしてくるんだよ!)
対人戦闘経験はアキラが上だと思っていたが霧崎も負けてはいなかった。ダンジョン内で人型のモンスターを相手にしていたからこそである。実戦という面を踏まえればアキラよりも経験は上だった。
(押してるように見えるけど全然押してる気がしねぇ)
アキラが攻め霧崎は後ろに下がっている為、傍目にはアキラが押しているように見えるかもしれないが霧崎にはまだ余裕があり、いつでも反撃ができるように構えていた。
アキラが槍に当たりバランスを崩すようならすぐにでも反撃されることが目に見えていた。
(ジリ貧だな、槍の速度がさらにあがっている…そのうちかわせなくなる)
ここまでかわせていることの方がすごいのだがさすがにこれ以上は限界が近かった。
アキラは近づこうとしてるだけで攻撃は一度も出来ていない。リーチ差はいかんともし難い。
(やるか)
アキラは覚悟を決めてその場で立ち止まる。
バックしていた霧崎は好機と見てすぐに攻めに転じる。しかしその攻めに転じたタイミングに合わせてアキラは前に踏み込む。
突かれた槍の速度に自身のスピードも乗り先ほどの槍のスピードとは比べ物にならない。かわしそこねて脇腹を軽く一撃入ったがお構いなしに霧崎の顔面に向かい拳を突き出す。霧崎は片方の腕でガードしようとするがその拳は引っ込み、霧崎の鳩尾に衝撃が走る。ガードするのに視界を遮ったせいでフェイントに反応ができなかった。
霧崎は腹を抑えるがそのまま警戒して下がろうとするがそんな隙をアキラは与えない。
ダメージを受け動きが鈍くなった霧崎にラッシュを加える。
槍を横に構え拳を防ぐが先程とは違い完全に防戦一方となった。
防ぎきれず数発、顔や腕に攻撃をもらう、腕に痺れが走りさらに無防備になる。
そこにアキラの一撃が迫るがダメージ覚悟で槍を片手で横に薙ぐ。
槍と拳はほぼ同時に当たる。いや、沙月の目からは両方とも当たったように見えた。
しかしそれは直前で止められており互いに硬直していた。
「分かってもらえました?」
「ええ、充分に」
二人は、言葉を交わし、そして・・・
「くっそいてぇ…」
俺は、脇腹を抑え蹲る。
「うぅ・・・」
霧崎も腹を抑え蹲った。
互いにダメージを受け、しばしの休憩となった。




