対面
沙月とのデートと呼ぶには完全に俺の用事に付き合ってもらった形となってしまったので食堂にて互いに日本の久々の料理に舌鼓をうった。
さすがに戦時中+ダンジョンからモンスターが溢れてくるという厳戒態勢の状況で店がやってないことに文句を言うわけにはいかない。
ってかなんで出版社に人がいたのか…それの方が問題だろとも思ったがどうやら報道関係部門の応援で駆り出されていたそうで一部の役職を持っている人のみ会社に詰めているそうだ。
トレーニングルームが懐かしく感じるほどにはかなりの期間をハワイで過ごしていた訳だが…まぁこういう地道な積み重ねが大事という訳で汗を流している。
そんな事をしているとミレイやカレンもやってきた。
「やっぱりここにいたんですね」
「ほんとに勤勉ですねぇ」
2人に茶化されるも…
「勤勉っていうか習慣だからな…食事を取るのと同じさ」
そんなこんなで3人でトレーニングルームで汗を流す。
訓練がてらルームランナーでのフルマラソンモード順位を競ったのだが俺の圧勝だったので2人にジュースを奢ってもらった。
探索者仕様の特製のルームランナーらしいが時速60kmまで対応しているがその速度を一定で出すのが難しいといっていたのでちょっと身体の使い方のアドバイスをしつつも本日は解散となった。
ちなみに2人の出かけた先はお墓参りだったそうで色々と報告をして帰ってきたそうだ。
そんなこんなで翌日、ようやく新しいメンバーと対面することとなった。
本当に当初の予定では到着日に会う予定だったのというのに予定通りとはいかないものだなと改めて思いつつも部屋で待っていると…。
部屋の扉が開いて確かアリスさんだっただろうかの後ろに続いて俯き気味で小さな女の…子!?
そこには先日、母の漫画の特設コーナーで見かけた少女と呼ぶには規格外なモノを持っていた女性が付いて来ていた。
「ええと彼女がそうですか?」
ミレイがアリスへと質問を投げる。
「そうです。彼らがええと彼女達があなたを加入させたいといっていたパーティの方たちです」
アリスさんのその言葉で女性は顔を上げる。
「あ…天野アカネです…よろしくお願いします…」
俺としてはVチューバーのアカツキアカネを想像していたので彼女の今の様子は印象にかなり齟齬があった。
恥ずかしがっているのかこちらの目を見て話せずにいる少女の方をじっと見る。
しかし俺と目が合った瞬間にその様子は一変した。
こちらに駆け寄ってきて俺の手を取る。
「えっ!?」
突然の出来事に反応が遅れた。
「あなたが!!!!暁アキラさんですか!!!!」
先程まで怯えはどこに消えたのだろうかとんでもない声量を発しつつ俺の顔の目の前に彼女の顔があった。
「ああ…確かに言われてみるとお母様に似ていらっしゃいますね!整った骨格と綺麗なラインの鼻!そしてこの何者をも魅了したと呼ばれた魅惑の切れ長な目!!!!素晴らしいです!あの糞男の要素を完全排除したような造形に感謝ですね」
早口でまくり立てられたがどうやら俺の事はすでに調べていたようだ。
いや、そもそも知っていたのだろうか…。
俺の重大な秘密にまで踏み込んでいた。
「ああ、失礼しました!」
俺の手を離し手を合わせて頭を下げる。
「暁先生の事を調べていた時に色々と知ってしまいまして…踏み込まれたくないことだと思いましたがそれに関しては心配無用ですとお伝えしたかったのですが先走ってしまいました」
この感じはVチューバーの印象とぴったり一致したのでどうやらこれが彼女の素なのだろう。
全員が彼女の勢いに圧倒されて黙っていると…
「何分感情に任せるといろいろ止まらない性格でして…これだけはお伝えしたく…不本意だったかと思いますがあなたの父親及びあなたの母親を殺すに至ったクソ野郎共は全員制裁してしまいました」
その言葉に俺が固まっていると沙月が補足を行う。
「その制裁こそが彼女がハワイに来るのを急いでいた理由とアキラさんに彼女を見定めてほしかった理由です」
そう昨日、沙月には彼女のことについての判断を委ねられていた。
きっぱりと沙月が加入させると言っていたので俺が何かを言うつもりはなかった。
そもそも彼女を見つけて沙月に勧めたのは俺である。
なのに沙月は彼女を見定めた上で判断して欲しいと言ってきた。
どうやらこの暴走機関車のような彼女を認めるかどうかという話だ。
「そうか…」
「加えてのお話になりますが以前勤めていたお勤め先もすべて倒産しております。あなたをどうやら手元において管理したかったようであなたの就職先はすべて彼らの関連企業でしたので」
その話を聞いて少し合点がいった点もあった。
変な悪目立ちをした上に学歴もなく魔力もなかった俺が就職できたのは倒産間近の企業や時代に取り残されたような企業がほとんどであった。
そんな状態であっても働いてからしばらくもっと良いところに転職をしようと思った事がなかった訳ではなかった。
しかし、普通の企業への就職は基本的に応募段階で弾かれてしまいそれは叶わなかった。
「ある程度の年数を働かせてまた別業種に送って使い潰そうとしてたみたいですね…全く恐ろしく地味な嫌がらせではありますが這い上がるチャンスを持たせない為には良い手だったみたいですね」
日々に絶望してただ生きるだけだったあの時の俺を思えばその策略は実に効果的だったと言わざるを得ない。
「という訳で関連企業諸共葬ってしまいました。勝手な事をしてすいませんでした!!!」
そういって深々と頭を下げて謝罪するアカネさんだったが男の本能だろうか上下に揺れる塊に目がいってしまう自分に少し嫌悪しつつ自分の中の感情を整理する。
母の仇…いやそれは母自身が行っている。
何より母を殺したのは俺であり原因を作った相手への復讐心はそのまま自分への罪悪感となっていたからだろうか…そこまで何かを思う事はなかった。
「そっか…」
それが俺の口から自然に漏れた言葉であった。
実にあっけなくそして興味も沸かない…そうか本当に気にしてなかったというより眼中に入れてもいなかったことに自身の口から漏れたその一言で悟ってしまった。




