再受講試験
探索者登録センターは日本各地に存在する、探索者登録する為の講習と実地訓練を行う施設だ。
市役所と隣接されていることが多い。
3度目となると慣れたもので受付の場所に向かう。
「再受講です、よろしくおねがいします」
そういって書類を提出した。
「かしこまりました。番号札でお呼びしますのでこちらを持ってお待ち下さい」
渡されたのは2番、自分の前に誰かいるようだ。そう思い見渡してみると若い女の子が一人緊張した面持ちで座っていた。
(初めてっぽいなぁまぁこれで人生決まるようなもんだしなぁ気持ちはわかる)
普段ならこんなことはしないが無職になって身軽になったこともあって話かけてみようと思った。
「初めての受講?」
「えっあっはい、そうです」
声をかけられてびっくりしたのか慌て気味に返事をした。
返事に合わせて隣に座る。
「初めては緊張するよねー。あっ因みにナンパとかじゃないよ、緊張してたみたいだから経験者として声かけただけ」
「えっそうですね、みんなで一緒に受ける予定だったんだけど病気で受けれなくって一人で受けることになっちゃって・・・えっあれ経験者?」
途中で気付いたようで経験者の部分に反応していた。
「そう魔力無しでさ、三度目なんだ。まいっちゃうよ。まぁでも魔力なしでも生きてはいるからさ、気楽に受ければいいさ。どうせ100人に1人なんてそうそう当たるもんでもないさ」
「あっいや、ごめんなさい、あの・・・」
「気にしなくても大丈夫だよ、慣れてるから。それにほら100人に1人がここにいるんだから君は大丈夫さ、気楽にいっといで」
そうこうしてるうちに番号1番が呼ばれた
女の子は驚いたように立ち上がった。
「ほらいっといで」
そういって女の子の背中を叩いた。
押された女の子は受付に向かいながら振り返った。
「ありがとうございます!ちょっと落ち着きました」
お辞儀をしながら向かっていった。
少し待っても女の子は戻ってこなかった。
「無事に受かったようだな」
そう、魔力有りだとこちらの部屋には戻ってこない。
戻ってくるのは魔力無しだけだ。
励ました手前魔力無しだとバツが悪かったが、これなら安心して自分の測定に向かえる。
そうこうしてるうちに2番の番号が呼ばれる、少し時間がかかったように思えた。
もしかしたらという気持ちがなくはないが過度な期待は裏切られた時のショックが大きい、ほどほどな期待が一番だ。
魔力測定は特殊な魔石によって行われる、鑑定石と言われる魔石で触った者の魔力に応じて光る。
魔力なしの場合は光らない。
ちなみに、魔力持ちだけど受講試験を受けてない人間が魔石に触った場合は、魔力無しと同じ反応が出る。
仕組みに関しては詳しくは無いのだが一度魔力を取り込まないといけないそうで魔力持ちの場合は、鑑定石にふれることで最適化される。
魔力が無い者は、鑑定石に触れて魔力が流れこんだとしても器が無い状態ではすべて流れ出てしまい意味を為さない。
部屋にはいると試験官が3人いた。そのうちの一人が
「どうぞ、こちらの石に触れてください」
石は占い師が使っているような水晶玉のようになっていて盗んだりできないように厳重に固定されている。
こちらは経験者だが、向こうは誰にでも同じ案内をしているのだろう。しかし3人もいるとは珍しい普段は一人だけの場合が多い。
そして3度目となる鑑定石に触れる。どうせ光らない・・・そう思っていたが
鑑定石は発光した。
それは魔力がない人間には現れない現象だった。
「えっ!?これは…」
「おお、再受講で光るとは珍しいですね。魔力量はEですね、奥の部屋にお進みください」
Eは魔力量としては最低値ではあるが、魔力無しとは雲泥の差である。なぜなら魔力を持っているのだから・・・魔力があるのであればダンジョンへ入ることも魔石関係の仕事に就くことも可能なので魔力無しとは別ものなのだ。
再受講で光る者は0ではないがそれは世界でも100人に満たない、日本に限れば3人だけだ。
つまり日本では4人目の再受講での魔力持ちになった事例となった。
奥の部屋に案内されたのは初めてだった為、さっきまでの余裕がなくなりお登りさんのような気分で扉を通る。
そこには先程の女の子がいた。こちらに気付くと女の子はこちらに近付いてきた。
「あっお兄さんも受かったんですね!よかったです!」
本心から喜んでいるようで、さっきまでの不安そうな顔は嘘のような笑顔を浮かべていた。
「ああ、受かると思ってなかったからビクビクしてる…。今度はこっちが緊張でどうにかなりそうだ…」
先程までの余裕のあるお兄さんムーブがどこかにいってしまった、こんなことなら先輩風を吹かすんじゃなかったと後悔していた。
「大丈夫ですよ。ここまで来ちゃえばあとはスキル検査だけですから、そこまで緊張する必要はないです」
そう、ここまで来てしまえば資格自体は取得できる。
あとは固有スキルの確認だけである。
固有スキルとは、魔力を持つものに与えられる特殊能力みたいなものである。
固有スキルの種類は多岐に渡り戦闘系から生産系、魔法系と人によって千差万別である。
普通のスキル自体はあとからも取得可能だが固有スキルは特殊な効果の物が多く、固有スキルによって今後の進路を決める者も多い。
その為、受講条件である18歳になる年に入ったらすぐに受けにくる者が多い。
1月~3月までは受講する人が多いが4月以降はかなり少ない。
固有スキルが生産系なら活かせる職業に、戦闘系ならダンジョンに潜る者もいる。
ただ、戦闘系の固有スキルを得た者でもダンジョンに潜る者はその中でも限られた者だけである。ダンジョンには魔石等のお金になる物だけじゃなくモンスターといわれる怪物達がいる。
モンスター達は例外なくダンジョンに侵入する人間を襲う。個体は色々な種類が存在し狼のようなものからゲームで登場するスライムまでダンジョンの奥にはドラゴンすらいるとのことだ。
それらと戦うのは一般人には難しい者も多く、戦闘系のスキルを得てもダンジョンに潜らないものは多くいる。その一方で大きく稼ぐことも可能なダンジョンへ潜る者もおり、そういった者こそ本当に職業として探索者と呼ばれる者達だ。
話が逸れたがここでわかる固有スキルは一生を左右するものではあるが、それに絶対従う必要はない。
あくまでこういう才能があるがその道に進むかどうかは自分で決める事が可能だ。
そういう意味ではここでのスキル鑑定はそこまで重要なものではない。もちろんダンジョンドリームを夢見るダンジョンに潜る者にはここで得られるスキルで一生の稼ぎが変わると言っても過言ではないほど重要な物ではあるのだが…まぁずっと魔力無しとして過ごしてきた自分には関係のないことだとおもっていた。