罪と罰
もうすこし交渉の余地があるかと思ったがまさかここまできっぱりと言われてるとは思っていなかった。
「これは、ただの疑問なんだけど、どうしてそこまで彼女達を?今回は無事だったとは言えかなり危険な目にあったというのに」
今回の作戦は、普通に考えれば危険と言わざるを得ない。しかし、こっちとしては
2重3重と防衛線を貼った上で実行したのでそこまで危険を感じていなかった。
そもそもあちらには分かってはいないと思うがこちらは二人共レベル30、余程の相手が出てくることが無ければ問題ないと考えていた。
見張りのレベルを確認し自分達のレベルには及ばない事を確認してからトイレに向かい、実行犯を誘い出した。トイレの中で実行犯のレベルも確認したうえで問題が無いことをアキラに連絡。
事後処理の為に、霧崎さんを呼び沙月の安全を確保した。日和が絡んで来ることはスキルを見て予想出来ていた為、安全が確保出来る場所に誘い出し制圧した。
こちらとしては特に危険を冒したつもりはなかった。
それよりも霧崎さんがこの件に絡んでいたことのは方が驚きではあった。
まぁ蓋を開けてみればそこまで関わっていなかったのは幸いだったのだが。時間を置いていたら最悪彼女を相手にする羽目になっていたかと思うとそこはゾクッと寒気がした。
「どうしても無理でしょうか?」
沙月が日和の件を再度確認する。
「日和に関しては、接触がかなりの前に行われており、どれだけの情報を流していたかも不明、某国との関係もはっきりしておらず、それに君にナイフを向けて危害を加えようともしている。見過ごすことはできない」
西園寺さんからは、きっぱりと言い放たれてしまった。
「被害者の俺が、許すと言ってもということでしょうか?」
「君が許した所で、行った事象が消える訳では無いでしょう?」
「それは…」
「探索者には力がある、一般人では得られないような力が。その代償として責任が課せられる。それは、あなたも知っているでしょう?」
「最初の講習で習いました…」
「探索者が起こした犯罪は、通常の量刑ではなく探索者としての量刑にかけられます。恐らく今回の事件は下手したらこのまま終身刑、事情を考慮したとしても懲役刑は避けられないでしょう」
貴重な魔力Aという人材を損なわせようとした上に殺人未遂、国への反逆行為としては、充分すぎるほどだ。
そこまで沙月が重要視されているという点を考慮すれば日和への対応も仕方ないとも言える。
今回の件の責任をすべて日和に押し付ける形で決着させるのが国としての判断なのだろう、立場的な事を考えると日和の立場は非常に弱い。
研究者としては優秀なのはわかっているが、探索者として中堅以下。替えの効かない西園寺、氷川部長、霧崎と比べればその立場は、あまりにも弱い。
だからこそ諜報員も捨て駒にしたのだろうが・・・日和の役割はうまく立ち回っても日和の身についてはどうすることも出来ない。
作戦がうまくいったとしても日和には、脱出手段はない。
いや、もしかしたら上手く事が運べば救出される手筈になっていたのかもしれないが・・・。
あの様子から考えるとその可能性もあったか。
「という訳で日和については、諦めてもらえるかしら」
「いえ、諦められません」
日和は今後の活動を行う上で有用なスキルを所持しているそうだ。
それに実行に移した事情を鑑みればそれほどの悪感情は、二人共持ってはいなかった。
強要してきた工作員についてはどうなろうが知ったことではないが。
「そこまで日和に拘る必要を感じないのだけど…どうして?」
「これで日和さんが処分されるのはこちらとしても後味が悪いと言うか・・・」
救いたい気持ちというよりこちら側の感情論によるところが一番の理由だったりもする。
「うーん…君としてはどうなんだ?日和に関しては」
黙って成り行きを見守っていた俺に話を振られた。
「俺としてってことなら顔を殴った負い目ってとこですかね」
俺の答えに西園寺さんは大声で笑う。
「ハハハ…そんなことで、君は彼女を助けたいっていうの?」
「うーん、俗な話をするならどうせ彼女は職を失うでしょうしこちらに引き込みたいっていうのも理由の一つですよ」
「ハハハ…なるほど、彼女に何か価値を見出したってことね」
「という訳なんで、どうせ処分するっていうなら俺達に彼女をもらえないですかね?」
そっちが有効活用できないっていうんならこっちで面倒みるから寄越せと伝えてみたが…まあかなり無理な要求をしている自覚はある。
まあこの過大な要求自体はこちらの狙いではあるので仕方ないがまあここまで言っておけば死刑位は回避出来るのではないだろうか…。
「粗大ごみじゃないんだからそう簡単にはいかないんだけどね…わかった。時間はかかるかもしれないが全力を尽くそう」
「ありがとうございます!」
「さてここからは、要求とは関係のないこちらからのお願いという奴なのだが聞いてもらえるかな?」
西園寺さんからの要求となると一体どんなものなのかと息を呑む。
「転移石を見つけて欲しい」
「転移石?」
「ああ、今ダンジョンの攻略が進んでいない現状には、深く潜れば潜るほど時間がかかるという点だ、20階層との往復5日以上、これ以上深くなればさらに日数が嵩む、補給が必要な以上どんどん潜るのが辛くなっている」
「まぁ確かに、資材は無限ではないですしね、大人数で移動するって手もありますけどモンスターの事を考えると現実的ではありませんし」
その場合、結局それなりにレベルが高い同行者が必要となってくる。
「そこで転移石ってわけ、以前私達のいた世界には存在したからね。こっち世界ではまだ日本だけではなくて海外でも発見の報告されていない。あちらの世界のダンジョンとの違いがあるとは言え基本ドロップは変わっていないのならば転移石があるはず」
「それがあればどうなるんです?」
「一度行った階層であれば自由に移動できるのよ、これがあれば攻略も進むし安全策にもなる」
「それは便利ですね、しかしそんなどこにあるかもわからない物を探せと?」
「いや、探せという訳では無いの。見つけたら隠さずに提出してほしいってことだけ。君たちは隠し事が多いみたいだから、独占されないようにという予防策って感じかな」
的を射ている意見なので目をそらすしかなかった。
「わかりました、じゃあ日和の件がうまくいった際には、提出させて頂こうかな・・・」
暗に日和の事をなんとかしなければ、その要求は叶わないと遠回しに伝えた。
「食えん男だな、君は」
こちらの意図は伝わったようで西園寺さんは頭を抱えていた。
そんなやりとりもあり今回の事件の顛末としては、成果は上々といった感じだ。
日和に関しても解決できれば完璧といった所だな。




