無理難題
工作員を片付けた俺達は国境付近にやってきていた。
沙月のおかげでほぼ危機は去ったと言っていいのだが…。
「シトリーあれは本当にこっちに来ないんだよな…」
「ええ、そうなってるはずよ」
ロシアと国境を接している日本側から見ると、目と鼻の先もっと言えば見える範囲でモンスターが暴れているのを見るのは非常に不安になる所である。
「こっちに来ないとは言え不安な光景だな」
そんな話をしていると沙月がなにやら電話を受けた。
気まずそうな顔をしているので良い連絡ではないようだ。
「西園寺さんから連絡があったのですが…あちらの国にいるエルフの保護を頼めないかと言われました」
難しい顔をしながら俺達に伝える沙月。
「エルフはそもそも狙われないんじゃなかったか?」
シトリーに尋ねる。
「まぁ元々人を優先で狙わない事にはなってるし…エルフは特に保護対象のはずだけど?」
エルフはダンジョンから派遣されている関係上さらに保護がキツイと言っていたので心配していなかったのだが…。
「どうやらその保護を利用してエルフを盾にして立て籠もってるらしく…」
「マジかよ…」
「自国が酷い状況になってるので色々余裕がないみたいです」
人を狙わないとは言っても大きな建築物などは優先で破壊されているみたいであちらは凄惨な状況らしい。
「そこまでする義理はないと思うが?」
そんな場所に向かいたくないというのが本音だし沙月を危険な目に合わせたくなかった。
「その通りなんですが…何かの拍子にエルフが殺害された場合に世界中の魔石を使った施設が活動を停止するんですよ…」
「マジかよ…」
「これは国家機密にあたるので一般の人は知らないんですけど今は盾として活用されてますけど何かあったらまずいんですよ」
その前提条件だと色々と変わってくる。
難しい顔をしている沙月にとってはこの状況が本当に予想外な事がわかる。
沙月が深く呼吸してから口を開いた。
「救出自体は恐らく問題ありません…主要の探索者はモンスター討伐に出払っていて盾にして立て籠もってるのは権力者達なので戦力にはなりません…」
確かにその状況であれば俺達で乗り込めば何も問題はないだろう。
「しかし問題は3つあります。まずひとつは国の状況です、この国難に対して対処する指導者の不在によって完全に混乱状態です」
指導者、先導者の不在というのは大きく現状のロシアは完全にパニック状態で個々で皆が勝手に動いている状況だというのは想像に難しくない。
そんな中での活動は何が起こるかわからない。
「2つ目は、モンスターです。国中を跋扈しているモンスター達の強さは通常のダンジョンのモンスターよりも強く私たちでも対処ができない可能性があります」
ダンジョンから溢れ出たモンスターは俺達がいつも戦っているモンスター達よりも強化されているとシトリーが言っていた。
そんなモンスターが国中を破壊し回っている…不安しかない。
「3つ目は、私たちの状況が十全じゃないことです」
そう実はこれが一番の問題だったりする。
いくら俺達が強くなったとはいってもそれはスキルによる所が大きい。
そのスキルのほとんどが地上では使用することが出来ない。
そんな状況下での救出活動…やはり難しい。
「この3つの問題は踏まえてリスクを考えた上でこの作戦を実行します」
どうやら沙月はすでに覚悟を完了していたようだ。
「皆さんを危険に晒してしまって申し訳ないのですが協力頂けませんか…」
その顔には有無を言わせない強みがあった。
全員がその覚悟に納得した上で作戦の決行を決断した。
そして近くまで運んでもらう為にまた輸送機に乗り込む。
普通なら迎撃されてしまうがこの混乱状態であれば問題はない。
隣に座った沙月に声をかける。
「何かあったか?」
沙月の様子からしてインフラが崩壊する以外にも何かあるのではと思わずにはいられなかった。
「バレちゃいましたか…危険を起こしても叶えたい事がありましてそれにインフラを崩壊される訳にもいきませんので…」
そういって笑う沙月だったが目は笑ってはいなかった。
恐らく俺達を危険に晒す事に葛藤があるのだろう…複雑な表情をしていた。
「気にするなとは言わない…言っても気にするだろうからな、それでも俺の命をベットするのに躊躇いはいらない」
「えっ…」
「それにミレイ達のこともお前の事も俺が必ず無事に帰してやるから心配すんな」
そういって沙月の頭を撫でた。
まだまだ高校生の子供だ…責任を背負わせてしまっていることを悪いと思う。
だからこそ安心させてやりたかった。
「はぁ…ほんとにズルいなぁ…欲しい時に欲しい言葉をくれるんだから…」
何か呟いていたが発進時の音も相まって聞き取る事は出来なかった。
「何かいったか?」
「いえ、この女たらしっていっただけです」
「ひっど!」
そんなやりとりをしながら出発した先はロシアの首都モスクワ。
ロシアの防衛システムは完全に崩壊していたようでここまでは何の問題もなく来れた。
途中でドラゴン型のモンスターと遭遇したがこちらには目をくれなかった。
以前はこんな長距離を飛行することは出来なかったのでが魔石のおかげで基本的には燃料補給する必要が無くなったのでここまで一気に飛んでくる事が出来た。
「ダンジョン以前では10時間以上かかってたんですけどね…」
と沙月が呟く。
北海道からモスクワまで飛行時間は5時間弱だった。
「技術の進歩ってすげーな」
それもこれもダンジョンによる技術革命のおかげだ。
上空はそれほどだったのだが空港などの主要施設はモンスターに寄る被害が大きくさすがに着陸することはできなかったので前回と同じように降下する。
「帰りはなんとかするのでこのまま戻ってください」
「了解です!」
ここまで連れてきてくれた自衛隊の方に感謝しつつ上空から降下する。
2人もレベル30の探索者らしいので最悪の自体が起こったとしても恐らく無事に帰れるだろうと思われる。
さすが平均レベルが高いと言われる日本である。
自衛隊と警察が総動員でダンジョンの警戒に当たっているそうだがそれでも尚、これだけの人材がいるのだからさすがである。
(帰りは歩きかぁ)
(まぁ目と鼻の先ですし最悪飛んで渡れると思いますよ)
とミレイが補足した。
降下した地点から目標地は目と鼻の距離だが、ここから日本までの距離を考えるとかなりげんなりする。
(ダンジョンがあるなら私のスキル使えば帰れますよ)
(その手があったか)
救出するエルフの人数は一人なので俺達4人と合わせてカレンのスキルで移動することは可能だ。
(それはいいかもですね)
3日のクールタイムがあるが最悪ダンジョンに籠っていれば色々な問題はクリア出来る。
なんなら地上よりも安全かもしれない。
そんなやりとりをしつつも目的地の近くまで到着した。
周りの建造物などは破壊されているにも関わらず、無事を保っている高層ビルの異質さにここが目的地だと改めて認識した。




