物件探し(デート)
昨日は、もらった資料とインターネットで近隣の物件情報を調べている間にある程度の目星を付けてから就寝した。
今日は探索もお休みの為、早く起きる必要はないのだが長年の習慣の為、結局早朝に目覚めてしまう。
「さて、今日は色々とやらないといけないからな、気合いを入れるか」
いつも通り朝支度をしていると沙月から連絡が入る。
そのまま沙月と合流し朝食とトレーニングを行う。
「ちょっと緊張してます、うまくいきますかね」
「まぁうまくいかなかったとしても最悪の事態にさえならなければなんとかなるから」
「その最悪の事態が怖いんですけど」
「それだけはさせないようにするから安心してくれ、ってか考えたのはそっちだろ?」
「まぁそうなんですけど、それもこれもアキラさんを信頼しての事ですから」
「全幅の信頼を光栄に思いますよ、まぁなんとかするさ」
それから物件探しに向かう。
「霧崎さんにどこにいくか言わなくていいんですか?」
「まぁこれも試金石な訳だし、今回は、適当にぶらつく感じで」
「そうですね、了解です」
「ここで仕掛けてきてくれると楽なんですけどねぇ」
「ほんとそれ」
ある程度昨日のうちに目星が付いていた物件を周る。
その間も沙月につきまとっている何者かは生命感知のギリギリのラインにずっと張り付いていた。
「この生命感知のせいでこっちの視界に一切入ってこないのが厄介ですね」
「見れれば安全性高まるんだけどなぁ」
「しかし、向こうも慎重ですね、近付いてくる気配すらないです」
「比較的人通りが少ない物件とかも見てるんだけどなぁ、こうなるとやっぱりあそこで仕掛けて来るか」
物件周りに関してはある程度の方向性は標されているが、どこにいくかは完全に運になってしまう為、攫うとしたら逃走ルートの確保とかが大変なんだろうと考えていた。
特に相手が生命感知持ちということを知っている為、背後から近づき不意を付くことすら難しい。
「外で生命感知使うと結構魔力を使うので多用はできないはずなんですけど・・・」
「それだけの人が見張りについてるってことなんでしょ」
「やっぱりモールですかね」
「木を隠すなら森、人を隠すなら人混みってな。仕込みもそっちのほうがしやすいんだろう、今頃準備してるんじゃないか?」
「怖いですねぇ・・・。結構ドキドキしてきました!」
「ちょっと楽しんでるだろ、まぁ下手に緊張するよりずっといいかもな」
そんな話をしながら物件を周るが、やはり近隣の物件は1Rタイプばかりで家賃は補助等を込みでほぼタダみたいな状態ばかりだった。
稼ぐ探索者はあまり家にいないということもあってほとんどが自宅というよりはホテル位の感覚で使ってるそうだ。
郊外の方まで行くと大きな家が増える、どちらかというとこちらは一軒家などが多い。
そして値段がお高い。補助を鑑みても毎月数百万程度が維持費としてかかるようだ。
未だに金を手に入れられてない庶民の感覚としては、手が出せないと感じたが、この問題が解決した場合には、こういった家の方がセキュリティ的にも安心できそうだと感じていた。
その高級住宅街の一角は、入るにもダンジョンに併設されているゲートと同じ物を通る必要がある上、無関係な人間の立ち入りは禁止されている。
やはり高額な物品を多く抱えている探索者、しかも留守が多いとなると警備にもかなり力が入っており、高レベルの探索者などを雇って護衛に使っているらしい。
「将来的にはあの区画の家を借りるのが一番かもな、安心感が違う」
「でも私達のスタイル的には近場の方が便利そうですけど」
「おちおち寝ていられないんじゃ困るだろ?」
「それもそうですね」
一向に向こうから仕掛けてくる気配は無いので途中からは、本気で物件選びを楽しむことになった。
ある程度の物件を巡り、時間は11時。今からモールに戻りいよいよというところだが、仕込みがちゃんと機能しているのかどうか・・・。まぁ何もなければそれはそれでといった感じだがそろそろ隠しておくのも難しくなってくる為、ここで決めたい。
モールに戻ってからは沙月の買い物に付き合う。高校生のデートなんて体験したことも無い為、沙月に引っ張られながら色んな店舗を巡る。
ダンジョン付近は災害の影響が大きかったせいもあるが復興も早かった。ダンジョンを管理する必要があった為だ。このタワーに関しては周辺にまだ瓦礫が残る中真っ先に建設されたこともあってここを中心に開発が進んでいる背景がある。
建設に携わる人間、それに伴う、飲食店、その従業員と人が人を呼びこの周辺は、人の出入りが多く、人口も増え続けている。
そもそも、日本にあるダンジョンは全部で7つ。
関東に2つ、中部に1つ、東北に1つ、四国に1つ、中国に1つ、九州に1つとなっている。
ダンジョン災害を受けて首都機能は、壊滅的打撃を受けたせいもあって被害を受けていなかった北海道に移転している。
関東の被害は甚大で都市主要部は復興を果たしているがまだまだ復興中のエリアも多く存在している。
その為、真っ先に復興されたダンジョン周辺に人々は、集まっている。
その為、このモールも探索者以外にも一般の人も多く買い物にくる為、平日、休日問わず賑わっている。カラオケ、映画、ボウリングなどの施設も備わっている為、遊ぶには事欠かない。
今回は、モール内を移動する必要があった為、沙月にエスコートをお願いしたのだが、行きたかった所を片っ端から回っているようでこれですでに10店舗目を超えていた。
「お昼は大丈夫です?」
「さっきから歩きながら色々摘んでるからな、腹は減ってないぞ」
「そうですか、じゃあ次はあっちです!」
「へいへい」
これは、本当にデートなのだろうか?世の男子高校生はこんな苦労をしているのかと世の男子高校生に尊敬の念を抱きつつ、例の作戦の実行時間が刻一刻と迫っていた。




